仕事用でたびたび行く銀行の壁に、絵画サークルメンバーが描いた絵がいくつか飾られている。
墨で描かれたもので、そのほとんどは風景とか草花なのだが、中に大きな「おじいさんを描いた絵」がある。
別に狙っているわけではないが、何となくいつも、その前に座ってしまう。
そして、絵をガン見してしまう。
なぜなんだろう。
今日、ながめながら考えた。
おじいさんがソファに腰かけ、頬杖をついている。
机には、硯と筆があり、習字で描かれた表紙の冊子が置いてある。
後ろにある時計は「7時20分」をさしているが、雰囲気からすると、夜、夕食後のひと時といった感じだ。
眼鏡をかけたおじいさんは柔和な笑顔。目じりのしわが優しさを醸し出している。上品で温かそうな上着の襟元に、ループタイがさりげない。
こういうおじいさん、いる。どこにでもいる。でもちょっといいところのおじいさん。
だけど、一方で、「この人、うちにおったら嫌やなあ」と思う、陰険な私。
このおじいさん、きっといつも「正論を述べる人」だ。
自論に固執する頑固な老人も嫌だが、正論を噛んで含めるように話す老人も嫌。
その正論は誰が聞いても正しい。反論する余地は全くない。だから、よけいにハラが立つ。
私は、この銀行に来るたびこのおじいさんと対峙し、「嫌だなあ。うちにいなくてよかった」と思っているのである。
そうして結構、ストレスを発散したりしているのである。
だからいつも、この絵の前に座ってしまうに違いない。
…と気づいて、一人でワロてしまった。
作者Tさんのおじいさんに違いない人を、勝手にけなしてごめんなさい。
ちなみに私には、この絵がうまいのかうまくないのかは全く分からない。
独りだと 独り以上の 幸はなく
鞠子