第270話「殿下とライオン」(通算第480回目)

放映日:1977/9/30

 

 

ストーリー

岩沢建設社長の岩沢謙造(中条静夫さん)は、岩沢建設施工の東名観光の建設中のビルを訪れた。

岩沢は作業員(中島元さん)から、建設部設計課課長の矢部則夫(35歳)(三田村賢二さん)が屋上にいることを聞き出すと、防犯帽を被らずに階段を駆け上がり、屋上に走り出した。

岩沢は矢部を呼び出し、他の作業員(小寺大介さん他)に昼食をとらせた。

3人の作業員は建設現場の階段を降りた直後、矢部が屋上から転落死するところを目撃した。

岩沢は山村と島から事情聴取を受け、矢部と個人的な話をしていたが、話の途中でいつの間にか金網の防護柵の無い地点に出ており、矢部がよろけた次の瞬間に転落したと述べた。

作業員は石塚と田口に、事故を目撃したことを話した。

岩沢は島から矢部との個人的な話の内容を求められ、話の内容については答えなかったが、矢部が娘の岩沢美樹子の婚約者であることを明かした。

山村は岩沢が、婚約者を亡くした割には失意の表情を見せていないことを不審に思った。

石塚は矢部が転落死した直後、岩沢が屋上の端から下を見ているのを作業員が目撃したことから、岩沢が矢部を突き落としたとも推理していた。

矢部は激情し、石塚を名誉棄損罪で告訴しようとしたが、島に捜査員がただ様子を詳細に話してほしいだけであると諭された。

岩沢は自分以外に目撃者がおらず、矢部がよろけて転落するところを目撃したと頑固に主張した。

岩沢は「ライオン」という仇名がついているワンマン社長で、現場の作業員や会社の重役に酷く恐れられていた。

岩沢は会社経営が思わしくないことから、最近特にワンマンぶりが激化していた。

藤堂は岩沢という人間に関する証言を1つ1つ揃え、事件の究明をすることにした。

藤堂は島に美樹子、野崎に矢部の実家、それ以外に岩沢建設の捜査を命令した。

島は美樹子に矢部のことを尋ねるため、岩沢の邸宅を訪れた。

岩沢が島の前に現れ、美樹子に事故の様子を話したことを伝え、美樹子のショックのため、島に話を簡潔にするように求めた。

美樹子の私室の扉が施錠されていた。

岩沢は美樹子の私室の扉を体当たりでこじ開けたが、室内では美樹子(島村佳江さん)が睡眠薬自殺を図っていた。

美樹子は救急車で、かかりつけの藤ヶ丘病院に搬送されたが、昏睡状態でまだ何ともいえない状態だった。

藤堂は島に、美樹子に付き添うように命令した。

矢部は岩沢とは対称的で、国際コンクールで受賞した経験を持ち、建築家としても非常に優秀な男だった。

矢部の家族は事件が会社に関係した問題だったため、硬く口を閉ざしていたが、美樹子を褒めていた。

しかし、岩沢は矢部と美樹子の縁談に反対的で、岩沢の反対により、結婚式が延期されていた。

藤堂は美樹子の自殺に全ての事件の鍵があるのではないかと考えた。

岩沢は医師(相沢治夫さん)から、美樹子が意識を回復したことを告げられ、美樹子と顔を合わせた。

美樹子は岩沢を激しく拒絶し、矢部のことを思うと、岩沢と一緒に暮らせないと呟いた。

岩沢は感情的になり、病院にいた野崎と島に制止された。

藤堂は野崎と島に手分けして美樹子の友人を調査するように指令した。

美樹子の友人は岩沢が、美樹子と親しくなった男性全員を美樹子から追い払ってしまうことを語った。

友人が美樹子に紹介した男は、岩沢に侮辱され、美樹子から遠ざかっていた。

4年前(1973年頃)に美樹子の婚約者だった三田村正文という男は、いきなり銀座のバーで岩沢に殴られていた。                                                                                                                                                                                

美樹子の友人は、岩沢が一人娘の美樹子を失いたくために三田村を殴ったのではないかと思っていた。

矢部は仕事のことで岩沢邸を時々訪問しているうちに、美樹子と親しくなっていた。

美樹子は以前のことで岩沢に矢部のことを秘密にしており、勝手に婚約をして、事後承諾という形式で無理やり岩沢を説得していた。

美樹子の友人は美樹子に同情していた。

岩沢は美樹子の結婚式の延期の理由については、会場と日程が気に入らなかったから、三田村を殴った理由については、三田村が人間の屑だったからと答えた。

三田村はスーパーエルフ社長の息子で、有数の青年実業家だった。

岩沢は三田村を屑と思う理由については話さなかった。

島は岩沢が美樹子を自分の側から連れ去ろうとする人間を誰も気に入らず、三田村を殴り、矢部を屋上から突き落としたのではないかと追及した。

岩沢は秘書(中真千子さん)に、昨日の午後3時に自分にかかってきた電話のメモを持ってこさせた。

電話の相手は台湾のコウナンメイであり、伝言の内容は矢部と美樹子の結婚式の会場が、台北のサレジオ教会に決定したことだった。                                                                                                                                                            

岩沢家は戦前に台湾に移住しており、岩沢は亡くなった妻とサレジオ教会で挙式したことから、同じ教会で美樹子の結婚式を挙げることを熱望していた。

美樹子は式を半年延期してから、矢部のことを話題に出さなくなったことから、サレジオ教会の件を嘘だと思っていた。

島は国際電話局で台北から岩沢建設に電話が入っていたことを確認していた。

美樹子は岩沢建設が台湾でも工場を建設中で、電話が頻繁に入るため、岩沢が電話の1つをそれらしく秘書に報告させたのではないかと推測していた。

美樹子は岩沢の様子から、矢部が踏み外して転落死したのが嘘であると明確に思っていた。

美樹子は退院した後、どう暮らせばいいのか分からなくなっていた。

島は美樹子に、結論を急がないように促した。

島は藤堂から、岩沢建設の人事部長の上原正光が死亡したという連絡を受けた。

上原は会社の人事のことでいつも岩沢に相談に来ており、岩沢の旧友だった。

上原は午後5時30分頃、自宅マンションの7階の窓から転落死していた。

上原夫人(たうみあきこさん)によると、上原は2日前から会社を休み、疲れたと言い残していた。

午後5時頃、上原夫人は岩沢が上原宅を訪れたため、買い物に外出していたが、帰宅した直後に上原が自殺していた。

上原の息子は岩沢が矢部と上原を殺害したと思い、岩沢を糾弾した。

島は岩城を連れ、上原の通夜に向かう途中の岩沢に会った。

岩沢は午後5時頃、会社を休んでいる上原の見舞いのために、上原宅に行ったことを伝えた。

岩沢は上原宅から帰った時間については、正確には覚えていないが、午後5時20分頃に帰ったと述べた。

運転手(町田幸夫さん)は岩沢が午後5時30分頃に帰ったと証言した。

岩城は東名観光の建設中のビルの近くに高層ビルが2棟あることから、その中に現場の目撃者がいるのではないかということを閃いた。

藤堂は岩城に矢部の事件の目撃者の捜索を、島に岩沢のマークを命じた。

岩沢は矢部のマンションのエレベーターの前で美樹子と遭遇し、隠していることを全て教えるように頼まれた。

岩沢は上原とは、土建屋の頃から一緒に仕事をしてきた仲だった。

美樹子は岩沢が、矢部の事件及び三田村の件が破談になったときの何かを隠していると思い、岩沢を詰問した。

美樹子は岩沢が嘘を吐いていないことを強調したため、怒って立ち去ってしまった。

石塚は島から、美樹子が乗ったタクシーの尾行を依頼された。

岩沢は上原の葬式に出席し、上原の家族に礼をしたが、上原の息子に憎悪の眼を向けられた。

岩沢はクラブ、屋台、スナックを渡り歩き、大量の酒を飲んでいた。

岩沢は泥酔し、大声で歌っていたが、公園で蛇口の水を飲んだ後、上原の死に号泣した。

島は藤堂に、岩沢をもう少し調査するため、参考人としての召還を先延ばしするように進言した。

上原の死亡推定時刻は昨夜の午後5時30分頃としか判明しておらず、岩沢が矢部と上原を突き落とした容疑がまだ残っていた。

藤堂は島の進言を聞き、山村達に上原の事件と会社を任せ、島に矢部と三田村の線を捜査するように命令した。

三田村(池田鴻さん)は岩沢に恥をかかされたと思い、岩沢の話をするのを嫌がった。

三田村は岩沢の精神構造がおかしいと思っており、あくまで警察に捜査して困るような弱みが何もないと強調し、島のもとを立ち去った。

美樹子は宿泊したホテルで、石塚の張り込みに気付き、声をかけた。

美樹子は友人が店を経営し、今秋に遊びに行く予定だったベルギーに飛び立つことを計画していた。

美樹子は友人の店を手伝い、もう日本には帰国しないつもりであった。

美樹子は自分の中では既に事件が解決していると考えており、岩沢とは一緒に暮らさないつもりだった。

美樹子は友人から洋服を借りており、今使っているお金を働いていつかは岩沢に返済することを考え、岩沢にそのことを伝えるように石塚に頼んだ。

島は喫茶店で、岩沢から三田村の調査を依頼された、東都探偵社社員の野口(福岡正剛さん)と面会していた。

野口は秘密厳守を理由に島に依頼内容を話そうとしなかったが、島から説得を受け、真実を告白した。

野口は三田村だけではなく、以前の美樹子のボーイフレンドの身元調査を依頼されていた。

岩沢は美樹子のボーイフレンドが、全員とも財産が目的だったり、女遊びが酷かったりしため、美樹子の婚約者としては相応しくないと判定していた。

三田村に至っては、妊娠した女性の自殺騒ぎを、示談で済ませていたことがあった。

岩沢はボーイフレンドに好意を寄せる美樹子を少しでも傷つけたくないため、美樹子に何も伝えていなかった。

矢部は真面目で才能が有り、理想的な花婿だった。

岩沢建設は南米の支店が大規模な詐欺に引っかかり、数百億円の欠損を出し、倒産寸前だった。

岩沢建設は倒産を阻止するため、銀行が介入し、業界トップの大原建設が一部を合併吸収することが決定しかかっていた。

岩沢はその条件に承諾していなかったが、業を煮やした大原建設側がその件を発表していた。

島も岩沢建設の社内事情を掴んでいた。

矢部は吸収されるメンバーについて、大原建設と秘密に交渉していた。

岩沢は自身が退陣しても大原建設に1人でも多くの社員を移籍しようとして、上原と2人で工作していたが、矢部の背信行為で失敗に終わった。

島は岩沢に会うことにした。

矢部の死は全く謎だった。

岩沢建設社長室の前に、多数の新聞記者が集まっていた。

岩沢は大原建設の大原社長(幸田宗丸さん)に、岩沢建設の半分の社員を引き取るように懇願したが、全く聞き入れてもらえずに立ち去られた。

新聞記者は岩沢のことを中傷し、立ち去っていた。

岩城は矢部が1人で転落していたのを目撃した者を探し出した。

島は岩沢に疑ったことを謝罪した。

岩沢は稼いだ金でトラックを1台購入して以来、会社と家族を何よりも大事にして生きており、他のやり方を知らなかった。

岩沢は島に自分のやり方が間違っていたのか、矢部と上原を殺害したのが自分だったのかと嘆いた。

岩沢が誰も殺害していないことが確定し、美樹子との結婚を破談にしようとしていたのが矢部だったことが判明した。

美樹子は岩沢が殺害犯だと誤解したまま、ヨーロッパに飛び立とうとしていたが、空港のレストランで島と会った。

岩沢は会社を失うことによる損害を最小限に食い止めようとしたが、逆に矢部に利用されそうになった。

矢部は会社が倒産寸前であることを知り、岩沢に美樹子との結婚式の延期を申し出た。

岩沢は矢部が会社の事情に囚われずに美樹子と結婚することを心から望んでいたが、事件当日の朝、矢部が合併話の出ている大原建設に自分に都合のいい人名リストを渡していることを知った。

岩沢は矢部が大原建設の重役に、優秀な技師さえ引き抜けば、残りが屑であると言ったことを見抜いていた。

矢部はそのことを認め、岩沢にあと1週間以内に社長の座を追われると挑発したが、防護柵の無い地点まで後ずさりしてしまった。

矢部は美樹子と結婚するつもりがないことを自白した後、転落しそうになり、岩沢に手を差し伸べられたが、一歩遅く転落死してしまった。

上原は矢部に、「あなたの責任ではない」と励まされたが、そのことでますます追い詰められ、自殺していた。

岩沢は会社と家族を何よりも愛し、敵から守るために必死になって戦い、どう誤解されても自分を責めることしかできず、どう言い訳すればいいか分からない男だった。

美樹子は島から岩沢の真実を告げられ、号泣した。

美樹子は岩沢邸に戻り、岩沢と再会した。

岩沢は邸宅を売り、会社の債務を埋めなければならなかった。

美樹子は働いてアパートを借り、岩沢と同居することを決意し、岩沢に謝罪した。

 

 

 

メモ

*2つの事件が、片方は事故死、もう片方は自殺であるため、珍しく犯人がいない回。

*岩沢に「何だこの髭モジャは!」と言われてしまうロッキー。

*女性の張り込みを苦手とするゴリさん。

*今回の池田氏はいつもな「普通な役」と見せ掛けて「屑な役」だった。

*岩沢は会社と屋敷を失うことになったが、美樹子との仲を取り戻す、比較的明るい結末となった。

*ラスト、殿下に「岩沢と似ている」と言われ、ライオンの真似(?)をするボス。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

田口良:宮内淳

岩城創:木之元亮

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

岩沢謙造:中条静夫

岩沢美樹子:島村佳江、岩沢の秘書:中真千子、三田村正文:池田鴻、由起艶子

野口:福岡正剛、伊東しず子、矢部則夫:三田村賢二、藤ヶ丘病院医師:相沢治夫、大原社長:幸田宗丸

上原夫人:たうみあきこ、柚木悦子、佐々木裕子、岩沢建設作業員:中島元、岩沢建設作業員:小寺大介、海原俊介、氷室浩二

ノンクレジット 岩沢の運転手:町田幸夫

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、高階秋成(現:高階航)

監督:小澤啓一