こんにちは、押田です。先週からよく雨が降ります。お盆明けからこの時期、これだけ雨が続くのもあまり記憶にありません。
「なぜ、庭をつくるのか?」
造園家の間でよく、議論される問いかけです。
造園家はストイックな方が多く、それぞれの方が自問自答しながら、そしてこの答えを探しながら庭づくりに一生涯を捧げます。
「なぜ、庭をつくるのか?」とても難しい問いかけです。
しかしながら、最近自分の中で答えが見えてきた気がしました。
先週の大雨の中、施工した深谷市K宅の庭づくりの様子をご紹介します。
9月9日、着工2日目。
台風の影響でかなり激しい雨でした。
こんな日にわざわざ仕事をすることもないのですが、このK宅の雨水の動きを確かめたかったため、
この日現場に向かいました。
施工前のK宅。
30代の夫婦に幼い子供が2人。
完成したばかりの新居は、地元でも有名な一般的な住宅メーカーの施工です。
前庭の面積は7m×14mほど。駐車スペースを2台とると、庭のスペースは7m×7mほど。
施工金額は(あまり詳しい金額は公表できませんが・・)、50万~100万円。
都市部の住宅地と比べると、広い庭かもしれませんが、埼玉県北部では一般的な広さかもしれません。
ここのご主人は、私の施工した庭やHPを見てのご依頼でした。
*木々に囲まれて暮らしたい。
*庭でバーベキューがしたい。
*木にハンモックをかけて寝るのが夢・・・。
打ち合わせ時、庭への思いを語るアウトドア思考のご主人、僕もお話をしながらとても共感しました。
工事を開始し、すぐに木を植えたいところですが、大きな問題がありました。
水脈の問題です。
元々はおそらく畑だったのでしょうか。
写真左側は土。
右側は玄関前、そこに砕石が盛ってありました。
ここは雨が降ると、とても土がぬかってしまう。もうぐちゃぐちゃです。
住宅施工会社も、苦肉の策で、砕石を敷いたのでしょうか。
このスペースに普段はご主人と、奥さんの車を横に2台置いています。
雨が降ると、こんな状態。何とかしたいと思います。
早く木を植えたい気持ちを抑えつつ、どうすれば良いのかを考えます。
こんな場所、一般的な改善できるか方法は、土が乾いた頃、5cmほど土を漉きとって、砕石を敷く。
おそらく一時的に改善はできるでしょう。
でも、根本的な原因は何か?
私が考えるに、ここの原因は、水脈の詰まりです。
建物際などから流れてきた水が、このコンクリートの側溝の厚い壁で、ブロックしてしまう。
水の逃げ場がないということです。
これは一般的な住宅で見られる雨水枡。
蓋を開けてみると、屋根から降りてきた水がここに集まり、土の下に少し浸透し、溢れた水が、塩ビ管を通って、流れていきます。
この水の終着地点です。先程の、道路の脇、コンクリート側溝の横でした。
少し深い穴が掘ってありましたが、おそらくこの水もコンクリート側溝の厚い壁で水の逃げ場を失っています。
ここは、このコンクリート側溝と、ネットフェンスの土台の化粧ブロックと、そのコンクリート基礎。
地形的にも、角の電柱付近に水が集まり、逃げ場を失っているようです。
もうこうなったら、コンクリート側溝に穴を開けさせてもらうしかありません。
そして、水を逃がしてあげるしかありません。
そして、本来の水脈を少しでも取り戻してあげたいものです。
この道路の反対側は、大きなお寺があり、大きな大木が何本も。しかも比較的樹勢は良好です。
大きな木があるということは、大きく深い根があるということ。
樹木の根っこはたくさんの雨水を吸います。その力はコンクリート側溝のレベルではありません。
この道路の下、きっと、大きな樹木の根っこも侵入していることと推測します。
つまり、道路を挟んで、お寺側とこちらの建物側、地下深くの水脈は繋がっているということなんです。
平面的ではなく、立体的な視点が持てたのは、大地の再生の矢野智徳さんの水脈、気脈の考え方を知ったからです。
この敷地の角地、電柱付近を掘ってみます。
駐車場から、庭の方向へも水脈の溝を掘ります。
コンクリート側溝の横を掘ると、すぐに水が溜まります。
できるだけ深く掘り、水が抜けるポイント、隣のお寺の水脈と繋がるようになるところまで掘り進めます。
コンクリート側溝の際も掘ってみます。厚いコンクリートの壁がありました。
こんなに大雨なのに、掘った土は乾いています。
つまり、水が全く浸透していないということ。水脈が詰まっている証拠です。
コンクリート側溝に少し穴を開けさせてもらって、透水管を通します。
この土地から出たコンクリガラや石ころはここで使用します。
通気改善、土壌改良の効果が高い竹炭も混ぜていきます。
そして、乾燥した木の枝も投入。
透水管を入れて、砕石を戻すだけでは、一般的な現代土木のやり方と変わりありません。
透水管と砕石だけでは、いずれ詰まってしまいます。
炭をいれ、木の枝を敷いていく。
最終的には、この付近に木や草の根っこの侵入を促します。
樹木の根は、よく樹冠の下(横に伸びる枝葉の先端付近)くらいしかないといわれますが、実はそうではありません。
樹木の根は、横へ横へとどんどん伸びていきます。
これから庭に植える樹木の根がこの透水管付近に侵入し、この根っこが雨水を吸い、永続的な水脈を作っていく。
気の遠くなるような話ですが、現在の私の考えでは、これで良いのかと考えています。
翌、10日も雨が降りましたが、なんとか水脈を仕上げ、9月11日。
ようやく天気も回復、駐車場も水が完全に抜けていました。
朝イチから、トラックで入っても全然問題なし。
滞っていた水が動き出したようです。
大雨の中の過酷な水脈改善作業も成果が出たようです。
ここでようやく植栽作業に入ります。
まずは1本目のシラカシ。
ここの土は悪くはありません。
表土の数十センチは造成した残土がありましたが、その下は既存の畑土。
できるだけ深く掘り返しながら、硬くなった土をほぐします。
堆肥や竹炭、タテヤマユーキなど、いつもの土壌改良材を投入しながら、土壌を再生させていきます。
土が悪いからといって、良い土に入れ替えても、その残土はどこにも行き場がありません。
やはり、そこにあるものを使う、あるものを再生させていくということが重要だと思います。
重機でも穴を掘りのが大変なほど、土は硬くなっていました。
この黄色のユンボ(重機)が1.2トン。写真にはありませんでしたが、2.2トンのユンボで穴を深く掘り、土を耕しました。
樹木がほぼ植え終わりました。
次はまた、水脈、気脈の改善です。
大地から突き出た竹筒は、コナラの鉢の下まで通っています。
この竹から、地上の空気と水がコナラの根っこの下の方まで行き渡ります。
樹木医さんもよく行う、樹木の生育を良くする方法です。
植栽地に沿って水脈の溝を掘っていきます。
穴を掘ったら、炭を入れて、途中2mおきくらいに縦穴を掘ります。
縦穴は50~60cmくらい掘りました。
平面だけでなく縦方向に穴をあけることで、空気と水の流れが立体的に動く。
もちろん、ここでも水が抜ける。
植物にとって、土中の空気と水の流れを停滞させずに、良好にすることはとても大切です。
これは、根の生育、そしてもちろん樹木が元気に育つには欠かせないものなのです。
こんな穴です。
ここに竹炭や、枯れ枝を縦方向に入れ、
最後に、枝葉を入れます。
穴の下部は荒い枝、上に行くにしたがい、細かい枝葉に。
この枝は、ここで剪定したもの。
これは、切りたてなので、完熟するにつれ、ガスが出ます。
枝葉を野積みしていると、よく煙が出ていることがありますが、このガスです。
こういった生の枝は、根の近くではないほうが良さそうです。
しかしながら、ここで剪定した枝も使ってしまう。
矢野さんや、高田造園さんのやり方を見て、自分もやってみました。
そして、水脈の溝は竹炭を入れ、枯れ木の枝を流していきます。
竹炭をよく使いますが、これがいいんです。
日本人は昔から、竹炭や木炭をつくり、畑にまいたり、除湿をするため、床下に敷いたりしてきました。
保水性、通気性、透水性などを高め、土壌改良材としても、堆肥とともに、最高のものだと思います。
しかし、なかなか手に入りません。
なぜか?
おそらく、需要がないためだと思います。
もっともっと多くの方が炭を使えば、お求めやすくなるのだと思います。
そして、日本中の荒れた竹林や、材木も多少ではあっても使用するようになることと思います。
ちなみにうちの場合は、自社で竹炭を作っています。
最後は、木材のチップを入れ、植栽地の水脈が完成です。
普通はこんな手間がかかること、やらないと思います。
時間もかかるし、お金もかかる。
自分も以前はここまではやりませんでした。
大雨の中の、水脈工事から始まり、土壌改良、そして、植栽地周りの水脈づくり。
なぜ、ここまでやる必要があるのか?
答えは、「樹木が元気に育つ」からです。
現代の一般的な造成された宅地は、ほとんど全てといっていいほど、水脈、気脈が詰まっています。
道路の周りはコンクリートの側溝があり、隣地との境も、コンクリートブロック、コンクリート基礎。
もちろん建物もコンクリートの基礎。
よく考えると家の周りは、コンクリートだらけです。
川の堤防もコンクリート、海の堤防ももちろんコンクリート。
コンクリートの良さももちろんありますが、自然の力をコンクリートでは操作できないし、もちろん制圧できません。
コンクリートの長所でもあり欠点は、空気と水を通さないということです。
例えていうならば、盆栽の鉢。
土が原料の素焼きの鉢ならば、空気と水が適度に抜ける、鉢が呼吸をしている訳です。
しかし、空気と水を通さない、プラスチック製の鉢ならば、安くて扱いやすい利点もあるが、根の周りは空気が通らない。呼吸ができない。
植木鉢なので下穴が開いているため、生育はするが、素焼きの鉢のほうが断然生育が良い。
単純に、樹木が健康に生育するためには、空気と水の流れを良好にすることが、とても大事なことなのです。
また、樹木が健康に育つということは、もちろん倒木もしないし、害虫もほとんど発生しないため、消毒もしない。植栽管理も無農薬!
さて、植栽工事も仕上げにはいります。
今回、この庭の中とアプローチが重なっています。
この木々の中を通って、玄関へと向かう仕組み。
毎日この中を歩く、ということになります。
これはとても気持ちが良いのですが、人が歩くことによって、
土が踏み固められる、という欠点もあります。
土が硬くなれば、もちろん水脈、気脈が詰まり樹木の生育も悪くなります。
そこで、今回、枯れ枝を一面に敷くことにしました。
特に踏まれたくない2本の大きなコナラの周りは、枝も多めに敷いてみました。
仕上げは、山砂。
水もはけるので、よく使用しています。
どうしても山砂だけだと、やはり地面が硬くなるので、 落ち葉や枯れ枝を混ぜてみました。
これにより、山砂の間に隙間ができ、枯れ枝が地面のクッションのような役割を果たす。
根の生育を考えた、苦肉の策です!
植栽地の仕上げは、こちらも落ち葉や枯れ枝を敷く。
これがとても良い。
利点は3つ。
まず、土壌の乾燥を防ぐ。
次に、草の発生も防ぐ。
そして、土壌に良い。
よく考えると、雑木林の中や森に行くと、地面はこんな状態だと思う。
この中にはたくさんの生き物がいて、土壌もふかふかだ。
今は、ここには生き物はいないが、この状態を目指す。
地面も仕上がりました。
歩くと、枝を踏む音がして、心地よい。なんだか、森の中を歩いているようだ。
山の砂と、落ち葉や枯れ枝を混ぜている訳なので、合わないわけがない。
ここもいずれは、生き物が生息し、土の香りがするようになればいいな、と。
自然の中で遊ぶことが少なくなった今の小さい子供たちにも、森の中を歩く感覚を是非、体感してほしいと思う。
自分もこんなところを裸足で歩いてみたい!と思ってしまいました。
最後に枕木のポストを設置し、完成です。
植栽のメインは大きなコナラが2本。山桜が1本。
あとは、外周の植栽。南面のみ、焼き板仕上げの木柵もつくりました。
駐車場を2台分、そこから、アプローチ。
木立の中を歩きながら、エントランスへ向かう。
歩くと、少しやわらかくとても気持ち良い。
茶色の箱は「落ち葉ストック」
落ち葉はストックし、ここで堆肥化させる。
この庭は、いずれは、地面をデッキにすることを提案しました。
やはりどうしても毎日同じ場所の木の根を踏まれることは、あまり良くはありません。
庭全体をデッキにすることで、そこが改善されます。
自然の中には無駄なものなんてありません。
全てが土に還り、そして循環をする。
そんな当たり前のことも今では忘れ去られてしまいそうです。
なぜ、庭をつくるのか?
現代の限られた住宅環境をいかに心地よい住まいにできるか。
今、そこにある自然環境をどれだけ再生することができるか。
そして、子供たちの未来をどれだけ豊かなものにできるか。
木を植え、水脈、気脈を良好にしていく。
見せかけではない、本物の自然環境をどれだけ再生できるか。
自然の摂理に従い、植栽を行えば結果的に景観も美しくなるもの。
やはり、人間の生活は自然の中で生活してこそ豊かなものになります。
奥に見える、大きな木々とこちらの木々。
これらが繋がった時、この土地の水脈や気脈も再生されるように思います。
僕が庭を作る意味というのが、今回の現場で少しわかった気がしました。
木の下でハンモック、僕もやってみたいですね!