第277話「身代り」(通算第487回目)
放映日:1977/11/18
ストーリー
3年前(1974年頃)のある日の午前11時頃、渋谷区美鈴町商店街から出火し、店舗12軒が全焼する火事が発生した。
この火事で、ベーカリー経営者の川本恵一の夫人の川本道代(当時30歳)、川本夫妻の長女の川本洋子(当時6歳)、火元の横田金融社長の横田千造(52歳)が焼死体となって発見されていた。
その後の調査で、横田は出火前に既に殺害されていることが判明し、放火の疑いがあることから、凶悪な殺人放火事件として、城南署が捜査を開始した。
事件の翌日、雨坪国弘(下条正巳さん)が犯人として自首してきた。
ロサンゼルスの日経責任者から、雨坪の息子の雨坪明(28歳)(山本亘さん)が八丈島に経営していた店を閉店し、ロサンゼルスに飛び立つという連絡が入った。
明のロサンゼルスの来訪の表向きの目的は留学だったが、既に小規模のレストランを購入しており、やがて市民権を取り、アメリカに永住するつもりだった。
七曲署捜査一係が明を逮捕するチャンスはあと2日半しかなく、3日目の朝には明がアメリカに飛び立つことになっていた。
推理はほぼ完成していたが、確証が皆無だった。
山村は、津田刑務所に服役中の終身刑の雨坪が無実で、明の身代り自首であると断定していた。
山村は八丈島に行くことを決意し、明を自供させることに全力を尽くすことにした。
田口は山村に、明に雨坪が身代りになった秘密を突きつけることを提案したが、親子の問題であると断られた。
山村は八丈島に到着し、明に接触した。
明は今まで世話になった者への挨拶回りを理由に、山村の前から立ち去り、タクシーで八丈島太洋第一ホテルに赴いた。
山村は明を尾行し、再び明に接触した。
山村はあくまで、犯人が明であると推察していた。
明は山村の推察を一笑に付し、事件のことを忘れたいこと、雨坪のことも他人ぐらいにしか考えていないと呟いた。
明は山村に、これ以上捜査すると名誉棄損で告訴すると警告した。
石塚と岩城は宮田紗代(田中筆子さん)の様態が急変したことを聞き、七曲総合病院に急行した。
医師(相沢治夫さん)によると、宮田は高齢の上に衰弱しているため、意識が回復せず、いつまで持つか分からない状態だった。
石塚は3年前の明のアリバイが宮田の証言にかかっているため、宮田の意識回復を待つことにした。
山村は明を張り込んでいた。
山村は刑務所で雨坪に面会し、明が犯人であると告げた。
雨坪はあくまで横田を殺害し、放火したのが自分であると強調した。
山村は調査の末、雨坪が高等学校の教頭を務め、周囲から尊敬され、教育者として常に自分にも厳しく生きてきたため、明がとるべき正しい道が分からない筈がないと思っていた。
山村は藤堂から宮田が心臓病で生命の危険があるという連絡を受け、宮田のアリバイ証言が覆らない限り、明を犯人と立証するのは困難であると返信した。
明は山村から、八丈島を訪れたのは自分の犯した罪から逃げるためだったのではないかと突きつけられ、ようやく山村の話を聞く気になった。
明の供述記録によると、雨坪は事件当夜、青い乗用車で横田金融に向かっていた。
雨坪は横田金融から2000万円の借金をしており、犯行当日には返済日であり、期限を引き伸ばすために出掛けて行っていた。
雨坪は交渉が決裂し、激高して横田を花瓶で殴り、放火して逃走したとみられていた。
明は雨坪が2000万円も借金をしていた理由について、友人に誘われて事業を開始するための資金を、雨坪に依頼したと説明した。
明は事業が失敗するとは思っていなかった。
山村は明が雨坪に内緒で、自宅と土地の権利書を密かに持ち出し、それを担保に横田金融から2000万円を借りたが、返済が不可能となったために横田を撲殺し、放火して逃走していたと推理した。
明は乗用車で自宅に逃げ帰り、事件の重大さに怯え、雨坪に全てを告白していた。
雨坪は全ての物的証拠が焼却されてしまったことに注目し、身代りになることを決心していた。
城南署も犯行を推理していたが結局、明を無実と認めざるを得なかった。
明はいくら父親でも無期懲役の罪を身代りで引き受けるなど考えられないと述べた。
山村は田口の発言を思い出し、小森七郎(灰地順さん)の写真を見せた。
小森は2ヶ月前、明にしつこく尾行されていた。
明はその時、アメリカ行きの件で東京に行き、深夜にスナックで酒を飲んでいたが、隣の客が小森だった。
小森は明の挙動の不審さから、財布が無くなったことに対し、明が財布を掏り取ったと思い、警察官(村上幹夫さん)に通報していた。
ウェイター(佐野光洋さん)が化粧室で財布を発見したことにより、明の無実が証明されていた。
翌日、山村は通りすがりに派出所の警察官から話を聞き、明が用もないのに小森を尾行したことに興味を持っていた。
小森は島と田口に、3年前の事件当夜、青い乗用車に轢かれそうになったことを思い出していた。
小森はその日がちょうど子供の誕生日だったためにはっきり記憶していたが、運転手が若い男だったことと、青い乗用車のことしか記憶しておらず、明かどうかは断定できなかった。
明は小森が思い出したのではないかという不安から、小森を尾行し、掏りの犯人に自分を仕立て上げていた。
明は山村の推理を、証拠が皆無であることを理由に全て否定し、激怒した。
家政婦の宮田は、犯行当夜に乗用車で外出したのは雨坪で、明がずっと自宅にいたと証言していた。
山村は宮田の証言が偽証であると推測した。
宮田は幼少期に母親を亡くした明を、自分の子供のように育てていたため、アリバイの偽証を依頼されれば、何の躊躇もなく従ったと考えられた。
山村は明に、捜査員が宮田に同伴しているため、真実を聞き出しているかもしれないと忠告した。
石塚は宮田に、真実を証言するように依頼し、雨坪が自首した日の行動の説明を要求した。
宮田は息も絶え絶えに説明したが、苦しみだした。
明は防波堤で、雨坪と同年齢ぐらいの老人(小栗一也さん)を見ていた。
山村は雨坪の恐れを感じ取り、秘密を聞き出そうとしたが無視された。
山村は雨坪について、立派な教育者だと思っていたが、雨坪の唯一の間違いが、明に甘すぎたことであるとも思っていた。
明の小学校時代の担任教師(井上三千男さん?)は、明が気に入らないことがあると、他の生徒の持ち物を取り上げたり、壊したりする乱暴な生徒だったことを打ち明けた。
明は雨坪に甘やかされればされるほど雨坪を馬鹿にし、時には厳しくないのは愛情が足りないせいだと思い、ますます意地になり我儘放題をし続けていたことを認めた。
明は証拠が皆無であることを理由に開き直り、尊大な態度をとった。
山村は本当に罪深いのは明なのか雨坪なのか苦悩していた。
宮田が息を引き取った。
石塚は宮田が、雨坪が自首する日に家を出たのは午前9時頃であると発言していたことを思い出した。
しかし、記録では雨坪が警察に出頭したのは昼過ぎだった。
石塚は雨坪が自首する日に立ち寄った場所を突き止めれば、事件の真相を掴めるかもしれないと報告し、雨坪の目撃者の捜索を命令された。
山村は明を張り込んでいた。
花屋の店主は、雨坪が夫人の墓参りをする際にはいつも寄ること、自首した日も午前中に寄っていたことを証言した。
御霊霊園の職員も、雨坪が自首した日に霊園に寄ったと証言した。
職員は雨坪が墓に向かって、人を多数殺害してしまったと呼びかけていたことを記憶していた。
山村の推理が全て見当外れである可能性が浮上した。
山村は雨坪家の墓が雨坪の元の家に近い「えいがく寺」にあるのに、夫人の墓だけ御霊霊園にあることに違和感を持ち、島に霊園の調査を指示した。
明は山村から、雨坪が夫人の墓に呼び掛けたことを告げられ、高笑いし、事件のことをすっかり忘れると宣言した。
石塚と岩城は14年前(1963年頃)、雨坪が所有者に頼み込み、御霊霊園の遺骨の入っていない墓を半ば強引に購入したことを突き止めた。
御霊霊園の西の外れには沢本正の墓もあった。
沢本は昭和24年(1949年)5月2日に生まれ、昭和26年(1951年)8月3日に亡くなっていた。
沢本は明と同じ日に生まれていた。
石塚と岩城は刑務所に急行し、雨坪に沢本の墓のことを突きつけるようにという指令を受けた。
山村の推理どおり、身代りの原因は赤ん坊の取り違え事件だった。
山村は明のもとを訪ね、雨坪が身代りになった理由をどう説明するかを尋ねた。
明は雨坪が自分の父親で、自分を溺愛しているから、世間に対しては立派な教育者だが、血縁関係の前では教育の理想も信念もないと答えた。
明は仮に自分が真犯人だとしても、雨坪には感激しないと呟いた。
山村は明に、明の出生の秘密を告げた。
明は昭和24年5月2日に城南中央病院で誕生したが、その城南中央病院は明の誕生当時、2度も子供の取り違え事件を起こしていたことが数年後に発覚し、管理体制の杜撰さを世間から糾弾された。
その直後、雨坪は病院で明のことを詰問していた。
明は5歳のとき、ガラスで重傷を負ったが、明に輸血をしたのは血液銀行職員で、雨坪ではなかった。
記録によると、雨坪夫人の血液型も雨坪に輸血できないものだった。
雨坪は明が自分の子供であると強調したが、石塚から、沢本の墓のある御霊霊園の墓を購入した理由を詰問された。
雨坪は明の出生に疑問を抱き、誰にも話さずに調査を開始したが、ぶつかったのが沢本だった。
雨坪夫人の血液型は戦時中に調査したもので、明確なものとは言えず、どちらが本当の子供かは突き止められなかった。
山村は2ヶ月前に事件を調査し、事件の全貌を推理し、雨坪の心情を理解していた。
石塚は雨坪に、山村が八丈島に赴く直前、親子の問題であることを理由に、明の出生の秘密だけは言いたくないと言っていたことを伝えた。
石塚は雨坪が明の罪を庇うのは間違っていると断言し、このままでは明が決定的に道を踏み外すと説得した。
雨坪はそれでも自分の犯行であると主張し続けていた。
雨坪は明が血縁関係に頼り、甘えん坊の、一人では何もできない青年に育ってしまったことを悔やんでいたが、別の両親の子供かもしれないことに気付きながら、そのことを握りつぶしていた。
しかし、その負い目が必要以上に明を甘やかす結果を生んでしまった。
雨坪は明の放火殺人の際、本当に自分が殺害してしまったような気がしており、何も知らない明に罪がないと思い、黙って身代りになっていた。
雨坪は父親が苦悩を背負っていることで明も苦しみ、立派に社会人として立ち直ると信じていた。
明は浜辺にいる老夫婦を見て立ち止まった。
山村は明が雨坪を大好きで、だからこそ身代りとなっている雨坪のことを忘れようとして、必死に逃げ回ったのではないかと推察した。
山村は血縁関係のことを話さずに事件を解決しようとしていたが、それが間違いであったこと、本当の親子かどうかにとらわれすぎていたことに気付いた。
明は山村の呼びかけを無視し、意地でもアメリカに飛び立とうとしていたが、山村に制止された。
明は山村に雨坪のことを突きつけられ、横田を殺害して放火したのが自分であると自白した。
山村は明を護送し、フェリーに乗った。
雨坪は津田刑務所から出所した際、山村と対面し、無言で礼をした。
雨坪は20年以上も一緒に暮らしながら、明が本当の子供かが分からない自分を許せないと言っていた。
メモ
*「山さん対決編」の一編。
*自身が養子を持つ身であるため、ボンに明に出生の秘密をぶつけることを断る山さん。
*露口氏は当時、大の飛行機嫌いであったため、飛行機を利用する遠征ロケーション回にはほとんど不参加だった。しかし、今回の八丈島ロケーションは移動手段がフェリーであるためか参加。
*3年前の事件は恐らく本物の火事のライブフィルムを使用していると思われるが、非常に生々しい。
*後にゴリさんの父親を演じる下条氏。偶然にも今回も教師の役。
*「序曲」が明の犯行の回想シーンで使用されている。
*八丈島の老人を演じる小栗氏は台詞が全くない。
*明の小学校時代の担任は遠景で顔が全く映らないが、声からすると井上三千男氏か?
*山さん主演作で度々テーマとなる、赤ん坊の取り違え事件。
*雨坪がゴリさんに詰問されているシーンがあるが、後のことを考えるとやや違和感がある。
キャスト、スタッフ(敬称略)
藤堂俊介:石原裕次郎
田口良:宮内淳
岩城創:木之元亮
野崎太郎:下川辰平
矢島明子:木村理恵
雨坪明:山本亘
雨坪国弘:下条正巳、八丈島の老人:小栗一也
小森七郎:灰地順、宮田紗代:田中筆子、進藤幸、明の小学校時代の担任:井上三千男、長島隆一、古川ロック、七曲総合病院医師:相沢治夫
久米俊悦、紺あき子、狩奈亜未、館野玲、警察官:村上幹夫、高橋園美、スナックのウェイター:佐野光洋
石塚誠:竜雷太
島公之:小野寺昭
山村精一:露口茂
協力:太洋不動産興業株式会社、八丈島太洋第一ホテル、東海汽船株式会社
脚本:杉村のぼる(後の杉村升)、小川英
監督:山本迪夫