権現(ごんげん)
権現(ごんげん)は日本の神の神号の一つ。日本の神々は仏教の仏が仮の姿で現れたものであるという本地垂迹思想に基づいた神号である。権という文字は「権大納言」などと同じく「臨時の」「仮の」という意味で、仏が「仮に」神の形を取って「現れた」ことを文字で示している。
インドのバラモン教やヒンドゥー教の神々は「天」という神号で護法善神(ごほうぜんじん)として大乗仏教の天部に取り入れられたが、日本仏教において日本の神々が仏教に取り入れられた際には本地垂迹に基づき権現という神号が多く用いられた。権現には山王(さんのう)神道(天台宗)・両部(りょうぶ)神道(真言宗)に基づくものや、自然崇拝(山岳信仰)と修験道が融合したもの等がある。
神号の事例
神社に由来した事例
春日大社は武甕槌命(たけみかづちのみこと)(一殿)・経津主命(ふつぬしのかみ)(二殿)・天児屋根命(あめのこやねのみこと)(三殿)・比売神(ひめがみ)(四殿)の四柱の祭神を祀るが、中世には興福寺が神宮寺として支配的な影響を持ったため、神仏習合に基づいて不空絹索観音(一殿)・薬師如来(二殿)・地蔵菩薩(三殿)・十一面観音(四殿)の垂迹として春日権現と呼ばれてきた。ただし、武甕槌命や天児屋根命は古事記や日本書記などの日本神話に登場する神道固有の神々であり、「武甕槌権現」「天児屋根権現」というような神道本来の神名と神仏習合思想が混在した神号は存在しない。
地名に由来した事例
山岳信仰と修験道が融合した立山修験や白山修験、羽黒修験などでは山の名が冠されて、それぞれ立山権現、白山権現、羽黒権現という神号になっている。また日光修験の日光権現(日光二荒山の祭神)は、勝道上人が開基した二荒権現(ふたらごんげん)が「日光」という地名の由来になり、その地名が神号と結びついた事例である。
神社名や地名を用いる以外では、その神社の祭神の数で「六所権現」などと呼ぶこともある。(この場合は複数の神をひとまとまりの神としてみている。)組み合わせて、「日光三所権現」のように用いられることもある。「金剛蔵王権現」(金剛蔵王菩薩)のように本地仏の名前がそのまま垂迹神の名前として用いられている例もあるが稀である。これらのことは明神号にも多くが当てはまる。
神仏分離(しんぶつぶんり)・廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)
明治維新の神仏分離令(神仏判然令)で権現社・権現宮の多くが廃されたとともに、「権現」の神号や修験道が一時禁止されたため、権現の神々は当時の政策に基づいて本来の神社の祭神に戻されたり、修験道に基づく神々は強制的に神道の神々として改変(祭神の変更)がされた。後者の事例としては復古神道・国学の影響下で、火難除けの愛宕(あたご)権現や秋葉(あきは)権現が廃されて古事記・日本書紀に記される火の神である火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)に、白山(はくさん)権現(白山修験)が廃されて日本書紀に記される菊理媛神(くくりひめのかみ)に、祭神が変えられた例などがある。