昨日の声楽レッスンのこと。
会場に着いたとき、Hさんのイタリア歌曲レッスン真っ最中だった。
Hさん、70代後半(←たぶん)の男性。
とにかく「全力で歌ってる」感満載。声は確かに大きい。だが、力み過ぎてテンポがどんどん遅れていく。
聴いている私もからだがガチガチになってしまいそうなほど。伴奏している先生も、さぞキツいだろうな…と思ったのだが。
歌ったあと、Hさん自身がこんなことを言い出した。
「私、からだに力が入ってしまって。すごくのど声になってる気がするんですけど」
あらら、ご自分でも意識していらっしゃるんだ。
で、それを聞いて、先生は何と言われたか。
今まで培ってきた歌い方は、なかなか直らない。
無理して直そうと思うと、よけいにいらない力がはいってしまう。
だから、「直す」のではなく、自分のいいところを生かし、そこに新しいものを足していくようにすればよい。
…私、軽々しくこんな言葉は使いたくないのだが、なんとも「目からウロコ」なご指導だった。
いじわるく考えれば、Hさんの年齢からして「もう修正はムリだ」という宣告ともとれなくはない。だが、こういう言い方されたら、Hさんはきっとやる気になる。次回までにまた、頑張ってこようという気になる、と思う。
音楽を専門に学んできたわけじゃないし、これから音大に入ろうとするわけでもない人々のレッスンは、先生からすれば「聞くに堪えない」ものばかりではないかと思うのだが、その人のレベル、性格、あるいは年齢までも考えた指導をされる(それも、しようと思ってムリムリしているわけではなく)のが、本当にすごいな、と思う。
かくいう私も、かつては「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」の「シ」の音が、出るか出ないかくらいの音域しかなかった。それもガサガサの声で、あちこちブレスしまくって。
それなのに、まさか自分が「歌える」日常を送ることになろうとは、全く思っていなかった。
この先生じゃなかったら、昨夜のよう「13曲連続で歌っても大丈夫」なんて、決してならなかった。
それどころか…
今の音楽生活すら絶対なかったな…と、しみじみ痛感した。