いつものスーパーで買い物をし、出入り口に向かう途中、ヤマと積まれた本日特売の袋入りのパンの前で、1つを手に取っている女性がいた。
マスクの上、いらただし気に眉根を寄せているのがチラと気になったが、もちろん足を止めるほどのことではなく、私は自動ドアの向こうに出ようとした。
と、そのとき、背後から「3人で食べよか」という声が聞こえてきた。
今、見た女性が発した声にしては、あまりにも年寄りっぽい声。
思わず、振り返ってしまった。
すると、女性の隣に小柄なおばあさんが立っていた。
女性ともおばあさんとも目が合った。
おばあさんの声が大きいから私が振り返った、とでも思ったのか、さっき眉根を寄せていた女性は、私を見て照れくさそうな笑顔を見せた。
でも、違うんだ。
私が振り返ったのは、声のせいだけではない。
「3人で食べよか」にひどく心を打たれたのである。
シングル生活10年以上。
強がりでも何でもなく、孤独だとか寂しいとか、思ったことがない。
時間もお金も全部自分の自由となる今の生活は正直最高で、決して捨てるつもりはない。
だが、「3人で食べよか」にこんなに心を打たれ、感傷的な気持ちになる私も間違いなく私なのだ。
おばあさんの言った3人は、おそらく自分と隣にいた女性、そしてもう1人。
そのもう1人は誰だろう。
私は基本、パンはパン屋さんでしか買わないが、3人で食べる特売のヤマザキパンは、パン屋さんで買ったパンよりうんとおいしいのかもしれないと想像する。
私は、一生その味を味わうことはできない。
私は涙が止まらなかった。
今ここに 誰かがいたらと 思う夜
鞠子