第518話「忘れていたもの」(通算第726回目)

放映日:1982/8/6

 

 

ストーリー

西條と岩城は、拳銃を発砲しながら逃走する強盗犯の水原(高品正広さん)を追跡し、ヒューム管工場に追い詰めた。

水原は物陰に隠れ、拳銃を発砲していたが、西條と岩城に発砲を回避しながら接近され、銃弾を撃ち尽くしていた。

岩城は水原を叩きのめし、逮捕した。

水原は西條と岩城に取り調べられていた。

水原はスナック「エイト」のウェイターの井上圭一から拳銃を20万円で購入し、3日前に矢追信用金庫に強盗に入り、350万円を強奪していた。

石塚は井上を逮捕した。

井上は昨年に東南アジアに旅行した時、拳銃を購入して密かに持ち帰っていた。

原は西條と岩城と竹本と一緒に酒を飲んでいた時、水原の拳銃の弾道を調査した結果、最初に拳銃を購入した者にしては狙いが正確過ぎることを意見した。

水原が以前に何かしらの拳銃事件を犯している可能性が浮上した。

岩城は竹本に言われるまで、店の山の写真がマッターホルンの写真に替えられていることに気付かなかった。

岩城は帰宅し、以前に観光会社で購入した、カナディアンロッキーのポスターを捜索していた。

ポスターは裕太と陽子によって破られてしまっていた。

岩城は当直中の原から、誘拐事件の連絡を受け、前尾健三(池田鴻さん)の自宅に急行し、山村と野崎と石塚と西條と原と合流した。

被害者は前尾と、前尾夫人の前尾優子(原田千枝子さん)との一人娘の前尾ユミ(5歳)で、優子と午後5時頃にスーパーマーケットに買い物に行った時に消息を絶っていた。

午後7時過ぎに前尾宅に男の声で、ユミを誘拐し、釈放の条件を後で連絡するという内容の脅迫電話が入っていた。

前尾宅に誘拐犯の川田(井上博一さん)から電話が入り、七曲署に逮捕されている水原と、ユミを交換すると要求してきた。

川田はパブ「ビッグベン」のマスターだった。

川田は前尾に、明日の午前11時50分、西新宿の野村ビルの前で、水原とユミを交換すると要求し、水原を連れて行かなければユミを殺害すると脅迫してきた。

水原は単独犯だった。

逆探知の結果、川田が電話をかけているのが淀橋電話局管内であることまでは判明した。

野崎は淀橋電話局管内に住んでいる素行不良者をリストアップしたが、容疑者が浮かんでこなかった。

テープの録音には10円玉の落ちる音が無かったため、公衆電話からかかってきたわけではなかった。

午前10時、藤堂は本庁の許可をとり、水原の釈放を決定したが、ユミを無事に保護した上で前尾を再逮捕することも決定していた。

藤堂は岩城に、水原を連れて野村ビルの前に立つように、野崎と石塚と西條と原には周囲での張り込みを命令した。

岩城は水原を連れ、野村ビルの前で待機していた。

水原は人質がいることを理由に、岩城に向かって尊大な態度をとった。

川田が野村ビル付近の公衆電話に電話をかけ、電話に出た岩城に、水原を電話に出すように強要させた。

川田はユミを連れてきており、七曲署が約束を守れば無事に解放すると宣言した。

水原は川田からの電話を終えた後、勝手に帰ると言い出したが、岩城に、ユミが付近に来ていることを伝えた。

石塚はニューシティホテルの10階の部屋にユミがいるのを発見し、他の捜査員に連絡した。

石塚と西條と原はニューシティホテルの10階に急行し、ユミを救出した。

岩城は覆面車で待機した。

水原は水道局通りを西に向かって歩いていたが、野崎に尾行されていた。

水原は野崎の尾行に気付き、停車されていたモスグリーンのサニー「品川58 71-57」に乗り、希望ヶ丘方面に向かって逃走した。

岩城は水原を追跡していた。

水原は、走行中の乗用車に車体を衝突させながらも、赤信号を強引に突破した。

乗用車は停車中の別の乗用車の後部に衝突し、運転手の男(山中康司さん)が重傷を負った。

男は井上外科胃腸科病院に搬送された。

男の妻(藤江リカさん)は岩城を激しく非難した。

男は胸部打撲で、全治3週間の傷を負っていた。

藤堂は岩城に、刑事の仕事が犯人を検挙するだけではないと厳しく諭した。

水原が逃走に使用したサニーは盗難車で、昨夜に柏木で強奪されたものだった。

水原は4週間前に横浜から上京しており、東京には交友関係が皆無だった。

山村は事件解決の手掛かりとして、ユミを誘拐した男の線を挙げた。

藤堂は野崎以外の捜査員には淀橋電話局管内の調査を、野崎にはユミから話を聞くように指示した。

西條は水原と誘拐犯が、以前に拳銃を使用した事件で仲間を組んでいたのではないかと推理していた。

誘拐犯は水原が事件のことを自白するのを恐れ、強引に誘拐事件を起こし、水原を奪還していた。

西條と岩城は過去の事件のファイルを調査していた。

ユミは目隠しされていたため、連れて行かれた場所のことが分からなかった。

ユミは野崎に、誘拐犯が1人だったこと、拉致されている間に、松田聖子と岩崎宏美の歌が聞こえていたことを証言した。

歌はアナウンサーの声もなく、続けていろいろな歌が放送されていた。

野崎はユミが拉致された場所が、淀橋電話局管内の、有線放送と契約を結んでいる店であると断定し、藤堂に電話連絡した。

神奈川県警の事件で、拳銃が使用された未解決事件は3件あり、銀行強盗が2件、殺人事件が1件となっていた。

警視庁管内で拳銃が使用された未解決事件は4件あった。

山村は西條と岩城と原に、7件の未解決事件の中で、水原の指紋その他、合致するものがないか照合するように指示した。

岩城は、男が重傷を負ったことと、男の妻から非難されたことを思い出し、犯人を逮捕することに固執し、それしか考えていなかったことに責任を感じ、激しく自信を喪失していた。

岩城は帰宅した時、令子(長谷直美さん)が補修した、カナディアンロッキーのポスターを見た。

令子は岩城に、岩城が刑事になったきっかけのことを話し、岩城を励ました。

令子は岩城に当たり散らしていたことを謝罪しつつも、寂しさを感じていたことを吐露した。

岩城は、山という一番大事なものを忘れていたことを痛感していた。

岩城は男を負傷させてしまったことを深く反省しており、西條と一緒に井上外科胃腸科病院を訪れた。

西條は化粧室に行ったと装い、岩城を男の病室に単独で行かせた。

男の妻は岩城に対し、犯人を追跡中だったので仕方ないと思っていた。

男は自分も不運だったと思うようになっており、岩城に犯人の追跡に行くように促した。

岩城は西條に深く感謝した。

西條は昨夜、男の病室に行き、岩城を許すように謝罪した。

岩城は刑事の仕事が、人命を守り、救うことであることを再認識していた。

水原を取り調べた時に採取した靴跡が、半年前に横浜で発生した銀行強盗事件の際に現場に残されていた靴跡と一致した。

犯人は覆面をした2人組で、銀行員を拳銃で脅迫し、5000万円を強奪していた。

水原は半年間で強奪した分け前の金を使い切って、再び強盗事件を起こし、七曲署に逮捕された。

共犯は水原の自供による逮捕を恐れ、子供を誘拐し、水原を奪還していた。

藤堂と山村は、共犯が水原を抹殺することを危惧した。

川田は「ビッグベン」を休業し、店内に水原を匿っていた。

川田は強奪した金を水原より1000万円多く取ったことで、「ビッグベン」を開業していた。

川田は水原に500万円を要求されるも断り、高飛びすると宣言した水原に拳銃を突き付けた。

西條と岩城は有線放送と契約を結んでいる店を調査中、通行人から、「ビッグベン」が昨日も休業していたことを聞き込んだ直後、物音を聞いた。

川田は保身のためには殺人も躊躇しない性格だった。

水原は川田から拳銃を奪い取り、川田を射殺しようとしたが、そこに西條と岩城が店内に突入した。

水原は川田を人質に取り、西條と岩城に拳銃を放り投げるように強要させた。

水原は西條と岩城が床下に拳銃を放り投げるのを見届けると、川田を見捨てて逃走した。

川田は西條に逮捕され、手錠で店のカウンターに拘束された。

水原は西條と岩城に追跡され、ヒューム管置き場に逃げ込んだ。

岩城は水原の近くのヒューム管に、2人の子供がいるのを発見し、水原の拳銃に銃弾が残っているにもかかわらず、水原に接近した。

岩城は水原が子供の存在に気付き、人質に取ろうとしているのを見て、水原に突撃し、水原の拳銃を撃ち落とした。

水原は岩城との格闘の末に逮捕された。

岩城は水原と川田の取り調べを終えた後、藤堂に、忘れていた昔の気持ちを思い出すために、カナディアンロッキーに行くことを決意し、休暇を申請した。

 

 

メモ

*ロッキー存命最終作。「岩城刑事 ロッキーにて殉職」の序章的作品であり、殉職を控えたロッキーの総決算的作品となっている。

*高品氏は『太陽』では初めての悪役。

*冒頭、水原の拳銃の残弾数で揉める、ドックとロッキー。結局、ロッキーのほうが正しかった。ロッキーは「ドックが弾の数を間違えなければ、あと30秒は早く逮捕できた」とからかう。

*水原を最初に逮捕した後、ドックとジプシーとラガーの、若手刑事同士で飲み会をするロッキー。ロッキーとドックとジプシーはハッシュドビーフチリソースとチキンバスケット、ラガーはスパゲッティとラザニアを注文。

*飲み会が終わった後に暇だから映画に行くと言った後、ロッキーにアメリカの刑事物の映画を見るように勧められるも断るラガー。本人はフランスのラブロマンス物を見る予定だった。

*自身の職業柄か、「映画を見るなら刑事物」と、刑事物を見るのを熱心に勧めるロッキー。

*久々にロッキー関連のBGMが流れた。

*「あれほど好きだった山を忘れていた」と言うロッキーだが、この設定が使われるのもかなり久々。

*当直中、出前と思われるラーメンを食べているジプシー。

*誘拐犯が見ず知らずの子供と、逮捕された犯人の交換を要求するのは「タイムリミット・午前6時」と同じ(同じ柏原氏の脚本)。しかし、そちらでは逮捕された犯人が逃走中に事故死してしまっている。

*ドックが、外国の射撃場で拳銃を撃っていたことが触れられている。

*子供への聞き込みが上手い長さん。

*裕太と陽子が破ってしまった、カナディアンロッキーのポスターを補修する、優しい令子。

*ロッキーの、「山で遭難した時にロープが切れかかり、友人がロッキーを助けるためにロープを切って転落した」思い出話は、恐らく「偽証」で語られていた話と同じと思われる。細部は違うが、ロッキーが着任してすぐに語られていたことであり、懐かしい。

*ドックの説得もあり、ロッキーを許す、負傷した男とその妻。ドックの優しさと真面目さに感動すると同時に、「そんな昔のこと忘れちゃった」と言うのもまたドックらしくていい。

*クライマックス、ロッキーと水原の上着の色が、同じモスグリーン。

*ラスト、忘れていた気持ちを取り戻すために、カナディアンロッキーに行くことを決意するロッキー。しかし、そのカナディアンロッキーに行った矢先…

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

西條昭:神田正輝

竹本淳二:渡辺徹

岩城創:木之元亮

原昌之:三田村邦彦

 

 

岩城令子:長谷直美

松原直子:友直子

水原:高品正広(現:高品正宏→高品剛)、川田:井上博一

負傷した男の妻:藤江リカ、前尾健三:池田鴻

前尾優子:原田千枝子、負傷した男:山中康司、清水愛、佐野有哉、日野希ぞみ

 

 

石塚誠:竜雷太

野崎太郎:下川辰平

山村精一:露口茂

 

 

脚本:柏原寛司、小川英

監督:竹林進