職場に1人でいたとき、客様がやってきた。
私の顔を見るなり「久しぶり!元気?」とおっしゃったのだが、誰だかわからない。
どこかで見たことはある。客様であることは間違いない。だが、社名も名前も出てこない。
「Uさん(←うちの上司)に頼まれてたもの、買ってきたから」
と言って、領収証を2枚出すX氏。
頼まれた理由は大いに推察できたし、領収証のあて先は確かにうちの名前になっている。だが、こういう場合、Uは必ず私に伝言していく。今回、私はUにそのことを全く聞いていない。
若干、不安がよぎったが、客様であることは間違いない。代理で購入した理由もよくわかる。
2枚の領収証に書かれた金額を合算し、その分、金庫からお金を出した。
その作業中、X氏はあれこれ雑談し始めた。雑談の内容もうちの仕事に関することばかりで不安は徐々に薄らいでいくのだが、何しろ「誰だかわからない」。
X氏は、私が「自分のことを分かっている」という前提で、面白おかしい話をどんどん進める。
話の流れでX氏の会社名や名前を言わなくてはならない場面がやってきたらどうしよう…
「あはは、その話、面白いですね。ところでおたく、誰でしたっけ?」なんて、今さら口が裂けても言えない。
お金のことよりそちらが心配で気が気じゃなかった。
X氏、15分以上立ち話をしていたと思うが、結局最後まで誰だか分らなかった。
笑ったり 相槌打ったり あなた誰
鞠子