南無谷隧道 | 思い出の気動車・電車 in 安房

南無谷隧道

う~ん,廃線跡シリーズ第3弾の今回は,苦労しました。


話は,1月にさかのぼります。

1月20日のブログにもチョット書いたんですが,

ネットで,千葉県立現代産業科学館の「千葉県の産業・交通遺跡」というWebページを見つけました。

その『第3章 調査報告』の中で,『分類2:交通関係』→『鉄道』→『隧道』の一覧に,

“JR東日本旧岩富トンネル”と書かれた項目がありました。

それによると,南無谷トンネル(旧岩富トンネル)は大正7年8月10日に供用開始したものの,

大正12年9月1日の関東大震災でトンネル内部の上部2か所が崩壊。

11月28日に復旧しましたが,結局海側に新しいトンネルを掘ってそれが大正15年11月に完成。

南無谷トンネルは,供用開始8年で廃止になってしまったのだそうです。


で,その廃止になった南無谷トンネルが,今も残っているらしい。

ネットをその気になって探してみると,

廃止になった南無谷トンネルのことを書いたWebページが結構あることにも驚きました。

地元に住んでいながら,chibiは全く知りませんでしたから。

それらのページを参考にトンネルを探しに行こうと思っていたんですが,

地図を見ると,海の近くとはいえ辿り着くのが大変そうな山の中。

結局,二の足を踏んだまま半年近くが経ってしまいました。


ブログのネタが尽き始めたのでようやく重い腰を上げたんですが,

季節は6月下旬,房州枇杷の出荷時期と重なってしまいました。

トンネルの両端,南房総市岩井地区(小浦)と富浦地区(南無谷)は,房州枇杷生産の中心地です。

ちょっとした斜面は全て枇杷山になっており,

この時期,農家の人達は山に入ってくる不審者にピリピリしています。

“李下に冠を正さず,瓜田に履を納れず”

農家の人達にあらぬ疑いをかけられぬよう,立ち居振る舞いには十分注意しなければいけません。


思い出の気動車・電車 in 安房-南無谷隧道01










まずは,南無谷隧道の岩井口を探します。

地図によれば,

国道127号線に面したこの枇杷直売所の後ろにチラッと見える岩富隧道の坑口のすぐ近く,

左奥にあるはずです。

で,関東大震災で廃止になった国鉄のトンネルがあるかどうか,直売所の人に聞いてみました。

すると,いとも簡単に「ありますよ~。」という返事。

「でもね,今は藪になっちゃって,トンネルは見えませんよ。秋になれば,見えるかも。」

線路の向こう側の山を含めたこの辺りは,ここの直売所の土地なんだそうです。

山には入らせていただけるか伺うと,笑顔で「いいですよ」と言ってくださいました。

「でもね,ヘビがいるから気をつけてね。」「・・・あっ,ありがとうございます。」


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153M(209系8連)が,岩富隧道に入ります。

このちいさなデッキガーター橋の向こうに,

もう一つ,コンクリートとブロックで造られた橋の土台(橋脚)がありました。

これが,おそらく,関東大震災で廃止になった南無谷隧道の取り付け線路の跡でしょう。


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この橋脚を上から見たところです。

向こう側(海側)に,内房線が見えます。


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岩井駅を背にし,線路があったであろう場所から橋脚の向こう,富浦方面を望みます。

右の写真は,左の写真の場所から真っ直ぐに見通した向こう側です。

距離にして40~50m位しか離れていないのですが,辿り着くまでに10分近くかかりました。

その向こうは茅と竹が生い茂り,雑木には蔓がからまって最早前進不可能。

この生い茂る雑木のすぐ向こうに,トンネルの口がポッカリと開いているはずなんですが・・・。

今回は旧線の橋脚跡を見られただけで満足することにして,

草が枯れ,木の葉が落ちた冬に,改めて来ることにします。


ここまで読んで,この場所へ行ってみたいと思われた方に,注意とお願いです。

①単に茅,竹,雑木が生い茂っているだけではありません。地面が無いんです。

 朽ち木や枯れ葉が積み重なって,新雪を踏むようにズボズボ沈みます。

②農家の方も言っていましたが,ヘビが出ます。マムシです。

 さらに,植物にかぶれることも考えられます。

以上のことから,普通の格好では絶対に無理です。危険です。

③これが一番重要なことなんですが,目的の場所へ行くためには,私有地を通ります。

 特に今は枇杷の時期で,この辺りはほとんど枇杷山です。

 勝手に私有地を通らないこと,荒らさないことに,くれぐれも気をつけて下さい。

 場合によっては,警察に通報されることもありますよ。


さて,今度は富浦口。

地図を見ると,南無谷の国道から1km程入った所にあるようです。

で,前の週に車で行ってみたのですが,大失敗でした。

国道を入ったところからすぐに,軽自動車がやっと通れるような細い道が続きます。

不安を通り越してだんだん怖くなってきたのですが,戻ろうにも車を回転させる場所がありません。

目的地は諦めて,途中から何とかかんとか戻ってくることができましたが,

それに懲りて,今回は南無谷海岸に車を置いて歩くことにしました。


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南無谷海岸から10分程歩いた所で,

178M(211系5連)が通過するデッキガーター橋の下をくぐります。

そこからさらに10分程狭い山道を歩いて行くと,小さな峠を越した所で,突然視界が開けました。


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ドキッとしました。

目の前には,まぎれもない南無谷隧道の富浦口が,口を開けています。

大正15年で時間が止まったままの景色です。

岩井口と違ってこちらは簡単に見つけることができましたが,

そんな簡単に見つけることができたものを,今まで全く知らなかったというのが,不思議な感じでした。

農道として軽トラが頻繁に通っていましたから,南無谷の人達には当たり前の景色なんでしょうね。

廃線跡というより,排水溝から流れ出た川という光景です。

雑草生い茂る線路跡部分はJRの土地なのかどこの土地なのかわかりませんが,

ソテツが生えている部分は私有地なんでしょう。ずいぶん草茫々で,荒れているけど。


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坑口は,かなり埋まってしまっています。

私有地かもしれないということもあったんですが,

草茫々の中を下まで下りていく勇気はありませんでした。

トンネルの中は水が溜まっているようです。

トンネルは,未だ岩井口まで抜けているんでしょうか,

それとも荒れ果てて落盤し,塞がってしまっているんでしょうか。


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左の写真は,坑口付近から下り方面を見渡したところです。

線路跡はしばらく谷間を走り,

その後に道路が下り始めるので,やがて右側の写真のように周囲との高低差が無くなってきます。

現在は,まるで水量の少ない川です。


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併走する道路はさらに下り,開けた所に出る頃には線路跡と道路の高さは同じになっていました。

左の写真は道路が線路跡を横断する所から振り返って見た様子,

右の写真は,線路跡が雑木林を抜ける所から下り方面(富浦方面)を見渡した様子です。


yahooの地図には南無谷隧道の富浦口が描いてあるので,興味のある方は探してみてください。

地図を見ると,富浦の方から大きく右カーブを描いて走って来た列車は,

その先でなぜかグニャッと左によれて岩富隧道へ入っていきます。

この,グニャッとよれた部分が新線なんでしょうね。

富浦の方から大きく右カーブを描いて直線に入ったあと,

そのまま気持ち左に曲がりながらほとんど真っ直ぐに進むと,南無谷隧道にぶつかります。

この方が,線路の描く軌跡としては自然です。


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上の178Mが通過する写真の橋の近くから,下り方面(富浦駅方面)を見渡しています。

写真ではわかりにくいですが,

左側の藪の部分が築堤のようになって,右側からくる内房線に向かって真っ直ぐに延びています。

多分,旧線の跡でしょう。

97年前は,ここに汽車が走っていたことを想像すると,ワクワクしてきます。

トンネル出口から現在の内房線との合流点までの旧線跡は

yahooの地図の航空写真でも,Google Earthの衛星写真でも,はっきり確認することができました。


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南無谷隧道の富浦口は,割と楽に見ることができます。

しかし,上にも書いたように道路が非常に狭いので,歩いた方が無難です。

ただ,国道沿いに車を止める場所は全くありません。

私は南無谷海岸に止めましたが,

それとて地域の方々の迷惑にならないように気をつける必要があります。

また,岩井口の所でも書きましたが,畑や山は私有地です。

くれぐれも,ズカズカ入ることの無いようにしてください。

特に今は枇杷のシーズンですので,くれぐれも農家の方の誤解を招くような行動はなさらないように。


【余談】

枇杷山へ入れていただいた小浦の枇杷直売所で,家へのお土産に枇杷を買ってきました。

箱詰めの高価な物ではなく,傷のついた袋詰めです。

たとえ傷物でも,甘さには変わりはありません。場合によっては,箱詰めより甘いこともあります。

家で食べる分には,これで十分。昔,枇杷作りをしていたお袋も,大いに褒めていました。

傷物でも他の果物に比べると枇杷は若干高めですが,

今の時期に房州岩井や富浦へ来ることがありましたら,袋詰めの枇杷をどうぞ。

(ご贈答用には,なりませんよ。)

今年は出荷の始まるのが1週間程遅かったので,まだ,枇杷のシーズンは続いているそうです。

角張った枇杷より丸い枇杷の方が甘いとお袋は言いますが,種類にもよると思うんでね・・・。