晴れの新十両場所がフイになってしまった… | ちょいと、戯れ言横丁・テーマトーク館

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春原圭による、よろず文章読み物ブログです。読んでくれた皆様との忌憚ない意見交換を重視したいと考えておりますのでよろしく。









 先月の秋場所の新十両は2人。そのうちのひとり、北青鵬はまだ10代の若さで、初土俵から8場所というスピード出世だった。両親ともモンゴル人で本人もモンゴル生まれだが、5歳で来日して以降は家族ともども日本在住で、協会公式にも『北海道出身』とされており、いわゆる一連のモンゴル力士たちとは一線を画す存在かも知れない。しかしそんなことうんぬん抜きで、このペースでスピード出世を続けたら、これは土俵を大きく盛り上げる存在になるぞ、と今から期待が膨らんでしまう──そんな北青鵬の新十両場所、果たしてどのくらいの活躍が見られるのか、と思っていたのだが…。
 まあ、皆さんご存知の通り場所直前のPCR検査で北青鵬はコロナ陽性と判定され、同じ宮城野部屋の他の力士もろとも秋場所は全休を余儀なくされてしまったのだった──宮城野部屋全員のコロナ全休はこれが2度目で、北青鵬自身も前回、幕下の地位で1場所全休している。これがなければ新十両も1場所早まってて秋場所は十両の上位で迎え、そこでの成績次第では、あるいは来月の九州場所では新入幕、なんてことにもなってたかも知れないのだが…、特例で番付の地位は据え置かれるとはいえ、九州場所が実質の新十両場所となる。せっかくのスピード出世に水を差された感じで、もちろん本人も歯がゆいだろうけど、相撲ファンの立場としても非常に残念なのは間違いない。
 この"昇進場所がフイになってしまった"といえば、ついこの人を思い出してしまう──栃乃若…、高校相撲の実績を携えて鳴り物入りでに入門後順調に出世し、師匠の現役時代の四股名と同じ読みの四股名をつけられるくらい師匠はじめ周囲から大きく期待されたその力士は十両も早々に卒業して一気の新入幕は春場所で、兵庫出身の彼にとってはご当初、幕内力士として地元ニシキを飾るはずが、例の八百長事件で場所は中止、地元凱旋はおじゃん。翌5月の技量審査場所で、テレビ中継もないままの地味な新入幕場所となってしまった。これでケチがついたからか、その後は度重なる怪我もあって十両と幕内の往復を繰り返し、結局十両の地位で「モチベーションが失せた」と若くして引退してしまった──あの春場所中止を境に、こうも相撲っぷりが極端に変わってしまうものか、モチベーションというのはホントに大事だな…、と思ってしまったものである。
 その分水嶺に、北青鵬にとっての秋場所がならないかという懸念が…。彼のここまでの勢いとポテンシャルを考えれば取り越し苦労かもと思ってしまうが、いかんせんモチベーションというやつは侮れないからなぁ。今回自身の陽性がきっかけで、怪我で低迷して十両下位で捲土重来を期す炎鵬、そして先場所の復活優勝をきっかけに進退問題を払拭しようと意気込む、内弟子である北青鵬にとっては実質的な師匠でもある白鵬も同じように休場を余儀なくされており、大事な先輩の大事な場所までフイにしてしまったというダメージが本人にとってどこまで影響するかは、やはり心配されてしまうところである。番付は据え置かれるからいいとか、そういう問題では北青鵬にとっても白鵬や炎鵬にとっても決してないはずだから。
 もちろん「そんな雑念など振り払って自分の相撲に全力を注ぐことに集中しろ」という一言に尽きるだろうし、実質の師匠である白鵬もおそらくはそのように彼に言うことだろう。コロナ禍という不運な時期ではあるけれど、条件はどの力士も同じなわけだから。むしろ、感染したらどれだけ大変かを身をもって知ったことで、現在も出場停止中のあの力士やあの力士みたいなハメをはずすことなく自身を謹んで、真面目に相撲一本に集中してもらいたいものである。まだまだこれから先の長い力士生活で。より大きな花を開かせるためにも──とはいえ、やはり気持ち的にはつらいよなぁ…。