上掲写真は、本書のアニメライズ書籍。 4巻まででている。

 

1巻 《前編》  より

 

【比翼の鳥、連理の枝】 

「2羽の体の片方ずつがくっついてしまって1羽になった鳥のことだ。互いの気を合わせないと飛ぶこともできぬ。連理の枝は、2本の木の枝が重なって、1つにくっついてしまったことだ。自然界では稀にある」

想像してみて、少し笑う。(p.125)

 最近の結婚式では、あまり言われないだろうけど、数十年前までの結婚式では、おそらく最も多く引用される定番表現だったのだろう。チャンちゃんとしても、第1巻を読んでいる段階では、古典のありふれた美辞麗句と思いつつも、物語の最終5巻では、涙を誘う美しくも悲しい句という思いで読んでしまっていた。

 時代考証するなら、この(鎌倉)時代にあってはマットウ至極な極美表現のはず。

 

 

【濃藍】

「あ、明かりを・・・消して」

彼は傍らで揺れる炎を吹き消す。

その瞬間、唐紅の光から濃藍に転じる。

 

「好きで、たまらぬ、千鶴子」

 

この声、この手。

私の半分。

比翼の鳥と、連理の枝。

どちらも、互いがいなければ生きることもできない。

私もきっと貴方がいなければ何もできなくなる。

そういうものであればいいと、浮かされる世界の中で考えた。

全てが濃藍の中に沈む。

私にはその音の響きが、どうしても『恋』と『愛』にしか聞こえないのだけれど。 (p.127)

「濃藍」を音読みすれば「ノウラン」。大和言葉として訓読みすれば「こいあい」。

電気照明などないこの時代、僅かな光の中で感受する色彩の濃淡と、それを表現する言霊・音霊は、深く情感とリンクしていたことだろう。

 

 

【大塔宮】

「宮様が、延暦寺の大塔に入室して生活し始めたのは、10の時でございます。なので、大塔宮様とお呼ばれになりました」

「大塔って何?」

「建築物でございます。延暦寺の中にそのようなものが建っていたと思ってくだされば結構。宮様はその大塔で生活なされました」 (p.150)

当時、都のすぐそばにある比叡山延暦寺の僧兵たちを敵に回すか味方にするかは、政権の存続にかかわる最重要事項だった。故に、父・後醍醐天皇の作為として、子・護良親王は幼少期を延暦寺で過ごしていた。

一方、吉野の 金峯山寺 は、『太平記』に記されているように青年となった大塔宮が鎌倉幕府と戦うために籠っていた重要拠点(本陣)だったのだけれど、ここの蔵王堂前にも、もはや建物自体はない大塔宮跡地が今も残されている。ここは、陥落寸前に大塔宮を逃がすために、忠臣・村上彦四郎が壮絶な最期を迎えた所で、大塔宮護良親王も村上彦四郎も共に、現在は 鎌倉宮 に祭られている。

2015年、この金峯山寺を詣で大塔宮跡地を見た時に感じた、止めどない悲しみの想いと涙、その理由がなぜなのか全く分からないまま、2011年、足利署での23日間に渡る不当留置、2018年、竹田和平さんが作った百家百尊の集いから縁あるモノとして届いた足利尊氏のメダルを経て、チャンちゃんは本書へと導かれていた。

足利側の御魂であるなら、なぜ大塔宮跡地で悲しみの想いが湧いたのか? それが分からない・・・それを知りたい・・・という思いで。

 

 

【愛する人がいるだけで・・・】

「・・・人間とは不思議なものだな」

私の腰帯を解きながら、彼は微笑む。

「大事なものができると、欲深くなるイキモノなのだな」

戸惑って瞳を揺らすと、彼は笑う。

「ヒナがいるだけでどうしても死にたくなどないと思うとは、不思議なものだ」

胸の内に湧き上がった愛しさで、泣きだしそうになる。

好きで好きで仕方なくて、心のどこかに巣食う寂しさも影をひそめる。(p.180)

 愛する人が“いる”か“いない”かは、この世界を生きて行く上でかなり大きいであろうことは、誰でも魂の領域で了解しているだろう。生死をかけた戦の時代においては、特にその光芒が際立つはず。

けれど、『太平記』の時代を生きた大塔宮にしても、第1次大戦の時代を背景にした『武器よさらば』のフレデリックにしても、雛鶴とキャサリンとその子の結末は同じ・・・。

それでも、魂としての存在を信じるだけの叡智があるなら、時空を超えて再び出会うことは必ずできるはず。

 

 

【未来を知る者】

「足利家に、遺言が伝わるだろう?」

・・・中略・・・。

「高氏から数えて10代前の足利家当主が遺言したはずだ」

・・・中略・・・。

「・・・自分は7代後の孫に生まれ変わって、天下を取ると。けれどその7代目はそれを実現できなかったから、それから3代以内の子孫に必ず天下を取らせてくれと神様にお願いして自害したんだろ」

唇の端だけで笑うと、高氏は俺から1歩、2歩と後ずさりした。

「その7代目から数えて、あんたが3代目。足利家当主、足利高氏」

「な、なぜそれを・・・中略・・・なぜ内容を知っている!!」

恐怖が頂点に達したのか、高氏は取り乱して声を張り上げた。(p.182-183)

足利高氏(尊氏)をビビラセタのは、千鶴子とともにタイムスリップしてきた歴史に詳しい弟の大和。

大和は高師直として登場している。さながら『インターステラー』版の『太平記』。

因みに、足利高氏(尊氏)の弟は、足利高国(直義:ただよし)であり、大塔宮最期の時に鎌倉にいたのは直義。

ところで、

弟の大和は、姉の千鶴子(雛鶴)を破滅に追いやる役割を担うことになっているのだけれど、これを単なる作者による興味本位の演出にすぎないと言えるだろうか。家族というのは往々にして恩讐の組み合わせという因縁によって成り立っているものなのである。

 

 

2巻   へ続く