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目が合った。
僕は少し戸惑ったが、軽くそしてそして紳士を探るように会釈した。
いつもなら、老紳士、いやタチバナさんは話が終わるとゆっくりベンチから立ち上がり元来た道を帰っていく。
今日はベンチに座っていた。
そして話をしていた僕と目が合う。
これは話を聞くチャンスだろう。
直接聞いた方が早い。
「お話、あ、ありがとうございます」
「いいえ〜、ではまた」
と言って女性と別れ、僕は老紳士に近づく。
老紳士は待っていたとばかり僕の方を穏やかな表情で見ている。
近づくや否や老紳士から言葉が。
「こんにちは、貴方は最近僕の話を聞きに来てくれてますね」
「初めまして、っておかしいですかね💦、何度も野次馬みたいな真似してすみません💦 皆さん真剣な話をされてるのに僕は聞くだけでして…」
「いやいや、いいんですよ。そんな方もいらっしゃいますからね。人生を生きていく、と言うと大袈裟ですが平和に暮らすためのヒントを話しているだけですから😊」
「そうですね、ヒントですね。それを皆待ち望んでるんですね」
「今の時代実に生きづらい…皆さん大なり小なり色々抱えて生きてます。」
「……」
「そんな方に生きやすくするヒントを出しているだけです。こんな老いぼれの話を聞きに来てくれる。実に有難い事です。」
そう言って老紳士は少し遠くを見た。
「あのぅ、聞きたいことがあるんですが、」
僕は切り出した。
「はい、あの方の事ですね?僕が悪口を辞めなさいと言った」
「はい、そうです」
「先程聞いてましたね、あの方に。こんな老いぼれでも話は聞こえてきました」
「すいません💦探る訳ではなかったのですが気になったもので…」
「あの方、亡くなったと聞きました。孤独死だったようですね…どうしてそんな急に…」
「あの方ね、貧乏神に食われたんですよ。」
「(。=`ω´=)ぇ?」
「貧乏神です。貧乏神は実は物質的に貧乏にする訳ではないんですよ。確かに物質的にも貧乏にもなりますが、皆さん誤解されてると思います」
貧乏神?!に食われた?!
興味深い話だ。
貧乏神は人を物質的に貧乏にする訳ではなくて人を食うとは。初耳だった。
「貧乏神は悪口が大好きでね。普段は冷蔵庫と天井の隙間に居るんですよ。真っ黒でモヤモヤした雲の様な煙のようなものでね。そこで家の中を見渡してるんです。家の中と言うより住んでる人達を見てるんです。」
「僕の思っていた貧乏神とはまるで違いますね💦」
「大抵の人はそうだと思いますよ、貧乏神は人を観察して取り憑けるのか見極めます。そしてその人のエネルギーを喰らいます。」
「そのエネルギーが悪口なんですか?」
「そうです、悪口です。家の中で悪口を言っていると、どんどん負のエネルギーが充満してきます。それが貧乏神の好物なんです。」
「ただ悪口(負のエネルギー)を食べていってくれるので最初の頃はあまりわかりずらいと思います。言ったあとはスッキリしてるはずなので。」
「まぁ確かに。吐き出せばスッキリはしますよね。」
「それが毎日毎日悪口を吐き出してみなさい。貧乏神はエネルギーを取り続けます。するとあの狭い天井と冷蔵庫の隙間には収まり切れなくなります。どんどんはみ出て家全体を覆ってしまいます。」
「家までも覆ってしまうんですか?!」
「それほどの負のエネルギーって事です。そして負のエネルギーで満たされた家の中はとても暗く荒んできます。すると家人も病んでしまいます。家に居られなくなります。負のエネルギーを排出して取り込まれる。そして最後は生きる屍です。」
「……なるほど……」
「自分の出した負のエネルギーによりそれに喰われるとは、貧乏神とはそう言う意味なんですね」
「なのであの方に言ったんです。今すぐ悪口を辞めなさいと。もうあの時は遅いくらいでしたが…あの方自体がもう真っ黒だったので……でも少しでもいい方向に行って欲しかった…」
そう言って老紳士は寂しそうな顔をした。救えなかった事を悔やむように。
「私も誰でも救える訳ではないと思っています。でも出来るなら少しでも平和に暮らして欲しいと思ってヒントをだしているんですが、聞いてくれる人そうでない人、色々いるのでね。そればっかりは私だけでは…ね。私も霊感が有るとかではないと思ってます。でも何故かわかる。不思議ですがね。」
「人はそれを霊感と呼ぶのでは?」
「うーん、霊感…とは違うと思いますよ、俗に言う幽霊とか呼ばれるものは見た事有りません😊
ですが、その人を見た時黒かったり薄かったりたまには家が視えたり、あの方の場合は家も視えてましてね、あぁこれは貧乏神ってすぐ分かりました。そしてあの方自体も真っ黒で…」
それは霊感じゃないのか?と思ったが老紳士が違うと言うのでそこまで突っ込まなかったが…
確かに老紳士には不思議な力があるみたいだ。
とりあえず、、
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貧乏神は負のエネルギーのようなのもで(真っ黒で雲のような…)何故か冷蔵庫の上におり、家人を観察。そして家人から出る負のエネルギーを喰らい家人、家屋までも喰らう。そして死に至らしめる。
皆さんも気をつけた方がいい。
悪口(負のエネルギー)は何一ついい事は生まない。
貧乏神を生むだけだ。
負のエネルギーは人をも貪り
物質も貪る。
「貴重な話をありがとうごさいました。」
僕は一礼をした。
「また機会があればいらっしゃい。」
老紳士は穏やかに言った。
「ぜひ、また立ち寄らせて下さい。」
と言って僕はその場所を後にした。
[完]