シリーズ「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律第13条」第8話 | 知財タイムス

シリーズ「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律第13条」第8話

制限免除主義への移行

最高裁は、平成18年7月21日第二小法廷判決により、ついに制限免除主義が妥当であることを判示しました。
この事件は、パキスタン・イスラム共和国の国防省と我が国の私企業で行われた高性能コンピュータの売買をめぐるもので、私企業側が国防省にコンピュータを引き渡した後、売買代金債務を消費貸借の目的とする準消費貸借契約を締結したにもかかわらず、国防省側は貸金の返済を行わなかったため、上告人らは貸金元金およびこれに対する約定利息と約定遅延損害金の支払を請求したというものです。
原審である東京高裁は、昭和3年12月28日大審院決定において示された絶対免除主義の立場を踏襲し、国防省側は裁判権からの免除が認められるとして、私企業側の訴えを却下しました。
その上告審が、本判決です。

(1) 外国国家に対する民事裁判権免除に関しては,かつては,外国国家は,法廷地国内に所在する不動産に関する訴訟など特別の理由がある場合や,自ら進んで法廷地国の民事裁判権に服する場合を除き,原則として,法廷地国の民事裁判権に服することを免除されるという考え方(いわゆる絶対免除主義)が広く受け入れられ,この考え方を内容とする国際慣習法が存在していたものと解される。しかしながら,国家の活動範囲の拡大等に伴い,国家の行為を主権的行為とそれ以外の私法的ないし業務管理的な行為とに区分し,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為についてまで法廷地国の民事裁判権を免除するのは相当でないという考え方(いわゆる制限免除主義)が徐々に広がり,現在では多くの国において,この考え方に基づいて,外国国家に対する民事裁判権免除の範囲が制限されるようになってきている。これに加えて,平成16年12月2日に国際連合第59回総会において採択された「国家及び国家財産の裁判権免除に関する国際連合条約」も,制限免除主義を採用している。このような事情を考慮すると,今日においては,外国国家は主権的行為について法廷地国の民事裁判権に服することを免除される旨の国際慣習法の存在については,これを引き続き肯認することができるものの(最高裁平成11年(オ)第887号,同年(受)第741号同14年4月12日第二小法廷判決・民集56巻4号729頁参照),外国国家は私法的ないし業務管理的な行為についても法廷地国の民事裁判権から免除される旨の国際慣習法はもはや存在しないものというべきである。
そこで,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為に対する我が国の民事裁判権の行使について考えるに,外国国家に対する民事裁判権の免除は,国家がそれぞれ独立した主権を有し,互いに平等であることから,相互に主権を尊重するために認められたものであるところ,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為については,我が国が民事裁判権を行使したとしても,通常,当該外国国家の主権を侵害するおそれはないものと解されるから,外国国家に対する民事裁判権の免除を認めるべき合理的な理由はないといわなければならない。外国国家の主権を侵害するおそれのない場合にまで外国国家に対する民事裁判権免除を認めることは,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為の相手方となった私人に対して,合理的な理由のないまま,司法的救済を一方的に否定するという不公平な結果を招くこととなる。したがって,外国国家は,その私法的ないし業務管理的な行為については,我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り,我が国の民事裁判権から免除されないと解するのが相当である。
(2) また,外国国家の行為が私法的ないし業務管理的な行為であるか否かにかかわらず,外国国家は,我が国との間の条約等の国際的合意によって我が国の民事裁判権に服することに同意した場合や,我が国の裁判所に訴えを提起するなどして,特定の事件について自ら進んで我が国の民事裁判権に服する意思を表明した場合には,我が国の民事裁判権から免除されないことはいうまでもないが,その外にも,私人との間の書面による契約に含まれた明文の規定により当該契約から生じた紛争について我が国の民事裁判権に服することを約することによって,我が国の民事裁判権に服する旨の意思を明確に表明した場合にも,原則として,当該紛争について我が国の民事裁判権から免除されないと解するのが相当である。なぜなら,このような場合には,通常,我が国が当該外国国家に対して民事裁判権を行使したとしても,当該外国国家の主権を侵害するおそれはなく,また,当該外国国家が我が国の民事裁判権からの免除を主張することは,契約当事者間の公平を欠き,信義則に反するというべきであるからである。
(3) 原審の引用する前記昭和3年12月28日大審院決定は,以上と抵触する限度において,これを変更すべきである。


こうして、我が国も制限免除主義の立場を採ることがようやく明らかになったのです。
次回は、本判決でも言及されている「国家及び国家財産の裁判権免除に関する国際連合条約」についてです。