何らかの目的に沿って広い意味での教育をするとき。
志願者全員に対応することが物理的に困難であれば、そこに選考が必要になります。
この場合、できれば伸びる可能性の高い人だけを確実に選び出したいですよね。
それを実現していた教育者の話が、“やればできる”の41ページに出ています。
同書によれば、「独自に編み出した選考方法で、志願者のマインドセットをテストしていた」とか。
ほめられたとき、欠点を指摘されたときの相手の反応を観察し、その結果に基づいて誰に教えるかを決めるのです。
彼女の名は、マリーナ・セミョーノワ。
(本書ではセミョーノヴァと「ヴァ」で表記されていますが、一般に「ワ」と書かれるため、ここでは後者を使います。)
英語表記はMarina Timofeyevna Semyonova、
ロシア語ではМарина Тимофеевна Семёнова です。
ボリショイバレエの天才指導者とも言われ、教える立場から引退したのはなんと96歳のとき。
昨年102歳で亡くなったときの海外の報道には、非常にレベルの高い踊り手を何人も輩出しつづけた話が出ていました。
このセミョーノワ氏がどういう指導方法をとっていたのかに興味を引かれ、資料をあたってみたのですが……。
探し方が甘いのか、有意な情報は見あたりません。
彼女に師事したとされるダンサーたちを追いかけても、ほとんどわからないのです。
それでもなお諦めずに探していくと、彼女のもとで学んだ日本人が浮かび上がってきました。
左膝靭帯断裂により再起不能宣告を受けながら、奇跡の復活を果たした斎藤友佳理さんです。
「セミョーノワ」というキーワードで過去の新聞報道や雑誌記事を総当たりして、見つけました。
怪我は、1996年、『くるみ割り人形』の舞台でのこと。そのときすでに、29歳。
復帰は不可能とまで言われながら、2年後の98年に『ジゼル』で舞台に戻っています。
そんな彼女の著書に、次のようなくだりが出てきました。
--引用ここから
セミョーノワ先生といえば、誰もが認める"バレエの女神" "伝説のバレリーナ"。「私の先生はマリーナ・チモフェーエヴナ・セミョーノワ」とひとこと言うだけで、周囲の見る目が違ってくるほどの絶対的な存在だ。
(中略)
セミョーノワ先生はこのときすでに八十歳になっていたが、まったく年を感じさせない迫力あるリハーサルをする。言われたとおりにできないと大声で怒鳴られ、靴で叩かれたことも何度もあった。リハーサルが終わると、髪の毛をきっちりまとめていたお団子の部分が、ゆるんで下がってしまうくらい激しい教え方だ。
--ここまで
(『ユカリューシャ』 pp.102~105)
これほど激しい教え方をしながら、生徒が離れていくどころか、世界トップレベルの実力を身に付けていく…。
最初の時点で「しなやか」さんだけを選んでいたことが影響しているのは、想像に難くありません。
だとすると、セミョーノワ先生に選ばれた斎藤さんは、おそらく「しなやかマインドセット」の持ち主。
そのご家族-特にお母様-も、しなやかである可能性は高いでしょう。
セミョーノワ流の教え方に関する情報は手に入らないにしても、斎藤さんとお母様である木村公香さんの指導方法を追えば、そこから「しなやかさんを育てるヒント」が見えてくるかもしれません。
ということで、追跡しました。
その結果については、別記事で。
関連情報
1989.08.28 東京夕刊 13頁
1996.02.27 東京夕刊 12頁
2003.10.20 AERA 56頁
ブルース君のママが「こちこちマインドセット」ではないかと推測した理由を、残しておりました。
邦訳の中で、「あのへたくそな絵はだれが描いたの?」という彼の質問に、「とてもすてきな絵を、へたくそなんて言うんじゃありませんよ」とたしなめた、ママ。
それに対し、「ここでは、じょうずな絵なんて描かなくていいのよ」と答えた、幼稚園の先生。
「だれ、この消防車をこわしたのは?」というブルース君に「だれが壊したのかわかっても仕方ないでしょ」と、ママ。
かたや「おもちゃは遊ぶためにあるのよ」と答えた、先生。
ブルース君の質問は「だれ」ですから、二人とも正しく答えていないと思うかもしれませんね。
でも、先生は適切に対処できているのです。
なぜなら、彼が本当に聞きたかったことは別のところにあるから。
引用元になったギノット博士の著書で小見出しが「子どもの質問には隠れた意味がある」になっているのも、そういう理由でしょう。
その隠れた意味を読み取れなかったママは、こちこちマインドセット?
・・・だと思ったわけでは、ないのですよ。
むしろ、ブルース君の質問のほうからそう感じました。
『「やればできる!」の研究』に、彼が知りたかったのは自分が優劣の評価をされる対象にならないかどうかだと示されています。
5歳にしてそれが気になるということは、おそらく彼には日常生活の中で評価される場面が少なからずあるのでしょう。
その場合、優れていたらどうなるかよりも、劣っていたらどうなるか(叱られるのか etc.)のほうが、より一層気になるはず。
でも、ブルース君はそのことをストレートに聞けませんでした。
表現力の乏しさも若干はあるのかもしれないとはいえ、相手の顔色をうかがっていますよね。
これは、何を言っても自分は安全だと実感できていないことの裏返しではないでしょうか。
そうなる一因として、両親の一方もしくは両方が「こちこち」だからという可能性が高い…。
「やればできる!」の著者も書いているように、一人の人間を単純に「こちこち」「しなやか」で分類することはできず、対象によって「こちこち」にも「しなやか」にもなり得ます。
でも、ブルース君のママの場合、少なくとも子どもとの向き合い方という点では「こちこち」。質問に対する答え方まで考慮すれば、ほぼ確実ではないかと思うわけです。
もちろん、引用元の本にも「やればできる!」にも、そんなことは書かれていません。
あくまで推測にすぎませんけれど、わたし自身の経験に照らしても、そんなに外れていないだろうなと。
実際、PTA役員や教育ボランティアとして子どもたちと接していると、親御さんのマインドセットが透けて見えることがよくあるのです。
そしてたいていは、ご本人にお会いするとおおむね予測どおりです。
裏を返せば、そのくらい子どもに対する親のマインドセットの影響が大きいということですよね。
お子さんのいらっしゃるみなさま。
マインドセットを「しなやか」に変えていくことは、自分自身はもとより、お子さんの人生にとっても好影響だと思いますよ。
関連記事 (上から順につながっています)
○ 質問の裏に隠れた、本当の意味
● 親の考え方が子どもにおよぼす影響 ←現在地。
まだ漠然としたアイディアにすぎなかったその時点で、最初に取り上げるのはブルース君の話にしようと考えていました。
途中、いろいろ調べる過程で若干の紆余曲折はありましたが、結局もとのところに戻っています。
具体的には、第5章「親と教師:マインドセットを培う」に出てくる5歳のブルース君。
「一九五〇年代から七〇年代にかけて活躍した育児の達人、ハイム・ギノットがこんな話を紹介している」(p. 165)という導入からはじまる、「質問」の話です。
ブルース君のママは、おそらくかなりの「こちこちマインドセット」の持ち主ではないかと思います。
その理由は明日以降に譲りますが、本書をお持ちの方はぜひ考えてみてください。
なぜ(=どのくだりから)こちこちマインドセットだろうと推測できるのか、ということを。
一方、幼稚園の先生はまったく違いました。
そのおかげで、ブルース君は安心して幼稚園に通うことができるようになるのです。
さて。
この話は、ハイム・G・ギノット氏の著書『Between Parent and Child』に載っています。
(原著はブルース君ではなくNancyちゃん。)
邦訳『子どもの話にどんな返事をしてますか?』では、「子どもの質問には隠れた意味がある」という小見出しのついた章にある2つ目のストーリーです。
草思社
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ここには、日常生活でよくある会話の具体例が、豊富に掲載されています。
お子さんのいらっしゃる方は、すぐに応用できる「パターン」が載っていると考えて頂いても差し支えないかと。
たとえば同書の「はじめに」には、こんなことが書かれています。
--引用ここから
親は、具体的な解決策を必要とする具体的な問題に直面している。「子どもにもっと愛情を」「子どもにもっと関心を示しなさい」「子どもにもっと時間をあたえなさい」といった決まりきったアドバイスでは、助けにならないのだ。
--引用ここまで (p. 14)
「何をする必要があるか」だけを説かれても、「どうすれば」それができるのかわからずに困る人のために、ギノット博士は具体例を多く示しているわけです。
本の内容自体は親子を中心テーマに据えていますが、ここに書かれていることはそのまま夫婦や上司と部下の関係にも当てはまるでしょう。
『「やればできる!」の研究』と併せて読むことで、お互いに良い形で成長するための「好ましい会話」と「好ましくない会話」が「なぜ」そうなのかという理由も、よくわかると思いますよ。
【子どもの話にどんな返事をしてますか?】
■参考情報
草思社「立ち読みコーナー」
Benesse 教育情報サイト「教育ニュース」オススメ本
■書評など
おでこのめがねで読書レビュー
読書の記録(書評)
Atchoo!ポヨとコロの成長日記&ママの雑記
ほんの記録
Better Life, not just a Busy Life
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草思社・刊『「やればできる!」の研究』からの引用
「Information
」にも書いたように、同書のプラスαをするための場ですので、この本からの引用に関しては書名を割愛してページ番号だけを記載する場合があります。
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