『グッバイ・ゴダール!』衣装デザイナー、サブリナ・リカルディ インタビュー | CAHIER DE CHOCOLAT

『グッバイ・ゴダール!』衣装デザイナー、サブリナ・リカルディ インタビュー

[ORIGINAL]
19 February 2018
Le Redoutable: In Conversation with Costume Designer Sabrina Riccardi
http://classiq.me/le-redoutable-interview-with-costume-designer-sabrina-riccardi



『グッバイ・ゴダール!』衣装デザイナー、サブリナ・リカルディ インタビュー

アンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝小説『それからの彼女 Un an après』を原作とするミシェル・アザナヴィシウス監督作品『グッバイ・ゴダール!(仏:Le Redoutable/英:Godard, mon amour)』は、アンヌがゴダールと過ごした日々の物語。主演はルイ・ガレルとステイシー・マーティン。アンヌ・ヴィアゼムスキーは1966年にロベール・ブレッソンの『バルタザールどこへ行く』でスクリーンデビューし、その後、『中国女』(1967)、『ウイークエンド』(1967)、『ワン・プラス・ワン』(1969)など、数本のゴダール映画に出演した。ヌーベルヴァーグの高名なパイオニアであるゴダールのミューズだっただけでなく、1967年から1979年までの12年間ゴダールの妻でもあった。



映像のコラージュであふれた『グッバイ・ゴダール!』では、ゴダールの最もよく知られた撮影技法(ゴダールのアパートの描写での基本色3色の使用、ナレーション、第4の壁を破ること〔*第4の壁とは、演劇における舞台の役者と観客の間にある見えない壁のことを指す。つまり、“第4の壁を破る”とは、観客に話しかけるような技法のこと〕、前後するカメラの動き)がうまく使われており、ストーリーをウィットとユーモアに富んだものにしている。この映画について最も素晴らしいのは、まさにそのユーモアだ。ゴダールへの輝かしいオマージュではなく、あるはずのゴダールへの賞賛が抜け落ちているいくぶん鋭いポートレイトなのだ。しかし、ヌーベルヴァーグの才能を単純化しているということではなく、ありのままの彼を見せようとしているのでもない。それが、この映画のオリジナリティであり、強さである。

『グッバイ・ゴダール!』はヴィアゼムスキーとゴダールの結婚生活にまつわるできごとで構成されている。大部分が1968年に設定されており、五月革命へと続いていくことになる反乱がその背景にある。アーティストとしてのゴダールの生活と、この厳しい時期を通して彼が映画との関わりを変えていく様子もまた、この作品のテーマだ。イデオロギーの信念と革命的映画監督としての自身の評判の間で、ゴダールが板ばさみになっていた頃で、初期の作品を愛してきた人々を遠ざける決意をしたと思われる、政治に傾倒する時期の前兆となっている。

映画は、自分自身を見つめようと、あるいは、自分自身を取り戻そうとするふたりのアーティストのラブストーリーを美しくとらえている。衣装は物語を語り、登場人物の変化を表す上で重要な働きをしている。このインタビューで、衣装デザイナーのサブリナ・リカルディは、彼女の初めての映画での挑戦、洋服についてよくわかっている監督と一緒に働く良さ、主演ふたりのすべての衣装をどのようにして作っていったのか、といったことについて語ってくれた。


―『グッバイ・ゴダール!』は実際の人物やできごとに則しているだけでなく、ヌーベルヴァーグのパイオニアとして著名で、全世界的に映画界で最も重要な人物のひとりであるジャン=リュック・ゴダールについての作品です。こういった映画の仕事をすることはどこか怖くはなかったですか?

それはまったくなかったです。私はこういった挑戦ができることをとても誇りに思いましたし、楽しみでした。

―このプロジェクトで最も意欲をかきたてられたのはどういったところでしたか?

チャレンジすることです! これは私にとって初めての映画の仕事なんです。それから、精巧でユーモアのあるミシェルの脚本。そして、1968年5月のパリの革命の空気の中でのジャン=リュック・ゴダールとアンヌ・ヴィアゼムスキーのラブストーリーですね。



―この作品は実際の人物やできごとをもとに作られている時代物の映画で、今回の場合1960年代の後半から1970年代となるわけですが、どういったところから始め、どこがインスピレーションのもととなっていますか? どんなものを衣装の参考にしましたか?

まず最初に、アンヌ・ヴィアゼムスキーがゴダールとの出会いについて書いた小説『彼女のひたむきな12ヶ月』を読み、次に、ゴダールとの生活を詳細につづった『それからの彼女 Un an après』を読みました。それから、当時のアーカイブをたくさん探しました。写真、広告、雑誌、ゴダールやトリュフォーの映画、ゴダールのインタビューなど。自分自身をヌーベルヴァーグのムーブメントの中に置いてみました。こういったものすべてを心に留めて、ミシェルに見せるためのガイドラインとなるコスチューム・ムードボードを作ったのです。それを見て話し合い、変更を加えたり、元に戻したりし、さまざまなスタイルがすぐに私たちの頭の中で形作られていきました。これらに加えて、ウィリアム・クラインの1968年のドキュメンタリー『Grands Soirs et Petits Matins』からもヒントを得ています。五月革命の間に撮影された、パリでの日々の証言です。ウェイター、労働者、学生、労働組合員、年金生活者、主婦、旅行者……といった人々の証言が収録されています。

―先ほどの質問のまだ途中になりますが、衣装を決める工程で影響が大きかったのは、アンヌの自伝に書いてあることやミシェル・アザナヴィシウス監督だったということでしょうか?

そうですね。ミシェルはほんとうに審美眼がある人です。生地や衣服にとても鋭い感覚を持っています。そういった監督と一緒に働けるのは衣装デザイナーにとってはほんとうに嬉しいことです。彼は細部にまで細心の注意を払います。ミッシェルは常に人を高めてくれる監督ですね。

―衣装デザイナーの仕事は物語を補強し、俳優がそのキャラクターとしてのアイデンティティを形成するのを手伝いますが、現在、衣装デザイナーの仕事は実際にどういったふうに行なわれているのでしょうか? 『グッバイ・ゴダール!』では、購入した既製服、ヴィンテージ、作品のために制作された衣装はどのくらいの割合だったのでしょうか?

主要な登場人物の衣装のほとんどは、私がムードボードで選んだアーカイブの素材に着想を得て制作されたオリジナルのものです。それに加えて、当時の本物の洋服をLes Mauvais Garçons、Euro Costumes、La Compagnie du Costume、Aramといったフランスのレンタルショップから借りています。『グッバイ・ゴダール!』には、作業のリーダーとしてテイラーが採用されていました。主役の衣装はみな、彼とふたりのアシスタントと裁縫係が制作しました。リーダーのテイラーは私のムードボードをヴィジュアルサポートとして使い、驚くほど素晴らしい仕事をしてくれました。彼は、私が必要としているものを即座に理解してくれました。チーム全体が同じ場所でしっかり集中できるように、広い空間で作業をする機会を設けたのですが、それは私にとっても貴重な機会となりました。みんなが私に質問したりすることができたので、あらかじめやっておけることは可能な限りそこでできました。

―作品のセットについても細部までとても神経がゆき届いていると感じました。特に、ゴダールのアパートやアンヌの洋服の基本3色の使い方は全体をとして効果的です。この映画には独特のビジュアル、美的感覚のようなものがありますね。

ミシェルと一緒にカラリメトリー(色度測定)をやったんです。ブルー、グレイ、ベージュ、ブラウンの洋服をたくさん準備して、それから、基本3色(レッド、ブルー、イエロー)を少しずつ、すべての役とエキストラの服に使いました。その当時のゴダールやトリュフォーの映画のような感じです。それで視覚的にかなり強いものになりました! 室内の内装でも同じようにやっています。







―ステイシー・マーティンが演じるアンヌ・ヴィアゼムスキーについて少し聞かせて下さい。彼女のスタイルはどういったものなのでしょうか? その洋服でどのようなキャラクターを表現したいと思いましたか?

アンヌは既製服とヴィンテージ、miu miuなどの現代の洋服を組み合わせて着ています。アンヌはゴダールに魅了され、愛に囚われた若い女性で、まだ学生です。最初はアンヌとゴダールの生きる世界が違うことを示すために、ツインニット+プリーツスカート+Pコートの3点を組み合わせてみました。色合いはブルーとイエローです。ストーリーが進むにつれて、彼女は解放されていきます。そして、ゴダールとの距離が彼女のワードローブの色の変化で表されています。赤が加わります。彼女はゴダールの影響から自由になるのです。







―ルイ・ガレルのワードローブについてはどうですか? 彼の洋服にも同じように変化が反映されているのでしょうか?

ゴダール役のワードローブはすべて制作されたものです、完全にオーダーメイドのスーツです。映画の最後に向けて、3組のスーツとシャツが必要でした。当時のヴィンテージスーツからインスピレーションを得ていますが、形は少し変えています。ヴィンテージと現代もの、両方のファブリックを使用しました。当時そうだったように、スーツはすべてウールです。ルイにぴったり合っていて、着ていて快適でなければなりませんでした。メガネも同様に、ヴィンテージモデルを見るところから始めて、彼のサイズで6本作りました。映画の始めではゴダールのスーツはばりっと、きちっとしています。ネクタイをしめて、シャツはシミひとつなく真っ白です。世界中で愛されている魅力的なゴダールです! ヌーベルヴァーグそのものです! 映画が進んでいくにつれて、彼がだんだん政治の季節へと堕ちていくのがわかり、ゴダールであることをどのように拒んだのかがわかります。彼のワードローブはしわしわ、よれよれで、だらしなくなっていくのです。服自体はほとんど変わっていませんが、ヒゲを剃っておらず、顔色も良くありません。ゴダールはもはやゴダールではないのです。





―この作品では、ベレニス・ベジョがミシェル・ロジェを演じています。ロジェはジャーナリストであり、1960年代の初めにV de Vというブランドを創設したファッションデザイナーでもありました。1968年にはエマニュエル・カーンやクリスチアン・バイリーと並んで、革新的で刺激的な若いフランス人デザイナーのひとりでした。ベレニスの衣装のインスピレーションとなったとのはどんなものだったのでしょうか? ロジェのデザインはその中に取り入れられていますか?

彼女のワードローブは私が自分で制作しました。私バージョンのワードローブということです。実際のミシェル・ロジェには影響されていません。むしろその逆で、ベレニスには当時にしては現代風なものを着せています。アバンギャルドなところは、ずっとパンツスタイルにすることで表現しました。ベレニスのミシェル・ロジェは強い個性を持った女性です。彼女は映画の中でゴダールのために立ち上がる唯一の女性なのです。モダンで、多才な女性であり、しっかりとした考えを持ち、ありのままの自分でいます。作品の中で、アンヌが自立した女性になることに影響を与えたのはロジェです。基本的に、実際のロジェのキャラクターにはあまりヒントを得ておらず、私たちのビジョンやどうしたいかという気持ちに沿って制作しました。私たちはそれを観てもらいたいと思っています。この点に関しては、現代のデザインの要素を衣装に加えることもしています。

―あなたが衣装デザイナーになろうと思ったきっかけはどういったことだったのでしょうか?


子どもの頃からずっと衣装デザイナーになりたいと思っていました。映画に夢中で、洋服に刺激を受けていますから。物語の制作の一部になれる機会が得られるっていう以上に素敵なことはないでしょう? アシスタント衣装デザイナーとして映画業界で働き始めて、しばらく経ってから、監督や俳優の人たちが彼らのプロジェクトに参加しないかと声をかけてくれるようになって、そうして、私は衣装デザイナーになったのです。






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*の説明は加えています。

column: 『グッバイ・ゴダール!』の“アンヌ”は誰なのか?




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