般若経の空(くう)
『般若経』が説かれて初めて大乗仏教の根幹をなす教えが完成した。その中で、空が繰り返し主張されている。その原因の一つは、この経典を編纂した教団が批判の対象とした説一切有部(せついっさいうぶ)の教えが、存在を現に存在するものとして固定化して観ずる事に対して、厳しい否定を表し、一切の固定を排除し尽くすための事であろうと考えられる。『般若経』の空は、このように全ての固定的観念を否定する事を主目的としている。
『大品般若経』では「空」を「諸法は幻の如く、焔(陽炎)の如く、水中の月の如く、虚空の如く、響の如く、ガンダルヴァの城の如く、夢の如く、影の如く、鏡中の像の如く、化(変化)の如し」と十喩(じゅうゆ)を列挙して説明している。 さらに空を分類して、内空(ないくう)・外空(げくう)・内外空(ないげくう)・空空(くうくう)・大空(たいくう)・第一義空(だいいちぎくう)・有為空(ういくう)・無為空(むいくう)・畢竟空(ひっきょうくう)・無始空(むしくう)・散空(さんくう)・性空(しょうくう)・自相空(じそうくう)・諸法空(しょほうくう)・不可得空(ふかとくくう)・無法空(むほうくう)・有法空(うほうくう)・無法有法空(むほううほうくう)の十八空(経典によっては二十空)を挙げ詳説している。