The Changing Face of Survival in Rett Syndrome and MECP2-Related Disorders.
Tarquinio D C et al., Pediatric Neurol. (2015) vol. 53, pp. 402-411


<結果>(つづき)


 MECP2遺伝子の変異部位と死亡率との有意な関係は見いだせなかった。


表2 典型的(古典的)レット症候群患者のMECP2変異部位と死亡例(全885患者)


Mild mutations (軽症型変異)
MECP2変異/総人数/死亡者数
R133C / 41 / 1
R294X / 53 / 4
R306C / 60 / 3
3’ 末端欠損 / 78 / 1


Severe mutations (重症型変異)
R106W / 25 / 1
T158M / 95 / 5
R168X / 95 / 3
R255X / 86 / 1
R270X / 51 / 3
大規模欠失 / 75 / 6


Miscellaneous mutations (諸々の変異)
その他の点突然変異 97 / 3
挿入型変異 / 20 / 0
欠失型変異 51 / 2
エクソン1内の変異 / 4 / 0
スプライス部位変異 / 9 / 0
多重変異 / 12 / 0


(感想)
 著者が特定の変異と死亡率との間に有意な関係が見いだせなかった旨書いているとおり、特定の変異に死亡者が集中している様子は見られない。また、Mild mutationとSevere mutationとの間にも有意な差が認められていない。


 しかしながら、本論文のこの後に触れられる内容になるが、個々の患者の重症度の情報も込みで評価してみると、死亡者群は比較対象となる生存者群と比して重症の患者が多い(CSSやMBAのスコアが高い)という傾向がはっきりと表れている。


 そうしたことから、MECP2遺伝子上の変異部位で重症度や生命予後を推測することはあまり意味がないと言えよう。そして、個々の患者の実際の重症度を評価して初めて当該患者の予後の予測も意味をもってくる可能性があるということになろう。

The Changing Face of Survival in Rett Syndrome and MECP2-Related Disorders.
Tarquinio D C et al., Pediatric Neurol. (2015) vol. 53, pp. 402-411


<結果>(つづき)
 典型的、及び非典型的レット症候群患者で、心電図データのある合計613名についてQT間隔の補正値であるQTcは、以下のとおりだった。


ボーダーライン(451~470未満) 18%
異常     (470以上)    10%


 ボーダーライン又は異常値を示した者の割合は、調査期間終了時点で生存していた患者群の中では約29%であるのに対し、調査期間中に死亡した患者群の中では、21%だった。


 調査期間中(満了時)における生存/死亡と補正QTc値との間に有意差は認められなかった。


(感想)
 レット症候群患者は突然死により死亡するリスクが一般人よりも顕著に高いこと、QT延長症候群を呈する者の割合が有意に高いことから、両者を結び付けてQT延長がTdTなどの不整脈の原因となり、突然死をもたらす可能性があると指摘されている。


 しかしながら、今回の調査の結果だけを見ると、調査期間中の死亡例ではむしろQT延長傾向を示した患者の割合が(調査終了時点で存命であるQT延長傾向を示した患者の割合より)低めであるということになるので、前記仮説とは直接結びつかない結果と言えるかも知れない。


 そうは言っても、この結果はQT延長がレット症候群患者の突然死と関係ないことを意味するものではない。


 実際にQT延長を認める患者においては、当たり前ではあるけれど、それがレット者であるか否かを問わず、注意が必要であるということ。そして、注意を要する者の割合は、レット症候群患者集団の中の方が、一般集団の中よりもはるかに高いということもまた疑いのないところだ。


 うちのなの子の場合はQTc値がボーダーラインといったところなので、QT延長症候群という診断名がつく程ではないレベル。気になるけれど、経過観察以上のことは何もしていない。


 なお、本論文ではQTcが451とか470とかいう値で示されているので、QT間隔を秒単位ではなくミリ秒単位で扱っている。一般には秒単位で扱い、QTc値も0.451とか0.470などと示されるケースが多いように思う。


 QT間隔の補正式は本論文に示されていない。QT時間の実測値をRRの1/2乗で割るBazettの式か、1/3乗で割るFredericiaの式のいずれかであろうが、どちらかははっきりしない。


 頻脈の場合は補正によってQTc値が大きめに出てしまうので、心拍数に影響を受けにくいFredericiaの式で補正するのが適切と言われている(年少の児童は一般に頻脈)。日本小児循環器学会は、心拍数の早い小児でのQT時間補正に同式の採用を推奨している。

 レット症候群に関する書籍は多いとは言えないが、それでもいろいろ存在する。家族の立場として書かれた本はいくつかあり、支援機構さんや協会さんが紹介しているものが入手しやすく読みやすい良書と言えるだろう。売り上げがそれぞれの活動に資するということも好ましい。また、今年は研究班の集大成として「レット症候群診療ガイドブック」(大阪大学出版会)が刊行されたので、診断基準や諸症状、診療機関などの理解もしやすくなった。


 しかし、根本的な治療方法がない中、家族、介護者として患者に対して何ができるか、という観点にフォーカスしてまとめられた本は残念ながらわが国にないように思う。


 和書ではないけれど、強いて言えば、現在入手可能なものはこの一冊ではなかろうか。


RETT SYNDROME, Therapeutic Interventions


Meir Lotan, Joav Merrick編
Nova Science Publishers, Inc. 刊 2011


ISBN 978-1-61728-080-1 (Softcover), 978-1-61728-614-8 (Hardcover)


 原因遺伝子や発症機構等のサイエンティフィックな説明は極力排除し、治療的な介入方法について絞って記載がなされている。ソフトカバー版ならば5000円しないので、400頁を超える大部にしては極めてお買い得な一冊であると思う。