私の様に、外部放射線照射を受け、経過観察をしている方がいると思います。
これから、この治療を受けられる方もいると思います。
皆さん、気になるのは、照射後のPSAの動きとPSA再発だと思います。
今回、照射後の前立腺がん細胞の状態とPSAの変化を、簡単にまとめました。
以前のブログで何度か書きましたが、照射によって、直ちに前立腺がん細胞が死滅するわけではなく、死滅するまで2〜3年要します。
また、自身の最初のブログで書いたことですが、照射によって、分裂はできないが死滅せず生き残る前立腺がん細胞が存在します。
この細胞は、強い障害を受けており、正常の前立腺細胞より、漏れ出すPSAが多い可能性があります。
iScience. 2022 Oct 25;25(11):105430. doi: 10.1016/j.isci.2022.105430. eCollection 2022 Nov 18.
論文中にあった図です。
EBRT、外部放射線治療のことです。
A 照射前:前立腺がん細胞で満たされています(うす赤色)。
B 照射前半(開始直後):生き残った放射線に抵抗性の前立腺がん細胞(赤色)と不可逆的に障害された放射線高感受性の前立腺がん細胞(分裂できない、ネズミ色)が見られます。
C 照射後半:放射線に低感受性の前立腺がん細胞も不可逆的に障害されます(分裂できない、黒色)。生き残った放射線に抵抗性の前立腺がん細胞(赤色)も認められます。
D 照射終了後: 不可逆的に障害された前立腺がん細胞(黒色)の中に、生き残った前立腺がん細胞(赤色)が混じります。この場合、生き残った前立腺がん細胞は、男性ホルモンに反応し、細胞増殖を始め、PSA再発に繋がります(図のPnからPsへの赤い線)。
一方、生き残った前立腺がん細胞(赤色)が無い場合には、回復した正常前立腺細胞と不可逆的に障害された前立腺がん細胞(黒色)だけになるので、PSAは一定の値で推移します(図のPnからの黒い点線)。
ある医療施設のHPに「前立腺がん放射線治療後の前立腺特異抗原(PSA)の動き」が出ていました。その中の図が、とても分かりやすいので、トレースしました。
高リスクの場合です。
詳しくは、 https://misugikai.jp/riniac_column/vol-11/をご覧になって下さい。
ホルモン療法終了後、男性ホルモンの回復に伴い、1-3年くらいでPSAは徐々に増加して、やがて0.1-1.0 ng/mLくらいのところで安定します。0.5 ng/mL前後が多いと言われています(図の青線)。
中にはもう少し高い値で安定する場合もあります。1.0 ng/mL前後です(図の緑線)。
PSA再発の場合には、PSAが持続的に上昇し、2.0 ng/mLを超えて行きます(図の赤線)。PSAの最終値が、治療前値まで達してしまうと図示しましたが、ホルモン治療を再開しない場合であって、通常はホルモン治療の再開によって、PSAは急速に低下します。
PSAが高い値で安定するか、低い値で安定するか、何によって決まるのでしょうか。
考えるに、回復した正常前立腺細胞と不可逆的に障害された前立腺がん細胞の両者の細胞数によって決まると推測します。
また、男性ホルモンの値が、影響する可能性もあります。
注意すべきは、今は細胞分裂しないが、その能力を持ち、障害を受けず潜んでいる前立腺がん細胞(前立腺がん幹細胞)があるかも知れないことです。
また、照射によって、正常の前立腺細胞のDNAが傷つき、将来、前立腺がん細胞に変わる可能性もあるかも知れません。特に、高度PINと呼ばれる場合です。
ただし、これらの可能性は、低いと推測します。
もし、照射範囲外に前立腺がん細胞が存在していた場合には、男性ホルモンの回復時期から前立腺がん細胞の急速な増殖が始まり、PSAは急上昇すると思います。
外部放射線治療を受けた方では、照射して3年以降が、PSA再発するか否かの分かれ道になりますので、注意深いPSAの観察が必要と考えます。
自分の健康、自分の周りで起こる出来事など、結局なる様にしかならない......と感じるこの頃です。