法然 思想と教え
一般に、法然は善導の『観経疏』によって称名念仏による専修念仏を説いたとされている。ここでは顕密の修行のすべてを難行(なんぎょう)・雑行(ぞうぎょう)としてしりぞけ念仏を唱える易行(いぎょう)のみが正行(しょうぎょう)とされた。専修念仏とは、念仏こそが宇宙において唯一絶対的な存在である阿弥陀如来によって選択(せんちゃく)された極楽往生のための唯ひとつの行なのであり、それゆえひたすら念仏のみを修せよという教えである。
法然の教えは都だけではなく、地方の武士や庶民にも広がり、摂関家の九条兼実(くじょう かねざね)ら新時代の到来に不安をかかえる中央貴族にも広まった。兼実の求めに応えて、その教義を記した著作が『選択本願念仏集』(せんちゃくほんがんねんぶつしゅう)である。日本仏教史上初めて、一般の女性にひろく布教をおこなったのも法然であり、かれは国家権力との関係を断ちきり、個人の救済に専念する姿勢を示した。