奪還者(The Rover) | CAHIER DE CHOCOLAT

奪還者(The Rover)

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何もなかったら観なかっただろうなという映画。レンタルショップの棚に並んでいても、まず手に取らないタイプのパッケージ。だから、観るきっかけになることがあるというのはおもしろいと思う。舞台は経済が破綻した近未来のオーストラリア。といってもフューチャリスティックなものは何もない。そこに広がるのはさつばつとした、文字通りほぼ何もないデストピア。物理的にもなければ、精神的にもない。何も誰も信用できない世界。一緒に動くことなどなかったはずのふたりが、それぞれの目的のために同じ場所を目指すことになる。盗まれた車を探す主人公(ガイ・ピアース)と車を盗んだ男の弟、レイ(ロバート・パティンソン)。兄が乗り捨てた車を運転する主人公に助手席で話しかけるレイは、不機嫌な父親に話しかける子どものよう。抜けているようでいて、ちょっとすごい一面も持ってたりする不思議な子。主人公がなぜ必死になって盗まれた車を取り返したいのかについては、まったく語られることなく物語は進んでいく。旅するふたりの間には、何か情のようなものがわいてきているような、そうでもないような。感情は、砂を小さなスプーンですくって右から左に移していくくらいしか動いてないように見える。動いたと思ったら、また吹き戻されてしまったりもする。何が起こるかわからない物騒な環境の中で車は徐々に目的地へと近づいていき、最後にはちょっと驚きの結末が待っている。レイは、身体は大きいのに中身は幼い。そのアンバランスさゆえの不安定で無防備な感じが、見ていてどこか痛々しくて、それがよかった。この役はもともと小柄な人物という設定で脚本が書かれていたのではないかということ。でも、むしろレイは小柄でないほうがよかっただろうと思う。視覚的に小さいものが弱そうなのは当たり前で、大きいのに実際はその大きさに値するほど強いとはいえない場合、見ていて誰にともなく申し訳ないような気持ちになることがあるし、そこに少しでも愛情がわけば、より愛おしくもなるというもの。意図的かどうかはわからないけれど、結末とレイの姿には何かメタファーのようなつながりを私は感じた。