死者0だから大した刑にはならなそう | ちょいと、戯れ言横丁・テーマトーク館

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春原圭による、よろず文章読み物ブログです。読んでくれた皆様との忌憚ない意見交換を重視したいと考えておりますのでよろしく。









 先々月、小田急線の車内で起こった刺傷事件は、頻繁に電車移動する多くの人にとって少なからず戦慄だったのではなかろうか。30代の男が牛刀を振り回して乗客を切りつけ、10人が重軽傷を負ったこの事件であるが、犯人はまず逆手に持った牛刀で20歳の女子大生の胸を2回刺し、逃げる女性を追いかけて背中を刺した後も執拗に切りつけた。執拗に襲われた20歳の女子大学生が重傷の他、20代から50代の乗客の男女10人が刺傷、女子大生以外の刺傷者は犯人が振り回した刃物に当たって怪我をしたと見られ。刺傷以外に逃げる際の転倒などで負傷した人もおり、女子大学生以外はいずれも軽傷だが、複数の被害者が人混みや電車利用に恐怖を感じるなどの精神的ショックを受けているという。犯人ははサラダ油を床に撒いて着火を試みるも失敗、ドアコックを使い現場から逃走するも数時間後に数キロ離れたコンビニで自ら店員に自分が犯人であることを告げ、殺人未遂容疑での逮捕に至った──というのが事件の概要である。
 犯人が「以前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思った」と供述したり、犯行前日に万引きを女性店員から摘発されたのが犯行のきっかけで、当初の目的もその店の女性店員だったりなどから、女性への一方的な歪んだ感情が原因という見方がされ、フェミ的観点でこの事件を論じたがる向きも多いが…、ターゲットは女性でも「幸せそうな…」だったり直近でやり込められたりした相手であって女性一般ではないし、被害が複数の男女無差別に及んでいることを考えれば、そっち方面に話を限定してしまうのはどうか…、と僕個人的に感じる。それよりも僕がこの犯人に対して危惧することは──
 今回の犯行、殺意を持って凶行に及びながらも結果的には誰も死に至らしめておらず、重傷ひとり以外は軽傷ですんでること、サラダ油に着火しての放火が現実的には"不能犯"であること、そしてコンビニ店員を介して自ら警察を呼んでいることなどを考え合わせると、刑罰的には大した刑にはならなそうである。かなり大それたことをしたような印象であるが、実際には実刑にこそなれ刑期はそんなに長くはなかろう。
 この犯人がほどなく出所後、ちゃんと更生できるかどうか。以前から上述の屈折した感情を抱き、今回も逆恨みを犯行動機とするこの彼が、出所後の世間の白い目や前科による就職難からの生活苦の中「幸せな女性に対する逆恨み」がますます増幅され、より凶悪さを増しそうな気がしてしまうのは、僕だけでしょうか?
 そう考えると上述のようにこの事件をフェミ的観点で男への敵愾心だけで斬るのはそんな犯人の鬱屈性に油を注ぐだけだと思ってしまうのである。女だけでなく男も含むより無差別な凶悪事件を誘発しかねないことへの危惧、この事件を考えるに当たってはそこまで思いを致した上で、性別を限定しない多くの人の身の安全をまず念頭に置いた考察がなされるべきではないだろうか。