第380話「見込捜査」(通算第590回目)

放映日:1979/11/9

 

 

ストーリー

山村は東京地方裁判所を訪れ、白石守(22歳)(野瀬哲男さん)の殺人事件の裁判に出廷しようとしていた。

山村は立川検事(早川保さん)と対面した。

山村が白石の裁判の証人として出廷するのは2日目の公判の予定だったが、時間が許す限り、自分の関わった事件の公判にはいつも出廷しているという信念のもとに出廷していた。

立川は山村に、今度の事件には何も問題がないため、安心して傍聴していいと励ました。

被告の白石の弁護士は、検事を辞めて弁護士になり、凄腕と言われている香取大造(岡田英次さん)だった。

白石の事件に大物の香取が弁護士として付いたのは、白石の父親の顧問弁護士だったからだった。

裁判長(西田昭市さん)により、白石に対する殺人事件の審理が開始された。

白石は新宿区船越町の城西大学の学生で、東京都新宿区矢追2丁目534-2に住んでいた。

白石は裁判長の着席命令の後、警察のでっち上げであると必死に無実を主張したが、刑務官に身柄を取り押さえられた。

裁判長は白石に、罪状認否に発言するように要求した後、香取に、白石に対して法廷における被告人の心得を言い渡さなかったのかと質問した。

香取は白石が声を大にして無実を訴えたかったものと思われると弁解し、謝罪した。

裁判長は立川に、起訴状の朗読を求めた。

白石の殺人事件は、矢追3丁目の駐車場で、暴走族のリーダーの打本昇(24歳)が心臓を一突きにされて殺害されたという事件だった。

打本は矢追町1丁目の葵荘に住んでおり、午後10時頃に死亡していた。

通報者のタクシー運転手は殺人現場を目撃しておらず、付近の表通りを走行中、走ってきた中年の男に駐車場で殺人事件が起きたと言われていた。

目撃者の中年の男はそのまま駅のほうに走り去っていた。

島は目撃者が返り血を浴びておらず、比較的冷静だったため、目撃者が犯人ではないと思っていた。

打本の致命傷になった傷は、向かって左の方向から右へ向けて、鋭利なナイフで一突きにしたもので、ほぼ即死に近い状態だった。

問題点は犯人が左利きか右利きかという点だった。

打本はオートバイにもたれるような形で倒れていた。

野崎が岩城と五代を呼んで事件の再現をした結果、犯人は左利きの可能性が強いとみられた。

山村と五代は「珈琲&レストラン パークサイド」に座っていた白石に事情聴取をしようとした。

白石は逃走したが、山村と岩城と五代に身柄を取り押さえられ、公務執行妨害容疑で逮捕された。

白石は打本と金の貸し借りでトラブルを起こしていた。

白石はアリバイを主張したが、極めて欺瞞に満ちたものだった。

白石は新宿、歌舞伎町の馴染みのバー「ミモザ」のホステス、大野広子(28歳)(吉岡ひとみさん)が風邪で店を休んでいたのを利用し、犯行時刻の前後2時間に大野のマンションにいたことにするようにという、嘘の証言を依頼していた。

大野は山村と五代に、白石が午後9時に自宅に来て、酒を飲んでレコードを聞き、カードをして遊び、午後11時ちょうどに帰宅したと偽証した。

大野は白石の帰宅後すぐに、午後11時からのスポーツニュースをテレビで見たため、明確であると強調した。

山村は犯行当日の午後11時前後、大野宅の2つ向かいの部屋の住人が廊下の窓枠の修理をしており、その間の20分に誰も通らなかったと証言していたことを言い放ち、正直に自白しないと偽証罪と犯人隠匿罪に問われると警告した。

大野は白石に電話で、毛皮のコートを報酬にアリバイ工作を頼まれ、いろんな物を買ってもらったために断れなかったことを自白した。

通報者に殺人を知らせた目撃者は、南和工業秘書課長の久松靖幸(井上孝雄さん)だった。

山村と五代は喫茶店にいる久松と対面し、通報を依頼したタクシー運転手が紙袋の会社名を思い出したこと、自宅の場所を調べて久松が浮かんだことを告げた。

タクシー運転手も目撃者が久松であると断言していた。

山村は久松に、犯人の報復の心配がなく、新聞報道にも久松の名前を公表しないことを約束した。

久松が殺人事件を目撃した道は会社からの帰り道で、殺人事件当日にも通っており、犯人の顔を目撃したと告白した。

久松は取調べ中の白石を見て、犯人が白石であると断定した。

野崎は白石がドラ息子であるため、公判で騒げば、弁護士が対策してくれると思っているのではないかと考えていた。

大野は法廷で、白石に電話で犯行当日の午後9時から2時間、自宅マンションにいたことにしてくれと頼まれたことを認めた。

白石が電話をかけたのは犯行当日の翌日の昼であり、白石は他にも大野に、自分が疑われる事件が起きたため、面倒なので頼むと電話で伝えていた。

香取は久松に、歩道橋で白石が打本を刺したのを確かに目撃したのかと尋問し、はいという回答を得た。

香取は久松に、白石が大野に偽証を依頼したのも、容疑を逃れたい一心であり、一人で映画を見ていてアリバイがないために依頼しただけにすぎないと発言した。

立川は裁判長に、久松とは関係ないと異議を申し出た。

裁判長は香取に、余計な発言で久松を圧迫しないように要求したが、香取に本事件において白石を犯人とする唯一の証拠が久松の証言だからであると返した。

香取は法廷での証言次第では、久松を偽証罪で告発する気でいた。

久松は打本の致命傷の心臓部の傷が検視官及び解剖医の所見として、二通りの刺し方が想定されていたことを知らなかった。

香取は久松を取り調べた捜査官が二通りの見方に全く触れず、最初から左利きの白石を犯人と断定していたのではないかと追及した。

立川は裁判長に誘導尋問であると異議を申し立て、認められた。

香取は発言を撤回し、久松に犯人が右手でナイフを持っていたが、左手でナイフを持っていたかを尋ねた。

久松は夢中だったため、記憶していなかった。

久松は香取に、犯人を断定した理由を質問され、白石とそっくりの男を目撃したからと答えた。

香取は久松に、警察で白石が犯人と言われたから、そんな気になったのではないかと追及したが、立川に異議を申し立てられた。

香取は久松に、現場で目撃した者を再度詳しく話すように求め、白石が打本をナイフで刺殺した瞬間を目撃したのかを尋ねた。

久松は白石が打本を押さえつけてナイフを刺す瞬間を目撃したと話したが、香取に嘘であると突きつけられてしまった。

久松が目撃した地点には路上駐車の自動車が2台あったが、障害物さえなければ街灯で駐車場の中が明瞭に見える場所だった。

香取は裁判長に、矢追3丁目2-19、料亭「菊野」の運転手、沢島常夫を弁護側証人として申請した。

犯行当夜、沢島は午後9時40分から午後10時5分過ぎまで、久松が目撃した地点で「菊野」の箱型バンを路上駐車させていた。

沢島は犯行当日、「菊野」が客に配る灰皿を浅草の杉下陶器まで引き取りに行き、製品をバンの荷台に満載して引き返す途中、駐車場付近の?コーナーでカップラーメンを食べるため、駐車場横の地点にバンを駐車させていた。

沢島は「菊野」の帳場に戻る時間を連絡して会ったため、非常に時間を気にしており、明確に駐車時間を記憶していた。

「菊野」の箱型バンは高さ1m90cm5mm、長さ4m69cmで、証言通りに路上駐車していた乗用車の前方約1mに自動車を駐車していたとすれば、犯行現場は完全に車体の陰になり、久松からは何も見えないことになった。

香取は久松が目撃したのは、打本の悲鳴と白石の後ろ姿だけではないかと追及した。

久松は傍聴人に山村がいるのを発見した。

香取は裁判長に、山村が傍聴しているのは、久松の自由な発言を阻害すると意見した。

裁判長は山村に、証言時間まで退廷するように命令した。

香取は久松に、偽証した場合、刑法第169条で偽証罪が成立すると警告した。

久松は逃走していく犯人を目撃したが、犯人の顔を目撃していないと証言を訂正し、停車しているバンを目撃したが、犯行現場については車体の陰になって見えなかったと証言した。

香取は久松に、白石を犯人と証言した理由を尋ねた。

久松は強制されたわけではなく、山村と話しているうちにじわじわと心理的圧迫を加えられ、つい白石を犯人と証言してしまったと認めてしまった。

五代は久松が証言を訂正した理由を疑問に思っていた。

久松が退廷し、山村が出廷した。

山村は白石が逃走した上に、捜査員に暴力を振るい、事情聴取に全く応じなかったため、やむを得ずに連行したと主張したが、香取に別件逮捕と解釈された。

香取は山村に、白石が自白した時の状況の説明を要求した。

山村と五代は白石を取り調べていた。

白石は無実を主張し、駐車場が街灯で明るい理由を知っているのも、頻繁に自動車で通っているからと述べた。

白石は午後8時に映画館に入り、午後10時30分に映画館を出たこと、知っている人間に誰も会わなかったというアリバイを伝えた。

山村はその前日の午後8時から午後10時30分にどこにいたかを質問した。

犯行当日の前日の2時間30分、白石を目撃したのは誰もいなかった。

白石はあくまで弁護士に素直に答えるように言われたから答えているだけで、捜査員が最初から自分に容疑をかけていることに激怒した。

白石は山村に、無実の人間を見込み捜査で逮捕してただで済むと思っているのかと威圧した。

山村の信念は、刑事が犯人を逮捕するということが、自分自身を逮捕するのと同じことであるというものであり、有罪を立証するまで何ヶ月、何年かかろうと徹底的に取調べ、検証するというものだった。

山村は白石にタバコを与えた。

白石は乱暴な性格の打本を激しく恐れており、打本につまらないことで自分の面子を潰したと怒られていた。

打本は白石を殺害すると仲間に言っていた。

白石はナイフを所持しており、事件当夜に駐車場付近で打本と出会い、打本を刺し、ナイフを捨てたことを自供した。

山村は白石が捨てたナイフを発見するため、川底を捜索したが、川が海に近かったため発見できなかった。

香取は白石の供述のナイフそのものが無かったのではないかと発言した。

山村は白石を、朝から夜まで10時間取り調べており、2本のタバコを与えていた。

白石は1日40本のタバコを吸うヘビースモーカーだった。

香取は白石に10時間の取り調べという肉体的精神的苦痛を与えたうえ、2本のタバコしか吸わせなかったことから、拷問ではないかと指摘し、耐えざる緊張と苦痛により、白石が嘘の供述をしたのではないかと述べていた。

山村はそのような意図が自分になかったと意見した。

香取は山村に、山村が「落としの山さん」と呼ばれるほど犯人を自供に追い込むのが上手いが、その自供に追い込む極意が何かを尋ねた。

山村は特に極意などないと答えた。

香取は、白石も久松も山村と話しているうちに山村のペースにはまり、山村の言う通りの気持ちになる、恐るべき名人であると発言した。

香取は山村に自供させられた懲役囚の何人かと会い、彼ら全員が「魔術にかかったようだ」と発言していたことを突き止めており、山村になぜ言いたくなってしまうのかを質問した。

山村はそれが事実であり、その事実を引き出しただけであると回答した。

香取は山村を、誠実な性格で、真剣に捜査に取り組んでいる刑事は少ないと評したが、山村に自分自身を逮捕するという気持ちが、言い換えればその時点で相手を決め付けているということではないかということを追及した。

山村は犯人と信じない相手には手錠を打たないと返し、自分にとってその相手は常に犯人ではなくて容疑者であると言い切った。

山村は退廷後、立川に、裁判で「菊野」のバンのことを言ったのが捜査一係の重大なミスであり、久松が証言を取り消した直後に言うべきことではないと糾弾された。

立川は山村に、あの状態では余談と偏見による拷問、でっち上げと言われても反論できないと伝え、その態度では勝ち目がないと言い捨てた。

山村は複数人の新聞記者からの質問を受けた。

山村は藤堂に、結果として見込み捜査となれば自分一人の責任であると謝罪したが、藤堂に責任がいつも一緒であると励まされた。

野崎と石塚は山村に、見込みを持たない捜査がなく、犯人と信じないで逮捕する刑事がいないと激励した。

岩城は現場付近の捜査をした際、バンを見落としたことに責任を感じていた。

山村は久松が白石の顔を目撃したのは明確であると確信していたが、久松が証言を翻した理由については分からなかった。

五代は香取が暴力団を利用して、運転手と久松を脅迫したのではないかと意見したが、五代に香取が自信をもって勝負している以上、絶対にしないと返された。

白石の父親は御門財閥の重鎮だった。

久松が勤務する南和工業は、白石の父親の御門財閥と敵対関係にある北里財閥系の会社だった。

山村は久松が白石の犯行を立証することが会社を喜ばせることだが、それにもかかわらず香取が、久松が証言を翻すことに絶大な自信を持っていたことを不審に思っていた。

次の公判まであと3日だった。

香取と久松の関係性は何も出ず、他の証人までも急に自信を喪失していた。

石塚は五代に、山村が犯人としてではなく容疑者として逮捕したと言えば、裁判でひっくり返って警察が負けても、責任が小さかったが、仕事の怖さを熟知する山村にとってはそんな嘘がつけないと語った。

山村は「菊野」に赴き、沢島(内藤栄造さん)から話を聞いていた。

沢島は別に避けていたわけではなく、香取から証言外に警察官や検事が来ても何も言わないように執拗に念押しされたことを打ち明けた。

沢島は犯行当夜、急いでいた上に前方に自動車が2台停車していたため、駐車場の打本の遺体が見えなかったと話した。

バンに載せていた灰皿は全部で300個であり、3箱の段ボール箱に梱包していた。

山村は、代議士の城所修平が運転手付きの高級車で「菊野」を訪れるのを目撃した。

沢島は犯行当日、高校生と一緒にカップラーメンを食べたことを思い出した。

高校生は受験勉強中の一人暮らしであり、時間も間違いないと証言した。

山村は「菊野」が駐車場から2分のところにあるのだが、香取が「菊野」のバンが駐車場付近に停まっていたことを知っていた理由が引っかかっていた。

バンには何の表示もされていなかった。

香取は高校生には何も接触していなかった。

山村は杉下陶器から灰皿を300個借り、久松が目撃した場所にバンを停車させ、岩城と五代にバンの車内に灰皿の入った段ボール箱を入れさせた。

山村が現場検証をした結果、久松がバンの窓越しから殺人事件を目撃することが可能であると断定された。

山村は城所のことを思い出し、久松が目撃した場所が、橋の上からであるという結論に至った。

城所は南和工業とは深い関係性があった。

久松は犯行当夜、汚職の金か政治献金を「菊野」に運んだが、口外できなかったため、慌てて証言を翻したと推理された。

山村は南和工業を訪れ、久松と対面し、明日の公判に検察側証人として出廷するように要求した。

久松は話しすることが何もないと開き直った。

久松は犯行当日、午後7時30分に南和工業を出ていたが、警察には午後9時30分まで残業したと嘘を言っていた。

久松は証人になる気がないと断ったが、山村にそのことを知っているのが自分だけではなく、白石、白石の父親、御門財閥の情報網、そして香取であると告げられた。

山村は香取がそのことを知っているからこそ、自信をもって久松を責め立てたこと、香取達が、久松がその秘密のために殺人犯を見逃そうとしていることまで知っていることを伝えられた。

山村は「菊野」女将にも城所にも会っていなかったが、久松に真実の証言を懇願するべく、南和工業に来ていた。

山村は裁判所の前で待機していた。

香取が山村の前に現れ、一礼して立ち去った。

久松は山村と会い、真実を証言したこと、何の用で「菊野」に行ったかを話さずに済んだことを告げた。

しかし、久松は南和工業の汚職を検察庁に突き止められること、自分の出世を諦めざるを得ないことを覚悟していた。

久松は南和工業だけが自分の生き甲斐ではないことを痛感し、山村が全ての事件に自分の全てを懸けているのを見て、そういう気になったと話し、山村に感謝した。

 

 

メモ

*法廷を舞台にした、全編緊張感漂う山さん主演作。

*ゲストが豪華かつ渋い布陣。

*黒板には裁判員(細田?也、渡辺信一、神野?夫)と検事(立川?夫)の名前が書かれているが、画質の影響で細かく読み取れず。

*打本の事件の回想の時、ロッキーとスニーカーが夏服なのが細かい。

*野瀬氏はサイコな犯人を演じることが多いが、今回はドラ息子役。

*山さんの「刑事が犯人を逮捕することは自分自身を逮捕する」という考え方は、後のマミー主演作「あいつが…」でも語られている。(脚本は同じ尾西氏)

*白石がナイフを捨てた場所が聞き取れず。

*岡田氏の紳士的かつ威圧的な尋問が印象的。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

岩城創:木之元亮

五代潤:山下真司

野崎太郎:下川辰平

 

 

松原直子:友直子

香取大造:岡田英次

久松靖幸:井上孝雄

白石守:野瀬哲男、立川検事:早川保

大野広子:吉岡ひとみ、裁判長:西田昭市、沢島常夫:内藤栄造、刑務官:村上幹夫

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

撮影協力:グリナード永山

 

 

脚本:小川英、尾西兼一

監督:山本迪夫