久々の映画鑑賞は『台所太平記』。

1963年公開だもん、なんとも古い。今の日常とは似ても似つかない。でも、決して悪くない。

 

作家・千倉と讃子夫婦の家で働く若い女中さんたちの日常が、リアルにそして面白く描かれる。

女中さんはたえず2、3人住み込んでいるのだが、田舎から出てきた子、貧しさゆえに働きに来た子など、おそらく生い立ちは恵まれていない。

だけど、みんなすごく個性的。生き生きしている。

なにより千倉夫妻が、いいところにお嫁にやりたいと奔走したり、字を書くことを教えたり、彼女らを「娘」みたくあたりまえに大事にしているのがいい。千倉は奔放なタイプの女中が好きらしく、時々きわどくなるのだが、それでも笑ってみていられる。千倉自身がどうにも憎めないキャラであり、讃子がいかにも大らかだからだ。

女中たちも、ときどきつかみ合って喧嘩したり、大声でわめきあったりするものの、陰湿ないじめなど、どこにもない。千倉や讃子に対して、はっきりものを言うシーンも多々出てくる。

 

原作は、あの谷崎潤一郎先生。

 

千倉家は、千倉以外、いつも女ばかり。にぎやかで騒々しくて、辟易した顔を見せたりもするが、妻であれ女中であれ、やっぱり女性が好き、そんな雰囲気の千倉はおそらく谷崎自身。讃子は大恋愛・大騒動の挙句結婚した松子だろうか。

 

女中さんというと、苦節物・苦労物ばかり思い浮かべるが、この映画で描かれた世界がそんなに珍しい話でないのなら、当時の日本も捨てたものじゃない、という思いになった。

劇中、千倉が「好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。どうしようもない」と何度か口にするのが、いかにも谷崎っぽくてすごくいい。

そして、女中たちはみな自分の人生に向けて旅立ち、残された千倉と讃子が急な階段を支えあって登りながら、「アパートにこしましょうか」とうなずきあうラストシーンは、切ないものの穏やかで静かで温かくて、なんとも言えない味わいがあった。

 

監督は豊田四郎。

千倉を演ずるのは森繁久彌。讃子を演ずるのは淡島千景。女中陣は、森光子や音羽信子、京塚昌子、池内淳子、水谷良重etc.豪華キャスト勢ぞろい。黄門様の西村晃も出演している。

 

コロナ禍、久々心がのんびりしたわ。

…だけど、今日、東京は感染者100人を超えた、と聞いて、あっという間に現実に引き戻された。