雷獣 雷獣の姿 ③
以上のように東日本の雷獣の姿は哺乳類に類する記述、および哺乳類を思わせる画が残されているが、西日本にはこれらとまったく異なる雷獣、特に芸州(げいしゅう。現・広島県西部)には非常に奇怪な姿の雷獣が伝わっている。享和元年(1801年)に芸州五日市村(現・広島県佐伯区)に落ちたとされる雷獣の画はカニまたはクモを思わせ、四肢の表面は鱗状のもので覆われ、その先端は大きなハサミ状で、体長3尺7寸5分(約95センチメートル)、体重7貫900目(約30キログラム)あまりだったという。弘化時代の『奇怪集』にも、享和元年5月10日に芸州九日市里塩竈に落下したという同様の雷獣の死体のことが記載されており、「五日市」と「九日市」など多少の違いがあるものの、同一の情報と見なされている。さらに、享和元年5月13日と記された雷獣の画もあり、やはり鱗に覆われた四肢の先端にハサミを持つもので、絵だけでは判別できない特徴として「面如蟹額有旋毛有四足如鳥翼鱗生有釣爪如鉄」と解説文が添えられている。
また因州(現・鳥取県)には、寛政3年(1791年)5月の明け方に城下に落下してきたという獣の画が残されている。体長8尺(約2.4メートル)もの大きさで、鋭い牙と爪を持つ姿で描かれており、タツノオトシゴを思わせる体型から雷獣ならぬ「雷龍」と名づけられている。
これらのような事例から、雷獣とは雷のときに落ちてきた幻獣を指す総称であり、姿形は一定していないとの見方もある。