N1105O-84 | chuang26のブログ

chuang26のブログ

ブログの説明を入力します。

アルネリア教会襲撃、その12~戦い終わって~

***

 場面は深緑宮に戻る。襲撃者達が撤退した後すぐにミリアザールは全体指揮に戻り、戦死・けが人の報告、配置の変更、復旧作業、市への対外処置などてきぱきと業務をこなしていった。さすがのサボリ魔ミリアザールも、こういうときには指導者としての力と才能をいかんなく発揮する。
 もっとも大司教と決められた近衛以外には顔を見せることのない彼女であったから、指示はおおよそアルベルト、マナディル、ドライドを通して伝えられる。その様子を見ていたジェイクはいつもと違うミリアザールにとまどいを覚えた。ジェイクにとってのミリアザールは世話になる恩のある相手であると同時に、からかいがいのある遊び相手くらいの認識だったのだ。
モノグラム ヴィトン
 一方こちらは負傷したベリアーチェを見舞いにきた
ヴィトン アクセサリー

louis vuitton japanラファティ。仕事の合間にこっそり抜け出してきているのだ。ロクサーヌの方はかなりの重症だったのでシスター達がつきっきりで回復魔術を使い、現在は容体が落ち着いている。
 一方、比較的軽症だったベリアーチェはそのまま経過を見ることになった。実はアルネリア教では、無駄に回復魔術は使わないことになっている。体の治癒機能を強制的に亢進させる回復魔術は、過ぎれば体に毒になることが長年の実戦において証明されたせいである。ともあれベリアーチェは簡単な回復魔術だけで、後は数日安静にしておけば元通りだろうということだった。
 まあ要は大したことはないのだが、ラファティは愛妻家として有名であり、本音を言ってしまうとベリアーチェの容体は関係なく、本心を語ってしまうと自分の妻の顔が見たいだけだった。

「あなた・・・よくぞ御無事で」
「君こそ。大事なくてよかった」
「まあ、当然ですわ。ラザール家の次男、ラファティの妻ですのよ? そんなにやわな鍛え方はしておりません!」
「全く、君は昔からこれだな。子どもができれば少しは大人しくなるかと思ったが、ますます強くなったんじゃないか?」
「当然ですわ。『母は強し』ですのよ? でも・・・」
「でも?」
「あなたの前では・・・一人の女性でいさせてください」
「ベリアーチェ・・・」
「ラファティ・・・」

 2人がぎゅっと手をつなぎ見つめ合う。隣には看病をしているシスターがいたのだが、いたたまれなくなって赤面しながらぱたぱたと走って逃げて行った。だがそんなシスターの行動にもおかまいなくいちゃつく2人。

「あなた・・・お願いがあるの」
「君の頼みなら何でも」
「まあ! ではピレボスの山頂にしか生えないといわれる、オルネカの花が欲しいと言ったらどうするの?」
「いますぐ取って来て、君の頭に飾って見せよう」
「ふふふ、嬉しいわ。でもそんな難しいお願いじゃなくてね・・・私もう1人子どもが欲しいの」
「ジャスティンは生まれたばかりだけど?」
「だからなの。ジャスティンを見てたらもう1人欲しくなって・・・ダメ?」
「駄目じゃないさ。実は僕も同じことを考えていた。やはり僕達はそういう星の元に生まれた2人らしい。いつも一緒に、死ぬまで仲睦まじく過ごす運命なのさ」
「ああ、あなた・・・」
「愛しの君よ・・・」
「『なーにが愛しの君よ』じゃあ! 仕事せんかい!!」

 ぱかーん! とラファティの頭を下履きで叩く快音が部屋に響き渡り、ラファティがミリアザールに引きずられていく。だがそれでもめげない2人はお互いに見つめ合いながら手を振っている。ミリアザールはそんな2人を見ながらイライラして、吐き捨てるように言い放つ。

「こんのバカップル共め! 貴様、ワシの近衛になった時に立てた誓いを忘れたか?」
「さあ・・・」
「『私は恋などいたしません、人生の全ては剣に捧げました』じゃぞ? その舌の根も乾かないうちに、1年以内にはベリアーチェといちゃつきよってからに・・・見とるこっちが恥ずかしくなるわ!」
「それもまた運命」
「何かっこよさげにまとめようとしておるか、ちゃんと先に仕事しとったらここまで言わんわ! 貴様らが最初に出会った時になんと言ってケンカしたか忘れたか? 『この魚!』と『何よ、ちんちくりん!』じゃぞ!?」
「そのようなことは私達の愛の前では些細なこと」
「ひいい・・・この天然たらしが、変なさぶいぼが出るわ! 貴様は深緑宮の外で大隊長共の報告を聞いてこい!!」

 げしっと外にラファティを蹴りだし、深緑宮内の私室に戻るミリアザール。大戦期を生き抜いた彼女にとって戦争処理など慣れた物で、彼女が本気で仕事をすれば一瞬で片付いてしまう。とういうことで襲撃から1時間も経たず一通りやることを終え、後は報告を待つのみとなっている。その状態で椅子に深く腰掛け一見リラックスして見えるミリアザール。だがその目は緊張しており、唐突にくるりと横を振り向くと、何も無い空間に向かって話しかける。

「おるのじゃろう、ミナール。報告を聞こう」
「は・・・」

 何も無い空間から男が姿を現す。3人の大司教最後の一人であるミナール本人だった。痩身の小男でお世辞にも美男子とは言えず、むしろ特徴のない凡庸な容姿である。特に威厳があるわけでもなく、纏う雰囲気さえその辺の市民と変わらない。だがむしろ彼はそうあるように努力しているのであり、それこそが彼の望んでいる自分の姿であった。 
 彼はマナディルやドライドとは違い、日蔭者であることを好んだ。時には市民や下級僧侶の恰好に扮し、下の者の生の声を聞くため潜伏したりもする。いわゆる隠密業務が彼の仕事であるのだが、そんな彼を大司教に抜擢したのは他ならぬミリアザールであり、彼に一定以上の権限を与えることでミナールの仕事をやりやすくしたのだった。だが知力では他の2人をゆうに凌ぐミナールであり、実際に彼の魔術試験は歴代でも最高クラスの結果を残している。加えて彼の知識欲はアルネリア教会内にとどまらず、魔術教会にもおよび、いくらかの魔術をも治めている。それはアルネリア教では背信行為にあたるが、そうと知りつつミリアザールは黙認した。彼に代わる役目を果たせる者がいなかったからである。
 そのようなミナールに権力を与えることは危険なことでもあったが、同時に彼の働きで余計なもめごとが事前に察知できたのは1度や2度ではない。ミリアザールの武の右腕がアルベルトなら、ミナールは知の右腕と言ってもいい存在であった。もっともその事を知っている者はほとんどおらず、多くの者がなぜミナールが大司教なのか理解していなかった。

「お主、その姿を消してワシの私室に入ってくるのは遠慮せいよ。ワシが着替え中じゃったらどうするんじゃ?」
「心配無用です。女性としての貴女にはまるで興味がない」
「それはそれでどうなんじゃ・・・まあよい。貴様のことじゃ、どうせ何か仕掛けたんじゃろう? あそこまで奴らに好き勝手されて、反撃の手札を仕掛けない貴様ではないからの」

 ミリアザールがニヤリとするが、ミナールはいたって平静かつ無表情を保つ。

「はい。奴らに追跡用の仕掛けをいくつか施しました。今度はこちらから奴らの本拠地を急襲してやればよいかと」
「なるほど。だがどうやって追跡する? 奴らは転送魔術で消えておるが」
「心配無用です。追跡専門の私の子飼いの部下がおります。あれから逃げ切れることはありえません」
「いいだろう、任せる。それと貴様の意見を聞いてみたいのだが・・・奴らをどう見た?」
「どう、とは?」

 ミナールがミリアザールの腹を探るように質問を返す。

「強さ、数、目的といったところか」
「ではまず強さから。最初の少年はともかく、後2人の強さは明らかに貴女より上でしょう。特に少女の方の強さは異常です。彼らが全力で暴れた場合、この都市は確実に壊滅していたでしょう。生き残るのは大司教の中ではおそらく私だけ。他には貴女にアルベルト、梔子、清条詩乃、後はせいぜいラファティを含めた近衛数人が限界かと。むしろそう判断したから、貴女もあのような屈辱的な条件を飲んだのでは?」
「その通りじゃ。あそこで戦っていてはワシらはほぼ全滅だったろう。もちろんその後地に潜ってしまえるという利点もあるが、犠牲が多すぎるしそれは手としてうまくない」
「同意見です。次に数ですが、それは調べないと何とも言えません。ただあの少女は明らかに貴女と戦いたがっていたのに、我慢しました。それは彼女に何かしらの命令を下せる立場の者がいるということ。もしあの3人が斥候の役目をしていたとすると、同様の力を持つ者が少なくとも倍はおりましょう。兵法書にある様子見をするときの戦力配分を参考にしておれば、の話ですが」
「あれより強い存在か・・・考えたくもないわ。あれ程度が何人もおるだけでも充分驚異的じゃしの。貴様にじゃからこそはっきり言うが、アレは昔存在した大魔王よりおそらく強い。まあワシも大魔王全員を見たわけではないが、少なくともワシがやりあった大魔王よりは強いな。戦力の想定を大幅に間違えていたことは素直に認めねばならんよ」
「・・・最後に目的ですが、少なくともこの教会の全滅ではないでしょう。もし全滅を狙うなら、もっと他にやり方がありました。たとえば市街で暴れて騎士団を分散するとか。それをこの本部だけわざわざ急襲したのは、我々が情報封鎖するところまで見越して、その存在をまだ公にしたくはないのでは?」
「なんのために?」
「1つはまだ彼らの戦力が整っていない。また、公にするならもっと効果的な方法と場所がある。そういうことでしょう」

 ミナールの推察にミリアザールは懐疑的に唸った。

「もっともらしく聞こえるが、証拠は何もないな」
「ですが根拠はあります。1つは魔王の出現地域が西方に極端に多く、アルネリア教の勢力範囲外であるということ。現段階では我々にできる限り察知はされたくないのでしょう。ですが中原にクルムス公国とザムウェドが不自然な戦争状態に入ったとろから、東部地域でもこれから不審な動きが増えるものと思われます。これから各国に密偵を増やしますが、巡礼を行っている者達を出来る限り東部に集めておくのがよいかもしれません」
「なるほど・・・これから忙しくなるかもしれんな。記念式典にかこつけて各国代表に平和協定の確認をしておくか。ちなみに花火が上がるとして、貴様はどこが最適だと考える?」
「そうですね・・・私なら北方の大国ローマンズランドですか」
「ローマンズランドか・・・あそこなら我々の勢力も薄いし、何よりあの国が崩壊すれば北方は壊滅状態じゃ。それは可能性として大きいな」
「・・・とにかく私は影の部分で色々動いてみます、ではまた何か報告があれば」
「ああ頼む」

 一礼して姿を再び消すミナール。入れ替わりに梔子が現れる。

「梔子よ、我々の方でも独自に調べる。口無しの連中を使って情報収集をさせよ。最近不穏な動きが無いか各国、都市、村・・・なんでもよいから情報を上げさせろ。特にローマンズランドの情報収集を最優先にしろ」
「御意」
「で、等閑(なおざり)になってしまったが、清条のとこの姫はどうしておる?」
「何も無いとこで滑って転んで池にはまり、お付きの2人助けられて現在着替え中です」
「・・・相変わらず天然ドジっ子体質じゃの。後で会って同盟の話し合いをせねばならぬ。そのように伝えておけ」
「御意」

 そして梔子も姿を消す。ミリアザールはこれからの事を考えると山積みな問題に頭痛がし、思わず眉間を押さえないわけにはいかなかった。


続く