海外勤務をやっていると周囲の同僚の中から国際結婚というケースも出てくる。結婚生活の現実的試練に加えて、文化や習慣の摩擦が出てくるので大変なのだが、これからの世界情勢を考えると、個人的にはリスク分散として悪くない人生の選択肢だと考えている。中国・ロシア・北朝鮮といった不気味な核保有国に取り囲まれた日本で有事が起こった際、親戚や義理の親が太平洋を隔てた米大陸にいればノアの箱舟、彼らを頼って脱出できる。また巨額の財政赤字からハイパーインフレが起こって日本経済が沈没しても、海外に生活の足場があれば傷が浅くてすむ。

 

 南米に駐在していた時、スペイン人と結婚していた先輩がいて、ある時「自国でクーデターや革命が起こっても、国際結婚していれば亡命先がある」と少し自慢げに話していた。当時は中南米各地の軍事クーデターで何千人もの人が政治犯として処刑されてからさほど月日がたっておらず、妙に説得力があった。

 

 それでは国際結婚に伴うリスクは何か。やはり不幸にして離婚した時の慰謝料や子供の養育費の問題だろう。特に海外で現地の法律に基づいて結婚する時にはとんでもない落とし穴があったりする。チリでは結婚する時に①separación de bienesと②sociedad conyugalの2つからタイプを選ぶ制度になっている。①は比較的日本の財産分割と似ていて、通常の離婚(痛み分け)に際しては結婚後に得られた財産が二等分されるのだが、②では一度結婚すると共有財産は分割できない。そもそもカトリックの影響が強いチリでは離婚は認められておらず、離婚する場合も遡って結婚自体が無効であったとする手続きになる。日本に帰ってしまえば大丈夫と思うかもしれないが、法律の世界では「属地主義」の原則がとられていて、「公序良俗」に反しない限りそれぞれの事案が発生した国の法律が適応される。別れたつもりのチリ人の配偶者が弁護士を雇って日本で訴訟を起こせば、チリの法律に基づき裁かれることになる。

 

 結婚時の熱々の気分の時に離婚の心配事を互いに相談するのは難しいと思うが、その辺はドライに割り切るべきだろう。また結婚するならできれば日本国内で、日本の法律に従って。アウェイでやるのは再考した方がいい。

 

1992年チリ・サンティアゴ市 - 朝食会形式の商品説明会にて。右は代理店の経理部長。日系アルゼンチン人で人当たりがよく、営業・マーケティングまで幅広くこなすビジネスマンだった。