2023年2月12日日曜日は文芸演芸会の第二回目。
今回は昨年急逝された澤孝子先生を偲んでの催しとしました。
散々脅かされた金曜の大雪は報道鳴動して降雪僅か。
それでもめげずに残雪に気を付けろと煽っておりましたが
すっかり溶けて温かい位のご陽気でした。
ご来場のお客様には改めて御礼申し上げます。
開口一番は桂れん児さん。桂歌助師匠門下。若き日の鶴光師匠を
思わせる髪型。『桃太郎』これもニッポン昔話ですから立派な文芸作品です。
続く一龍齋貞橘先生の『ドラキュラ』。当日のリハーサルで新たな趣向が決まっていって
本番には思いもよらない効果が上がると言う芸達者が集まった楽屋のお蔭です。
これぞ寄席演芸ならではの即興性。
この怪しげな雰囲気。実際は高座客席は真っ暗で、客席が一切見えないとのことで、
一番怖いのは私なんですと貞橘先生。
片岡一郎先生が狼、澤雪絵さんが令嬢の悲鳴。豪華な特別出演です。
怪談をやる講釈師はこうして人遣いが荒いので皆から嫌われるとのこと。
諧謔だくさんで面白い。講釈のもっともらしいスタイルでいわばバカバカしいことをやる、聞ける贅沢。
見事なもんでした。
続いて澤孝子先生追悼演目としての『姿三四郎恋暦』。
大西信行の補綴作品。大西信行氏は五代目神田伯龍の話術教室にも出入りをして
さらに本気で弟子入りしようと思ったほど。こういうご縁もあります。
曲師はもちろん佐藤貴美江師匠。
女性が主人公のようでそうじゃない。女、女を売り込まず、いったん男になって
女形として演じる線の太さが素晴らしい。
今まであんまり感じなかったんですが、今日の雪絵さんは澤孝子先生に
よく似ていました。特に語尾の祓い方が似ていました。
ここでお仲入り。一同で記念撮影。澤先生の写真は『一本刀土俵入』の時のものです。
仲入り後は三遊亭圓橘師匠による翻案もの。オー・ヘンリーの『よみがえった改心』
を『残り香』として上演。
これは圓橘師匠が舞台を幕末、明治に移し、重要な要素として刻み煙草の『国分』
を使っている故のタイトルです。
オー・ヘンリーの原作は昭和12年にPCL(東宝)で『南風の丘』として
松井稔監督で日本の物語として映画化されているのですね。
これは知りませんでした。片岡先生によると「PCLだからフィルムがある筈だ!」
何かの機会に上映したいものです。
江戸前の佇まいの粋さと同時に翻訳文学を愛する一面もある圓橘師匠秘蔵のレパートリー。
綺麗な人情噺になっております。
続くは片岡一郎先生の映画説明。入江たか子と岡田時彦の『瀧の白糸』抜粋と林長二郎=長谷川一夫による『切られ与三』
の二本立て。声もますます太くなってもはや堂々たる押出です。
片岡先生もウチの会の客席OBです。嬉しい限りです。
しかしまあ入江たか子のイイ女ぶりにはうっとりです。古い映画ですからハイが飛んだり綺麗に映っている瞬間が
短いんですがそれでも美貌がはっきり。それに釣り合う色男が岡田時彦。
この方は岡田茉莉子のお父さんです。早世しました。
長谷川一夫の『切られ与三』は断片しか現存していないそうですが幸い見染と源氏店が遺っていて
充分に堪能できます。長谷川一夫はつくづく女形出身だなあという肩の丸さが目立ちます。
本日の主任は桂春若師匠を大阪からお招きしました。
今日到着でヨルお帰りというスケジュール。
演目は『除夜の雪』。米朝師匠が手掛けた新作落語。
そうしょっちゅうやるネタでもありませんでしたが、幸いにも三回聞いたことがあります。
一回目が鈴本演芸場の独演会で後に京都、姫路でいずれも真冬で、たしか「新作というか
もう古典に入ってしまった」噺というような導入があったと思います。
春若師匠がネタ卸ししたのは昨年10月でこれは聞けませんでいたが不見転で
今回はお願いしました。澤先生の蟹を真似する春若師匠。
これという盛上りもない、いわばダレ場で本題は20分足らずという作品ですが、
しみじみ感、寒さ、夜、雪が眼前に広がるのは春若師匠の腕の冴えでしょう。
若い坊さんの過酷な環境を聞くにつけ『雁の寺』を思い出します。
隠れて食べる鰯の丸干し、その焼き方のコツ。盗み酒ならぬ盗み茶など、こういう
微細な悪さでもしないとやってらんないという奉公人にも似た悲哀があります。
大晦日は寺に誰が尋ねてくるかわからん。というセリフに若御寮さんの
唐突な縊死を告げる見事な伏線になっています。
圧巻の一席。
ご来場誠にありがとうございました。