第262話「誇り高き刑事」(通算第472回目)

放映日:1977/7/29

 

 

ストーリー

夜、野崎は田口と一緒におでん屋の屋台で食事をしていた。

野崎は田口と別れ、帰宅する最中、晴美商事のシャッターの前に佇む谷治太(58歳)(下元勉さん)を目撃し、声をかけようとしたが、見失ってしまった。

シャッターには人事課による男女各2名の清掃員募集の広告が貼られていた。

翌朝、野崎は一係室に1時間、出勤が遅れることを連絡していた。

田口は野崎の遅刻の理由が二日酔いだと思っていた。

一係室に、矢追町2丁目のスーパーマーケットREXで強盗事件が発生したという連絡が入り、捜査員が出動した。

強奪されたのは、高級品特別セールで売り出し中の、3万円から5万円の高級特価腕時計150本だった。

強盗犯は高級腕時計と同じショーケース内に陳列されていた宝石には全く手を付けていなかった。

直接の損害は約600万円だった。

店長(柿沼真二さん)は強盗事件で店の信用とイメージが大きく傷ついたことを心配していた。

店長は警備体制を厳重にするため、人員を多すぎるほど配置していたが、小火騒ぎや万引き事件の増加を嘆いた。

1週間前、REXの裏倉庫から出火する事件が発生していたが、通行人の発見のため、小火で済んでいた。

警備室長の谷は昨夜の勤務の際、店の周辺を歩いていたことを報告したが、店長に強盗事件の時には何をしていたのかと怒られてしまった。

強奪されたのは腕時計のみで、完全なプロフェッショナルの手口だったため、時計専門で、正体不明のまま全国手配されている盗犯25号の犯行であると推察された。

谷は盗犯25号がREXの内部事情に、非常に詳しいと考えていた。

REXの警備体制は、夜勤が2人で、5階から巡回し、午前6時に最後の巡回をして仮眠をするというものだった。

25号は正確にその時間を狙っていた。

25号の侵入口は、警備体制で最も弱い2階の洗面所の窓だった。

窓にはこじ開けた形跡があり、表から1階の屋根に上った形跡も発見されていた。

山村は谷に何かを感じていた。

野崎は警視庁北署を訪れ、田所刑事(平松慎吾さん)と話していた。

谷はかつて敏腕刑事だったが、2年前(1975年頃)、定年を前にして、56歳のときに退職していた。

谷は北署に引き止められながらも、一身上の都合というだけで、頑として退職していた。

谷は自宅を改造してスナックを開業したが、半年間しか経営が長続きせず、去年(1976年)に田所が訪ねたときには、既に人手に渡っていた。

北署は谷の行方を掴んでいなかった。

10年前(1967年頃)、野崎は谷と組み、強盗事件を捜査していた。

谷はそのとき、河川敷で強盗犯のサングラスの破片を発見していた。                                                                                                                                                                                

25号は高級店専門で、スーパーマーケットを襲撃したことが一度も無かったが、警備の弱体を突いたとも考えられた。

山村は藤堂に、元北署の巡査部長である谷の履歴書を提出した。

野崎が一係室に戻ってきた。

谷は北署の鬼刑事と呼ばれており、元北署刑事の野崎の先輩だった。

野崎はREXに聞き込みのために訪れ、警備員として勤務中の谷と再会した。

REX警備員で、谷の部下の三笠敏夫(織本順吉さん)は警備員詰所にて、出入りの商人が多数いるため、犯人の見当がつかないことを話した。

三笠は万引きの増加と小火と時計泥棒により、谷の責任問題に発展しかねないことを恐れていた。

三笠は以前、谷に刑事を辞めた理由を質問し、辞めたくなったから辞めたと返答を貰っていた。

谷は捜査ミスをしておらず、上司と衝突したわけでもなく、家族にも体にも問題が無かったため、刑事を辞めた理由が不明だった。

スーパーマーケット業界の噂では、REXは以前から警備体制に問題があった。

野崎は谷と一緒に小料理屋で酒を飲んでいた。

谷は品書きを見ようとしたとき、焦点がぼやけ、野崎に好きなものを注文するように頼んだ。

谷は最初、客の「すいません」の一声に気付かなかった。

野崎は谷の異変に感づいた。

谷はおでん屋の屋台で、刑事を辞めた理由が、2年前から老眼になり、老眼鏡なしで読書ができなくなったこと、聴力が衰えてしまったことであることを告白した。

谷の考えは、目も耳も満足に働かない人間には刑事が務まらないというものだった。

谷の捜査は勘の捜査で、目と耳を人一倍働かせ、どんな小さなことも見逃さずに捜査するため、多少他の刑事より犯人を逮捕することができた。

谷は先日まで今の自分には警備員なら務まると思っていたが、腕時計の強盗事件の際、物音が何も聞こえず、犯人の気配を何も感じなかったことに絶望していた。

谷は強盗事件で諦めがついており、犯人についても自分なりの推理があったが、何の役にも立たないとして野崎には話そうとしなかった。

谷は屋台から帰って行った。

石塚は、自分の能力が少しでも減退したら誰にも言わないですぐに辞職する谷を、刑事の鑑だと思っていた。

野崎は谷の発言を思い出し、谷の知っている情報に重要なものが隠されていると直感した。

藤堂も野崎に同意し、谷のマークを命令した。

1丁目のアベ質店に、手配のものと似た、新品の時計5個が質入れされたという通報が入り、藤堂は田口と岩城を直行させた。

田口は質入れされた時計について、手配の時計とはメーカーが異なり、文字盤が変えられているが、中身が強奪された時計と同一のものであることに気付いた。

今まで25号が証拠を出さなかったのは、時計を改造していたためだった。

時計を質入れした男は、渋谷区谷塚町2-4-26 エリカマンション4016号室に住む貝山徹(井上三千男さん)だった。

田口と岩城は逃走しようとした貝山を取り押さえた。

貝山は自分が25号ではなく、時計を盗んでいないと主張した。

田口は貝山の部屋の戸棚から、REXから強奪された時計が大量に入っている鞄を発見した。

貝山は故買屋だった。

貝山にREXの時計を持ち込んだのは25号と断定されたが、名前と住所は不明だった。

25号はいつも連絡を電話で行い、落ち合う場所を毎回、新宿駅前の電話コーナーと指定した。

岩城は貝山に、25号のモンタージュ写真を作成させていた。

野崎は谷が非番であることを知り、谷宅を訪れ、夫人の谷たみ子(町田博子さん)と対面した。

谷はたみ子に居場所を話さず、朝から外出していた。

谷はたみ子には、何も仕事と外のことを教えていなかった。

谷は老眼鏡を所持していたが、あくまで自分が老眼であることを認めたくなく、疲れ目用の眼鏡であると信じ込ませていた。

谷はたみ子から補聴器の購入を勧められると、激怒する頑固な性格だった。

野崎は谷の机の上の日報の写しを閲覧していた。

日報には、7月20日午前4時50分、矢追町2-14-8のREXの裏手倉庫より出火したが、通行人の電話により出動し、午前5時2分に鎮火したことが書かれていた。

小火の原因は煙草の不始末と見られていた。

野崎は消防署の署員(福岡正剛さん)から話を聞いた。

署員は4,5日前、谷から小火の発見場所、発見者の詳細を尋ねられていたが、通報者が名前を言わなかったため、答えられなかった。

野崎は消防署を出ようとしたところ、谷と遭遇し、谷に25号の捜査に戻るように怒られた。

谷は昔の勘で、小火騒ぎを放火かもしれないと思い、調査したが、何も出なかったため、2日で諦めていた。

野崎は、視力と聴力が衰えたことに絶望する谷を説得し、名刑事だからこそ小さな欠陥も許せないのではなく、老いた姿を晒すのが嫌なだけであると指摘した。

野崎は、たとえ老眼鏡をかけて、勘が鈍ったら人の助けを借りてでも、刑事の仕事を続け、定年になり、警備員に就職したら、働けなくなるまで続けるという決意を固めていた。

野崎は谷に、年を取ることが恥ずかしいことではなく、長年築き上げてきた経験に自信を持ち、年を取ったことに誇りを持つように説得した。

野崎は谷に補聴器を贈り、谷のもとを去った。

山村は25号の書類を調査中、REXとの関連性が浮かばないことが引っかかっていた。

谷は夜から勤務で、当直だったが、一歩もアパートから動いていなかった。

野崎は谷の様子から、REXが再度、同一犯に狙われる可能性があると推理していた。

谷は補聴器を付け、実感していた。

谷は25号がREXを襲撃するのは、自分が当直の今夜であると直感した。

野崎は谷宅の前に立ち、補聴器の実験をする谷を温かく見守った。

煙草屋の女将はモンタージュ写真の男について、頻繁に煙草を購入する客と似ていること、男がカメラドイ西新宿店に入って行くのを目撃したことを証言した。

カメラドイ西新宿の店員はモンタージュ写真の男が松本二郎であると断定した。

夜、野崎はREXを張り込んでいた。

谷は巡回中、野崎の張り込みに気付き、同僚の警備員に、6階で仮眠をとると話した。

谷は6階の店内を巡回し、異常がないことを確認した後、階段で待機し、補聴器のスイッチをオンにした。

強盗犯は屋上を伝い、非常口からREXのビル内に侵入した。

谷は強盗犯が扉を開ける音を聞いた。

山村と島と岩城は盗犯25号の正体である、102号室住人の松本を取り押さえた。

松本の失敗はスーパーマーケットの時計に手を出したことだった。

松本はREXの時計については強奪しておらず、新宿駅前の電話ボックスに置いてあった時計を拾ったと供述した。

REXの時計を強奪した犯人は苦労して入手した時計を捨てていることになった。

山村は谷がそれを知っていると思っていた。

谷は強盗犯が、特別非常ドアから侵入してきたと断定した。

強盗犯は店内のショーケースから腕時計を強奪しようとしたが、谷に発見され、掴みあいになった。

野崎は店の照明が点いたことから、異変に気付いた。

強盗犯はスタンド式灰皿を使い、谷を殺害しようとしたが、野崎に取り押さえられた。

強盗犯の正体は三笠だった。

三笠は放火し、自分で通報していた。

谷は、REXで万引きが最も多い日は三笠が勤務する日であったことから、万引きした犯人も三笠であると断言した。

三笠は谷に証拠を掴まれるのを恐れ、谷を追放するため、放火や時計強奪、今夜の事件を実行していた。

谷は表に野崎が張り込んでいるため、三笠が犯人であれば、上階から侵入すると考えていた。

谷は警備員の職業を続けられることに安堵した。

野崎は三笠を逮捕した。

谷は補聴器の便利さを感じ、刑事に復職していた。

 

 

メモ

*長さんの先輩で、長さんに刑事の基礎を教えた谷が登場。

*長さんの娘の良子が結婚して3ヶ月が経過したことが触れられている。

*谷の捜査方法は長さんに受け継がれている気がする。

*あくまで実直でプライドが高く、老いた姿を晒したくない谷と、逆に老いを受け入れる覚悟のある長さん。この2人の掛け合いが見所。

*織本氏は珍しく単純な犯人役。

*長さんによる「象の耳」。

*今回はうど氏の「太陽」初執筆作。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

田口良:宮内淳

岩城創:木之元亮

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

谷治太:下元勉

三笠敏夫:織本順吉、スーパーマーケットREX店長:柿沼真二(後の柿沼大介)、田所刑事:平松慎吾

おでん屋台の主人:福原秀雄、谷たみ子:町田博子、貝山徹:井上三千男、消防署署員:福岡正剛、木下陽夫

市川千恵子、布施幸代、稲山善一、市川勉、白川孝一

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、うどふみこ

監督:竹林進