家のポストに住所の記載のない手紙が入っていた。
差出人はこの4月から班長になったIさん。
内容は「半期の町費を集金させていただきたいので、在宅の日時を教えてほしい」というものだった。

平日はもちろん、土日もほとんど留守の我が家のような家は、迷惑に違いない。
言われなくても今週末、Iさん宅に払いに行くつもりだった。

「遅い時間でもかまわないので電話ください」とあったので、夜の10時半をまわっていたが、記されていた番号にかけてみた。
…コールしているだけ。
携帯番号も書いてあったので、かけてみたけど、やはりコールしているだけ。
それでこの日の連絡はあきらめた。

翌日、出勤してから時間をみて、もう一度かけてみた。
固定電話も携帯もかけてみた。
しかし、出ないのである。留守電にも切り替わらない。

…むしろ、ものすごく心配になってきた。
Iさん、70代、1人暮らしの女性なのである。「遅くてもいいからかけて」などと記した日に、電話に出ないとはどういうことなのか。

週末まで待っていられなくなった。
やっぱり夜10時をまわっていたが、家に寄ってみた。
幸い、杞憂だった。
Iさん、無事。
しかし、顔がパンパンに腫れあがっている。

原因は、花粉症なんだって。
顔立ちが変わってしまうほど重症なのである。
だから、昨日今日、強い薬を飲んだため、爆睡してしまい、電話に出られなかったのだそうだ。

結局、たいしたことなくてよかったのだが、ぞっとした。
「明日はわが身」だ。
今はまだ、お勤めなどしているから、出勤してこなければ職場の誰かが気づくだろう。
しかし、「ずっと家にいる人」だったらどうなるのか。

考えてみれば、こういう「お一人さま」はいっぱいいるはずだ。
みんな、どうしているんだろう。

終活、エンディングノート、遺言、身辺整理…
死んでからなんて、どうでもよい、と言えばどうでもよい。
でもいったいどうなるんだろう。

…こんなことを真剣に考えなければならない年になったことをしみじみ悟った一件だった。




夢十夜聞きつつ命果てるなら       鞠子