(1)ゲリラ雨

 

客様であるK社長ご夫婦とレストランでランチした。

私は「話したいことがヤマほどある」ということで、呼び出されたのである。

そして、およそ「価値観の違いがここへきて表出し、諸問題が起こってきている」というややこし深い話を聞かされた。もちろん、私に解決などできるはずもなく、うんうん聞きながら、ときどき「私ならこうする」みたいな話をするしかできなかった。

…と3人で固まっていたとき、突然、ザザザザーッ・ドドドドーッとものすごい雨が降り出したのである。

したらば、うつむき気味に最も深刻な顔をしていたK夫人がパッと顔を上げた。そして、

 

「あ、ダメ。車の窓、開けっぱなし!」

 

と叫んだ。

レストランまでは、K社長が運転して夫婦で同乗してきた。窓が開けっぱなしなのは、会社の駐車場に停めた自分の車らしい。

 

…ということで、2人は慌てて帰ってしまった。

 

話、ブツ切れ。いったいどうなっているんだ!

いやいや、ややこし深いことより、目の前のアクシデントに対処することが先でしょう。

当たり前といえば当たり前だが、笑うしかなかった。

ランチ代は既に支払いが済ませてあり、私はお礼もそこそこにちゃっかりごちそうになってしまった。

 

 

(2)ポリ袋ドロ

 

スーパーで会計を済ませ、買ったものをマイバックに詰めていた。

隣にやってきた夏休みスタイルのおじさん。

会計済商品が入っているピンクのカゴを脇にやり、台上のロール巻きされたポリ袋をトイレットペーパーよろしくカラカラ回して引き出し始めた。

カラカラどころではない。カラカラカラカラカラカラカラカラ……… ロールは3分の1ほどの巻き数になってしまったのではないかと思えるほど、ポリ袋を多量に巻きとった。

そして、マイバックに入れ込んだ。

 

あまりのカラカラぶりに、私は恐ろしい形相(←おそらく)で一部始終をガン見してしまった。

 

そんな多量のポリ袋、いったいどうするんだ!

それ以前に、いくら「ご自由にお使いください」なるポリ袋でも、これってある意味、ドロボーじゃん。

いい年をしたオトコ(←ジェンダー批判覚悟の上)が、恥ずかしくないのか。

 

おじさんが購入した商品は、2つか3つか。

スーパーへは明らかにポリ袋を盗りにきた、と見た。

 

 

(3)ごめんなさい。犬かネコかと思った。

 

ただでさえ開かずの踏切。

ようやく開いた、と思ったのだが、前の車は1ミリも動かない。

こらぁ、スマホ、見とんかいっ!と思ったが、その前の車もそのまた前の車も、全然動かない。

ああ、だめだ。きっと踏切向こうで犬かネコかがパニックになって右往左往しているか、あるいは既に轢かれちゃってて直進できないに違いない。

 

まいったなあ。この調子だと、また遮断機が下りて、なかなか開きゃしないぞ。

 

…と思ったのだが、イライラして伸び上がったり窓から顔を出して前方を見ているうちに、車が動かない理由が判明した。

右往左往しているのは犬でもネコでもなかった。腰が90度曲がった手押し車のおばあさんだったのである。

T字路で、あちこち矢印が出まくるややこしい信号機がいくつもあって、もちろん横断歩道などない道路の真ん中を、おばあさんがのろーりのろーりと横切っている。

信号がどうあろうと、どんなに車量が多かろうと、道路に出ればみんな停まる。そうわかって歩いている確信犯なのか。あるいは、とにかく目的地に向かってやみくもに歩いているのか。

あの姿勢だと、見上げるという動作は無理で、信号を見ることはできない。あの先に歩道がある、すらも確認できないと思う。

 

これ、いったいどうなっているんだ!

だが、怒れるが怒りきれなかった。

明日は我が身だと思うと切なくて、ひたすらやりきれないばかりだった。

 

 

 

 

 

 

車など なかったそれでも 生きられた

鞠子

 

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