第281話「わかれ道」(通算第491回目)

放映日:1977/12/16

 

 

ストーリー

長門正義(高杉玄さん)は飲み屋の前で、田中課長(柴田侊彦さん)に「武藤常務によろしく」と言った後、別れた。

長門は泥酔しながら道路を歩き、封筒の中の大金50万円に満悦していたが、猛スピードで激走してきた白のライトバンに轢かれ、死亡した。

現場に七曲署捜査一係が駆けつけた。

長門は財界日報の記者だった。

所持金は820円と、封筒の50万円だった。

犯人のライトバンは長門を轢いてからブレーキを引いており、悪質な轢き逃げ事件だった。

洋服屋の主人が、午後9時の少し前、白のライトバンを目撃していた。

長門が勤務していた財界日報はかなり不審な会社で、会社の弱みに付け込んで、金を強請り取るブラックジャーナリズムだった。

長門の死は他殺の可能性が強かった。

藤堂は野崎と田口に金の出処を、他の捜査員に犯人のライトバンの調査を命令した。

飲み屋の主人(寄山弘さん)は野崎と田口に、長門のことを話した。

長門はいつも一人で店に入っていたが、昨日は田中と一緒だった。

主人は田中課長の名前を記憶していた。

財界日報のライバル社(?業新報)の社員によると、財界日報が出入りしていた会社は50,60社あった。

その会社の中に、田中という名前の課長は多数いた。

野崎は捜査の帰り、俊一(石垣恵三郎さん)が喫茶店内で誰かと対話しているのを発見した。

野崎が帰宅した後、午前0時になってようやく俊一が帰宅した。

俊一は野崎に、高校卒業後にすぐにコーヒーショップに勤務したいと思っていること、最初はアルバイトだがチェーン店であるためにすぐに独立できることを告白した。

俊一はその相談をしていて遅れていた。

俊一はコーヒーショップについて、経営状態がしっかりしていると熱弁した。

野崎は俊一を一喝し、働くことに焦らなくてもいいと説得したが、俊一に聞き入れてもらえなかった。

野崎と田口は丸の内商事を訪れ、田中から事情聴取を行った。

田中は長門と会ったこと、午後8時30分頃に別れたことを認めた。

田中は長門と街で偶然に会って、酒飲みに誘われたことを述べたが、50万円については知らない素振りをみせた。

田中は長門と別れた後、大学の同窓会が開催されていたクラブ「アウル」に急行し、午後8時50分頃に到着した後、同窓会終了後にはタクシーで帰宅したことを話した。

田中は会社に東西製鉄の社長が訪問したため、事情聴取を終了させた。

田中は部下に東西製鉄の社長の対応を任せ、武藤常務(森幹太さん)に電話した。

田中は武藤から、50万円のことを秘密にするように命令された後、封筒の指紋を消し忘れたことを悔やんだ。

田中が午後8時30分から午後10時まで「アウル」にいて、大学の同窓会に出席したことが確認された。

長門が所持していた現金入りの封筒を調査した結果、長門以外の2人の指紋が検出された。

田中が一係室に入り、長門が自分と会ったとき、既にその大金を持っていたことを伝えた。

田中は長門が泥酔して封筒を落として金を撒いてしまった際、自分がその金を拾ったことを説明したが、証人がいなかった。

田中は一係室を去って行った。

山村は田中が指紋の言い訳をしてきたことから、田中が長門に金を渡したと断言した。

田中は若くして丸の内商事の課長に就任したエリートだった。

野崎は事件当日に長門と会った者にあたり、長門が田中に会うまでに50万円を所持していなかったことを立証しようとしていた。

俊一は勤務中、良子(井岡文世さん)により外に連れ出された。

良子は野崎と康江(西朱実さん)の思いが、俊一の大学進学であることを熱心に伝えた。

俊一は野崎のように、一刻も早く仕事をすることを望んでいた。

俊一は野崎が大学に進学せずに、立派に生きがいのある仕事をしているのに、自分は大学を卒業しても野崎に負けない生き方を送る自信が無かったことを打ち明けた。

俊一はコーヒーショップであれば、楽しく人生を暮らせる自信があった。

野崎は気象庁を訪れ、市村(柴俊夫さん)に俊一のことを相談していた。

市村は他人を説得することが苦手だったが、野崎から大学を卒業して良かった体験談を語ればいいと勧められ、今日に野崎宅に来るように頼まれた。

良子も野崎宅に来ることになった。

市村は大学に入学する時、何となく地球物理学に興味を持ち、何となく気象学のゼミナールに引っかかり、卒業時には研究室に残ろうと思っていた。

良子の考えは、俊一には学問する気がないため、大学進学してもしょうがないという考えだった。

良子は野崎を説得したが、野崎の考えは大学に進学したくても出来ない若者がいるため、何としても大学に進学するべきというものだった。

野崎は轢き逃げされた当日の長門の足取りを突き止めたが、長門がどこで誰から大金を受け取ったかは不明瞭だった。

田口は事件当夜の午後7時10分前、長門が所持金を一円も持っておらず、麻雀で負けた僅かな金も払えないまま、午後7時の約束を口実に雀荘を出ていたことを突き止めた。

飲み屋から雀荘までは急いで10分の距離だった。

野崎と田口は田中をわざと挑発するような態度をとったが、田中に公務員の不法行為であると警告された。

田中は野崎が告訴されても構わないという態度をとったため、動揺して逃げ出した。

野崎と田口は執拗に田中を尾行していた。

俊一は仕事上のミスを執拗に責められ、落ち込んでいた。

田中は出社しようとしたが、野崎と田口の張り込みを目撃し、激怒した。

その様子を田中の夫人の田中美沙子(磯部稲子さん)も目撃していた。

犯人のライトバンは未だに手掛かりが無く、盗難車にも該当するものが無かった。

石塚は野崎が心理的に田中を追い詰めても、プライバシー侵害で告訴されるのではないかと意見した。

島は深田自動車修理工場の修理工の竹井宏(矢野間啓二さん)に容疑をかけた。

竹井は事件当夜に自分の乗用車を密かに修理し、隠していた節があった。

竹井は逃走しようとしたが、石塚と島と岩城により取り押さえられた。

竹井は長門を轢いたことを認めたが、あっと思ったときには長門が路上によろけてきたと主張した。

田中は屋上に武藤を呼び出し、刑事に尾行され、無実の轢き逃げの容疑までかけられたことが我慢できないと訴えた。

田中は武藤の尻拭いをこれ以上できないと宣言した。

田中は入社以来、武藤に声をかけられてもらったことを認めたが、武藤に警察が捜査している以上、相場の横領が露見すると訴えた。

田中は社長に打ち明け、それから自首することを提案した。

野崎と田口は一係室で、長門の死が事故だったことを知った。

竹井は飲酒運転で轢き逃げをして、その後に逃走していた。

竹井の車は自供通り、野川団地の駐車場に乗り捨てられており、事故当日の晩のうちに、スプレーで青に塗り替えられていた。

野崎はそれでも、田中に裏があると思っていた。

一係室に、田中が会社の屋上から飛び降り、自殺したという通報が入った。

非常階段には田中の革靴が脱ぎ捨てられていた。

田中が飛び降りたのは午後6時30分頃で、社員の3分の1が残業で残っていた。

しかし、ラッシュ時で騒がしい上に、現場の裏手が暗いため、警備員の巡回まで田中の遺体に気付かなかった。

田中のデスクからは田中の遺書が発見されなかった。

野崎は自分が執拗に尾行しなければと後悔していた。

美沙子は田中の死に号泣し、野崎を糾弾した。

市村が野崎宅を訪れ、帰宅した野崎と対面した。

市村は天気予報の後のニュースで野崎の名前を見つけていた。

市村は、現在、丸の内商事に勤務している大学時代の友人に田中の様子を聞き、田中がやり手すぎて無理をしていたことを聞き出した。

社内では、田中が出世の速さで有頂天になっているところがあり、今に躓くだろうという噂が立っていた。

野崎は、一流大学を卒業したエリートの田中に我慢できず、田中のような愚劣な行為をしてしまったこと、大学コンプレックスを持っていたことを痛感した。

野崎は藤堂に、事件の最初からの再捜査を申請した。

山村は野崎に、田中が会社の金を8000万円横領していたことを伝え、自殺したのはそれが発覚しかけたからではないかと励ました。

自殺に少々不審な点が発見されており、横領した8000万円が山村の捜査でどこにもないことが判明し、他殺の可能性が浮上した。

野崎は現場を再度調査していた。

俊一は市村と対面し、相談を頼んだ。

俊一は自分に向かないと思い、コーヒーショップを辞めることを決意していた。

市村は色々な夢を持つことが青春の特権だが、家族が俊一の気持ちで一喜一憂しているため、ただ気持ちが変わったで済ませてはいけないと助言した。

市村は仕事を選ぶことが遊びでも自分一人だけの問題でもなく、俊一が野崎と同じくらい自分の仕事に打ち込んでいたら、気持ちが変わったりしなかったのではと説いた。

俊一は野崎の捜査への懸命さに感心していた。

田中が自宅を購入したときの頭金は退職金の前借りで、残りはローンで今でも支払っており、急に大金を払ったことは無かった。

田中は相当慎ましく暮らしており、預金も身分相応で、投資もしていなかった。

島は武藤が商品相場に手を出し、先日の暴落で5000万円の損害を背負い込んだことを突き止めた。

武藤は5000万円全額返済していた。

田中は武藤に言われて会社の金を引き出したが、不安になって武藤への協力を拒否し、武藤に殺害され、公金横領の罪を擦り付けられていた。

野崎は非常階段によじ登り、写真のように4本の指をかけただけでは柵を登ることができないことを検証した。

武藤の部屋は最上階で、非常階段から屋上に昇降でき、屋上で田中を殴りつけ、気絶した田中を非常階段まで運び、柵に指をこすりつけて靴を揃え、自殺を偽装していた。

山村と野崎は丸の内商事に急行し、社員(下村節子さん)の制止を振り払い、武藤を逮捕した。

俊一は大学進学を決意した。

野崎は俊一に、好きなように人生を歩むようにと言った。

武藤は出世を餌に会社の金を都合させ、長門に感づかれて強請られると田中に処理させていた。

 

 

メモ

*久々の長さん主役編にして家族編。ここのところ、長さんの出番が異様に少なかった。

*俊一が大学進学よりも、コーヒーショップへの就職を選ぼうとする。

*終戦後の混乱で大学に行きたくても行けなかった長さんと、大学進学を止めようとする俊一。

*森氏はまだ暴力団の組長役ではない時期。しかし悪役。

*自分自身が叩き上げであるためか、エリートに異様な敵意を見せる長さん。良子から「大学コンプレックス」を指摘されてしまう。

*良子と市村は今回が最後の登場。そのため、野崎一家が揃うのも最後となる。

*その後、「ある誘拐」で良子が妊娠したことが語られ、長さん最後の主演作「長さんの長い午後」では、良子が小学3年生と小学1年生の息子の母親になったことが語られている。

*長門の死は田中の計略によるものではなく、偶然の事故によるものだった。

*無実の轢き逃げの容疑で長さんとボンに執拗に尾行され、武藤に自首を勧めるも殺害されてしまった田中。結局何も悪いことをしておらず、とことん哀れ。

*エリートの気持ちが分からず、長さんにエリートとは縁がないと言われてしまうロッキー。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

田口良:宮内淳

岩城創:木之元亮

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

野崎康江:西朱実、野崎良子:井岡文世、野崎俊一:石垣恵三郎

市村進:柴俊夫

田中課長:柴田侊彦、武藤常務:森幹太

竹井宏:矢野間啓二、長門正義:高杉玄、飲み屋の主人:寄山弘、田中美沙子:磯部稲子、照内敏晴、丸の内商事社員:下村節子、小寺大介、米津高明

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

脚本:田波靖男、安斉あゆ子、小川英

監督:小澤啓一

 

※2019/10/3執筆