第710話「殺意との対決・橘警部」(通算第404回目)
放映日:1986/9/12
ストーリー
安部武史(佐々木勝彦さん)は路肩に白のスカイライン「品川59 て 86-65」を停車させ、待機していた。
橘はマンションの301号室の自宅から自動車に乗り、出勤していた。
午前8時15分、安部は橘の出勤を見計らい、スカイラインから降り、橘の自動車に照準を合わせ、ライフルで狙撃した。
銃弾は幸いにも運転席に命中し、橘には命中しなかった。
安部はスカイラインを発進させ、寿町方面に逃走した。
橘は一係室の井川に、狙撃事件とスカイラインのことを連絡し、検問を敷くように命じた。
安部が逃走に利用した盗難車のスカイラインが発見されたが、安部の遺留品は発見されなかった。
安部のライフルはライフルマークから、1週間前、川崎に住む貿易商の自宅から、実弾30発とともに盗まれたUSM1ライフルであることが判明した。
貿易商は射撃場の帰りを尾行されていた。
盗難車のスカイラインは約30分前から、現場付近に駐車しているのを、複数人のドライバーに目撃されていた。
橘は狙撃犯に心当たりが無かった。
一係室に安部から脅迫電話が入った。
安部は必ず、橘達を一人残らず殺害すると宣言し、「橘達」が七曲署捜査一係捜査員のことではないと強調した。
西條は橘が扱った事件を調査し、水木は本庁の承諾を得て、橘のパーソナルデータを出力することにした。
暴力団関係者は橘を怖がっているか、橘に感謝しているかの2択で、犯人らしい人物が浮かばなかった。
弁護士の島本一郎(平野稔さん)はマンションの駐車場に愛車を駐車した。
島本は駐車場に待ち伏せしていた安部に、ライフルで胸を撃ち抜かれ、即死した。
安部は赤いブルーバード「品川59 さ 31-27」に乗り、逃走した。
井川と令子と島津が現場の駐車場に駆けつけた。
付近の住人が銃声を聞いた直後、駐車場からブルーバードが出て行くのを目撃していた。
ブルーバードは檜町で盗難に遭ったものだった。
橘が駐車場に到着し、令子から島本の身元を聞き出した。
島本は大竹商会の顧問弁護士で、事務所からの帰りを襲撃されていた。
島本はかつて東京地方裁判所にて、ある事件の裁判後、安部に掴みかかられたことがあった。
安部は必死に、犯人が大竹貢(早坂直家さん)であること、島本が身代りに別の犯人を仕立てたことを訴えていた。
橘は安部の次の標的が大竹フード社長の大竹貢であると推測し、居場所を調査するように指示した。
大竹フードは大竹財閥の系列会社だった。
西條と太宰は大竹宅に急行し、大竹が帰宅していないこと、大竹フードへの連絡が付かないことを突き止めた。
安部の事件は、3年前(1983年)に麻布6丁目の路上にて発生した刺殺事件が発端となっていた。
昭和58年(1983年)7月13日早朝、東京都港区麻布6丁目の路上にて、前科3犯の矢島育男(当時35歳)が何者かによって刺殺されていた。
さらに、この時偶然通りかかった、東京都文京区に住む、安部夫人の安部里子(当時32歳)、長男の安部良一(当時3歳)も現場を目撃したことにより、刺殺されてしまった。
矢島は当時、悪名高い強請屋であり、殺害の動機を持つ容疑者が複数名浮かんでいた。
橘は容疑者の中から、矢島の愛人に手を出していたことで大金を強請られていた、大竹財閥の御曹司の大竹に注目し、逮捕していた。
大竹の弁護を担当したのは大竹のお抱え弁護士の島本であり、島本により、法廷にて夏目寛之という別の犯人を告発し、認められていた。
夏目の自供により、凶器のナイフと血染めのジャケットが発見され、検察側も警察側も引き下がり、大竹の起訴が取り下げられ、大竹は釈放されていた。
夏目は既に自供のときに、末期の胃癌であり、その後に病死してしまったため、裁判が行われていなかった。
夏目には夫人の夏目絵里子と、娘の夏目美加(当時3歳)がいた。
狙撃犯の最有力容疑者は安部に絞られた。
安部は3年前の事件後に勤務先の東亜証券を辞職し、マンションを引き払い、消息を絶っていた。
令子と島津は大竹フードの専務(久富惟晴さん)と会っていた。
専務は大竹が旅行中であり、多忙で行き先も告げずに外出することが多いことを話した。
専務はニュースで島本が殺害されたことを知ったが、そのことと大竹の行方不明が無関係であると主張した。
井川は大竹が逃亡していると考えていた。
令子と島津は、誤認逮捕と言われながらも、本庁や橘が黙って引き下がったことが引っかかっており、3年前の事件の真犯人が夏目ではないかと思っていた。
橘は3年前の事件の真犯人が大竹、狙撃事件の犯人が安部であると断言したが、裁判で対決する材料が無かったため、黙って引き下がっていた。
橘は絵里子も安部に狙われる可能性を考え、捜索を指示した。
安部は必死に、橘に夏目が買収されたこと、大竹が金で裁判を動かしたことを訴え、証拠を掴むのが警察の役割であると食い下がっていたが、上層部が結論を下したことだったため、橘にもどうにもならなかった。
太宰は、3人も人を殺害しておきながら、悠々と社長として暮らしている大竹に怒りを燃やしていた。
橘は単独で、大竹の再逮捕と再起訴を主張して譲らず、証拠探しも単独で敢行したが、警察は裁判所の決定に介入できなかった。
大竹は専務と一緒に、隠れ家のマンションの402号室に潜伏していた。
大竹は必死に自分が無実であると思い込んでおり、警察が殺人犯の安部を射殺することを望んでいた。
専務は大竹に、警察の保護を申請するように提案したが、大竹は納得せず、警察に対して激しい拒否反応を示していた。
井川と島津は、フラワーショップ「モネ」を経営している絵里子(水沢有美さん)と面会した。
絵里子は井川から安部が、夏目が偽証していると思い込んでいる節があることを告げられたが、心当たりが皆無であると述べた。
絵里子は夏目が賭け事に溺れ、殺人を犯したと思っており、苦難の末にやっと「モネ」の経営を順調にすることができたため、全く無関係であり、何も知らないと話した。
夏目は300万円の借金を残していたが、絵里子は綺麗に借金を清算していた。
井川は絵里子にその資金の出所を尋ねたが、絵里子は島本の知人から融通してもらったと答えた。
島本は夏目の告発により、大竹の無実が証明されたことに感謝し、絵里子に手入れで融資してくれる業者を紹介していた。
絵里子は絶対に業者の名前を話そうとしなかった。
井川と島津は絵里子の警護を担当することになった。
西條は島本の知人にあたることにした。
太宰は安部に同情しており、大竹の父親が資金を出したのではないかと推理した。
大竹の父親は2年前(1984年頃)に死亡し、立証が困難だった。
専務はなんとか大竹を説得し、警察に保護を依頼した。
大竹は別件による逮捕を恐れていた。
安部がガスの検針と偽って安部宅を襲撃し、ライフルを発砲した。
大竹は急いで奥の部屋に隠れたが、安部はライフルを発砲し、部屋の扉を破壊した。
専務は懸命に、大竹を射殺しようとする安部に対抗した。
安部は大竹の左肩を撃ち抜いたが、パトロールカーのサイレンを聞いて逃走した。
井川と島津は大竹の隠れ家のマンションに急行したが、混乱した大竹に遅いと批判された。
大竹は東京警察病院512号室に入院することとなった。
澤村と太宰は「モネ」を張り込んでいたが、安部が現れた気配はまだ無かった。
大竹は3年前の真犯人であることを認めず、関係ないと一点張りだった。
井川は安部の次の標的が絵里子であると確信していた。
澤村と太宰はどこまでも卑劣な大竹に憤慨し、罪を認めさせ、事件を終結させようとしていた。
橘は令子と合流し、安部と一時期に同居していた「ウエスタン酒場 居留地」のママ(新橋耐子さん)と会った。
安部は長期間、「居留地」を訪れていなかった。
橘はママに、安部が殺人を犯し、更に殺人を企てていることを告げた。
ママは安部が島本と大竹と橘を許さないと発言していたことを記憶しており、橘が殺人犯を見逃す刑事に思えないと認識していた。
ママは安部に、もう死んだ者は戻らないと説得していた。
安部はいつも「居留地」のカウンター席に座っており、夫人と息子との思い出の品である、洋服やアルバム、玩具や家財道具を全て焼却し、忘れようとしていたが忘れられなかった。
ママは必死に安部に努めたが、何も出来なかったことを後悔していた。
橘と令子は安部が3ヶ月前まで住んでいたアパートを訪れたが、何もない部屋だった。
西條と水木は三沢金融の三沢社長(中庸助さん)から、島本が絵里子に、岸部金融の岸部社長を紹介し、無担保無利子で3000万円を貸したという情報を得た。
安部は、新宿区立若葉小学校から下校途中の美加を誘拐した。
澤村と太宰は「モネ」の裏口から飛び出す絵里子を発見し、事情を聞いた。
安部は絵里子に、美加を誘拐したことを告げ、あるだけの金を持って緑ヶ丘公園に急行するようにと脅迫した。
澤村と太宰は絵里子に、緑ヶ丘公園に行けば安部に殺害されると説得し、絵里子を引き止めさせた。
橘は「モネ」に直行し、緑が丘公園に澤村と太宰を待機させた。
安部は電話ボックスから絵里子に電話をかけた。
絵里子は金を集めていたと弁解したが、安部に急行しないと美加を射殺すると脅迫された。
絵里子は張り込んでいる刑事をどのようにしてまけばいいのかを悩んでおり、安部に美加の声を聞かせるように懇願した。
澤村は公園を調査中、電話ボックスから電話している安部を発見した。
橘は絵里子から受話器を奪い、安部と話した。
安部は橘を後でゆっくり殺害すると宣言し、緑ヶ丘公園に絵里子を行かせるように強要した。
澤村は太宰に無線で、美加が安部の車内に監禁されていることを伝え、まず車を奪うように指令し、自身も身を潜めながら安部に接近した。
安部は橘に、刑事の姿を目撃したらすぐに美加を殺害すると脅迫したが、直後に澤村に気付き、ライフルを乱射した。
太宰は澤村の合図で、安部の車を奪い取り、発進した。
澤村は安部を追跡したが、見失ってしまった。
絵里子は美加の帰還に号泣し、大喜びした。
安部は堂々と本名でレンタカーを借りていた。
西條と水木は岸部金融にて、岸部(三角八朗さん)と対面した。
岸部は安部に大竹のことについて尋ねられ、殴られていたことを語った。
岸部は古い話だから構わないかと思い、絵里子に3000万円を貸してくれと島本に依頼されたという真実を告白していた。
岸部は島本とは義理があり、依頼されただけと認めたが、3000万円が大竹商会から出たのかは知らなかった。
安部は岸部の発言を聞き、大竹を真犯人と断定していた。
西條と水木は絵里子と会い、3年前の事件の真相を話すように懇願した。
絵里子は夏目が自分と美加に3000万円を残すために偽証していたことを認めた。
絵里子は3年前、夏目が3日間ほど帰宅しなかったため、夏目が本当に殺人を犯していないかどうかが分からなかった。
絵里子は島本が岸部を紹介したことも、夏目の自供も、何もかも不審に思っていたが、夏目が何も言わずに病死してしまったため、3000万円の出所含め何も分からなかった。
橘はそれを証明できなかったことに責任を感じており、捜査員に、絵里子の警護と安部の逮捕に全力を尽くすように激励した。
安部は大竹の友人の八代と名乗って東京警察病院に電話し、大竹を呼び出した。
安部は大竹に、今から殺害しに行くと脅迫した。
大竹は電話の相手が安部であると認めず、混乱して病室まで疾走し、ベッドに駆け込んだ。
太宰は大竹に、3年前の真相を告白するなど素直になるように促したが、大竹は井川と太宰に病室からの退去を強要した。
大竹は専務に、ナースセンターに行って鎮静剤を貰ってくるように頼んだ後、病室の扉を施錠し、ロッカーから車の鍵を取り出した。
井川と専務は病室が施錠されていることに気付き、太宰を急行させた。
大竹は窓から病室を抜け出し、駐車場に到達し、外車で逃亡しようとしたが、安部が駐車場に現れた。
安部は大竹を射殺しようと、ライフルを乱射してきた。
橘が東京警察病院の駐車場に駆けつけ、大竹の前に立ち塞がった。
橘は安部が後ろに転倒した隙に、安部のもとまで走り、安部を殴ってライフルを奪取した。
安部は何度でも橘達を射殺してやるという捨て台詞を残し、井川と太宰に逮捕された。
橘は大竹に、再度起訴し、裁判をやり直し、安部と同じように被告席に座ってもらうと告げた。
橘は何度でも恥をかくことを覚悟していた。
メモ
*唯一の警部主演作。
*ゲストは「太陽」常連が多く、豪華。三角氏と中氏はワンシーンのみの短い出番であり、中氏に至ってはアップシーンすらない。
*メインゲストは安部役の佐々木氏だが、なぜかトップクレジットはママの新橋氏。
*ブルースが今回から無精髭を生やし始める。
*警部は昭和16年(1941年)12月26日、兵庫県出身。昭和36年(1961年)に東都大学法学部を卒業し、同年に国家公務員上級試験に合格した後、昭和39年(1964年)に新井署警邏課に配属されている。
*警部の父親の橘泰義は国鉄職員だったが、南明石駅のホームにて、転落した幼児を救出した際に殉職しており、母親の橘茂子は昭和23年(1948年)2月に病死している。
*警部の経歴は昭和42年(1967年)に新井署捜査一係、昭和46年(1971年)に城北署捜査一係、昭和50年(1975年)に江南署捜査一係、昭和57年(1982年)に警視庁捜査一係配属となっている。
*この設定は、次回の「ジョーズ刑事の華麗な復活」にて語られた、城北署勤務時代に鮫島に刑事魂を叩きこまれたという設定とは一致する。しかし、ボスとの接点がよく分からなくなる。
*警部は警視総監賞9回、署長賞14回、射撃成績抜群、管理能力良好と非常に高い能力を持っている。ドック曰く「通信販売のパンフレット」
*なお、警部の生年月日は渡氏の生年月日と全く同じ。名前の「兵庫」も出身県の兵庫県から取られている。(渡氏も兵庫県出身)
*「ドラ息子」役を演じると右に出る者はいない早坂氏、今回は善人役を演じる久富氏。
*安部が大竹の外車の左窓にライフルの弾を命中させるシーン、窓の破片が大竹を演じる早坂氏に当たっており、非常に危険。
*ラスト、警部は裁判のやり直しを開始させたようだが、大竹を自白に追い込めたかどうかは定かではない…
*今回の1カットが、「小鳥のさえずり」の予告に混じってしまっている。
キャスト、スタッフ(敬称略)
橘兵庫:渡哲也
島津公一:金田賢一
太宰準:西山浩司
澤村誠:又野誠治
水木悠:石原良純
岩城令子:長谷直美
「居留地」ママ:新橋耐子
安部武史:佐々木勝彦、大竹フード専務:久富惟晴
夏目絵里子:水沢有美、大竹貢:早坂直家、岸部社長:三角八朗
島本一郎:平野稔、三沢社長:中庸助、山河連滉、神谷恵美
ノンクレジット チンピラ:寺島進
西條昭:神田正輝
井川利三:地井武男
脚本:小川英、尾西兼一
監督:手銭弘喜