はあ、やばい。
こほこほと咳をこぼしながら逃げ込んだトイレの中で鏡の中の自分を見つめる。
「あぁやっぱり顔火照ってるよな」
休むことなんて、出来ない。
今日のために頑張ってきたんだから。
そう自分に言い聞かせ、部屋に戻ろうとした瞬間足の力が一気に抜けてその場にへなへなとしゃがみこんでしまった。
「もう、なんでこんな時に、」
思わず出てきた涙が喉の奥で詰まりごほごほと咽せてしまう。
だめだ、迷惑かけちゃう。
ぱちんと勢いよく自分の頬を挟むようにして叩き、壁を支えにして部屋へと戻る。
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ひと通り表題曲のパフォーマンスを終え、ユニット曲の披露に入り少しだけ空き時間ができた。
しかし予想以上に体力を消耗してしまったようだ。
グラグラと揺れる視界を安定させるために目頭を押さえながら、足早に休憩できるスペースへと向かう。
しかしよく前を見ずに歩いていた所為で逆方向から歩いてきた人にぶつかってしまった。
「あ、すみません」
急いで謝り、焦点が定まらない目で再び歩みを進めようとすると、がっしりと前から肩を掴まれ驚いて顔を上げる。
「え、ねる?」
私の肩を掴んだのは、心配そうな表情を浮かべるねるだった。
「ねえお願い、休もう?顔色悪いよ」
休めない、今日のためにあんなに練習してみんなで頑張ったのに。
「ごめんね、大丈夫だよ。」
そう言ってねるの肩をぽん、と叩きその場を離れた。
「平手さん、スタンバイお願いします」
スタッフの声がした。
もうそんな時間か、全然休めなかったなと落胆してしまう気分を精一杯あげて、私は再びステージへと向かった。