ツクヨミ 『日本書紀』 神代紀
日本書紀・神代紀(じんだいき)の第五段では、本文で「日の光に次ぐ輝きを放つ月の神を生み、天に送って日とならんで支配すべき存在とした」と簡潔に記されているのみであるが、続く第一の一書にある異伝には、伊弉諾尊が左の手に白銅鏡を取り持って大日孁尊(オオヒルメムチノカミ。天照大神)を生み、右の手に白銅鏡を取り持って月弓尊(月読命)を生んでいる。
ツクヨミの支配領域については、天照大神と並んで天を治めるよう指示されたとする話が幾つかある。その一方で、「滄海原(あおうなはら)の潮の八百重(やおえ)を治すべし」と命じられたという話もあり、複数の三神生誕の話が並列している。
書紀・第五段第十一の一書では、天照大神から保食神(うけもち)と対面するよう命令を受けた月夜見尊が降って保食神のもとに赴く。そこで保食神は饗応として口から飯を出したので、月夜見尊は「けがらわしい」と怒り、保食神を剣で刺し殺してしまう。保食神の死体からは牛馬や蚕、稲などが生れ、これが穀物の起源となった。天照大神は月夜見尊の凶行を知って「汝悪しき神なり」と怒り、それ以来、日と月とは一日一夜隔て離れて住むようになったという。これは「日月分離」(じつげつぶんり)の神話、ひいては昼と夜の起源である。
一方、古事記では同じ展開で食物の神(大気都比売神・おほげつひめ)が刺されるが、それをやるのは須佐之男命である。この相違は、元々いずれかの神の神話として語られたものが、もう一方の神のエピソードとして引かれたという説がある。