「カメ」が「ウサギ」を抜く時。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

「カメ」が「ウサギ」を抜く時。


満を持して。第14節。VS最強の古巣レアル・ソシエダ。ホーム
の続きです。



 どうも!!皆さん、お元気ですか?日本代表は今日のウルグアイ戦からハビエル・アギーレ監督による新体制がスタートしますね。ホンジュラス代表は一足先に昨日、中米杯のベリーズ戦で新体制がスタートしました。結果は「2-0」で勝利。相手が明らかな格下なので評価の対象にはなり難いですが、とりあえず初陣を勝利で飾れて良かったと思います。僕たちU-20代表も来週から来年1月の最終予選に向けて再スタートを切る予定です。必ずW杯出場の夢を実現します!!

 ところで、上記のホンジュラス(フル)代表…。思いもよらないトラブルが発生しました。中米杯を戦うために開催国アメリカに向けて一昨日ホンジュラスから旅立ったのですが、その際、サン・ペドロ・スーラの空港にて、何と新GKコーチがイミグレーション上の問題で渡航許可が下りず、彼の荷物だけがアメリカに送られ、当の本人はアメリカに行けずホンジュラスに残らざるを得ない…という事態が起こったのです。ありえない!!しかも、その理由がもっとありえない。何と、空港に突然、彼の元妻と弁護士がやって来て、離婚の際に未払いとなっている子供の養育費と慰謝料の支払いを求めて彼を訴えたらしい!!えええええええ!!これによりホンジュラスは、今回の中米杯を「GKコーチなし」で戦う事となりました。改めて「ホンジュラスという国は何が起こるか分からんな…」と、ただただビックリしております。とりあえず僕は、彼の代わりにいつフル代表に呼ばれても良いよう、常に準備だけは万全に整えておこうと思います。



 

 またまた前置きが長くなってしまいましたが(汗)、ここから今日の本題に入らせて頂きます。

 昨年に所属していたパリーヤス・オネでのシーズンに関して、最後まで書き終える事ができず、半年前に「第15節」の話を書いて以降、更新が止まっていました。自分としては「パリーヤス・オネのシーズンの最後に何が待っていたのか」についてブログに書きたい気持ちが強く、いつも更新が止まってしまっていた事が気になっていました。よって今日、実に半年ぶりに、パリーヤス・オネでの戦いについて書こうと思います(もう誰も半年前の話の流れを覚えている人はいないかもしれませんが…)。


 実力がなく、第2、第3GKに過ぎなかったマリオが、
素直にコーチの言う事に耳を傾け、課題克服に向けて謙虚かつ真面目にコツコツと取り組める才能により2ヶ月間で信じられないほどの飛躍的な成長を遂げ、前節、ついにスタメンの座を勝ち取りスーパーセーブを連発して、26歳にして人生初となる1部リーグ勝利を飾った話を前回(半年前に)書きました。レアル・ソシエダのGKオスカル・ギエンの話と非常に似ていますが、別人の話です。

 しかし、活躍が1試合だけで終わってしまっては、「実力ではなくマグレだった」と言われてしまい、評価されません。彼の本当の意味での真価が問われるのは次の試合…第16節の強豪モタグアとのアウェー戦でした。

 半年前のブログで僕は「このモタグア戦で監督は思いもよらない奇策を執った」と書きましたが、一体、何をしたのか?実は監督、このモタグアとの一戦に「本来レギュラーではない選手を半分以上起用する」事を決断したのです。理由は「モタグア戦の後に中2日でホームでの試合があり、そのホームでの試合こそより重要で、絶対に勝たなければならない。だからその試合に向けてモタグア戦では主力を温存する」という事でした。

 監督が言う事も理解できます。ただ、我々は10チーム中8位のチーム。主力を温存して勝ち点を計算できるほど強豪ではありません。しかも相手は「4大ビッグクラブ」であるモタグア。しかもアウェー戦。「勝つのが難しいモタグア戦を捨て、次のホーム戦に懸ける」といった意図が見える今回の主力温存には、正直、疑問を感じました。どの試合も重要。主力温存などせず、「雑草軍団」らしく目の前の1戦1戦にその時のベストメンバーで臨み、全力で戦っていくべきだと強く感じました。

 それでも、監督の決断は絶対です。監督の決断を尊重して黙って従います。



 こうして、ついに試合の日を迎えました。

 半分以上の主力を欠くパリーヤス・オネは、案の定、キックオフ直後からモタグアに試合を完全に支配され、防戦一方に陥ります。ここまで圧倒的に攻め込まれてピンチ連続の試合は、かつてなかったほど…。失点は時間の問題…。


 しかし、ここに立ち塞がったのが、この日もスタメン出場したGKマリオでした。


 至近距離の決定的シュートを抜群の反応と飛び出しで防げば、何度となく放り込まれるクロスボールも完璧に処理。「飛び出し」「クロス処理」は、2ヶ月前までマリオが苦手としていたプレーです。以前まで「弱点」だったプレーを練習で改善して逆に「武器」に変えてチームを救う獅子奮迅の活躍を見せるマリオの姿に「マリオも、ここまで成長したか…」と感動させられました。



 そして、試合終了。



 パリーヤス・オネ、主力を半分欠く中、アウェーで強豪モタグアを見事に完封して「0-0引き分け!!!!勝ちに等しい「貴重な勝ち点1」を獲得しました!!!!



 神懸り的スーパーセーブを連発したGKマリオは、ホンジュラス唯一のスポーツ紙「Diez」が選定する、この試合のMVPに選ばれました!!もちろん、マリオがMVPに選ばれたのは、彼の26年間の人生の中で初めての事です!!

GKマリオ、MVP!2013




※マリオの活躍でチームも8位から「上位プレーオフ」進出圏内の6位に「勝ち点2差」の7位に浮上しました!!

パリーヤス順位表、第15節





 つい2ヶ月前まで基礎技術も実力も才能も何もなく、1部リーグで戦った経験もなく、パリーヤス・オネの中でも第2、第3GKに過ぎなかったマリオが、まさか「MVP」に輝く日がくるなんて…。二人三脚で取り組んできた日々を思い出すと、感無量で思わず涙が出そうになりました。

 GKとしての才能は、2試合前までスタメン出場していたサンティ二の方が遥かに高かったです。言ってみれば、サンティ二は「ウサギ」。

 ところがサンティ二は
プラテンセ戦で活躍してDiez選定の「ベストイレブン」に輝いて以降、勘違いして謙虚さを失ってしまい、GKコーチである僕の言う事も次第に聞かなくなって、練習にも100%で取り組まなくなり、試合でのパフォーマンスを低下させていきました(←多くのホンジュラス人選手が陥る悪しき習慣)。

 その間…。「ウサギ」(サンティ二)があぐらをかいて歩を止めている間…。「追い付くはずがない」と思われた「カメ」であるマリオは、素晴らしい姿勢で練習に取り組み続けてみるみる成長していき、一歩一歩、確実にウサギとの距離を縮めていきました。

 それでもまだ、カメに距離を縮められている事に気付かないウサギ、サンティ二…。ついには致命的ミスを犯し、スタメンの座を失ってしまいます。そして、代わりにスタメン出場のチャンスを得たカメであるマリオは、見事にそのチャンスを生かして2試合連続で神懸り的な好パフォーマンスを披露。この2試合で監督、コーチ、そして選手からの強固な信頼を勝ち取ったマリオ…。それからは二度と、サンティ二にレギュラーの座を譲る事はありませんでした。



 「カメ」が「ウサギ」を追い抜いた瞬間でした




 この2試合で完全に覚醒したマリオは、僕がパリーヤス・オネを退団してからも、現在に至るまで実に1年以上、不動の守護神としてスタメンの座に君臨し続けています。

  
 
レアル・ソシエダでも、実力や才能はこのマリオ以下だったGKギエンが、2ヶ月間で信じられないほどの飛躍的成長を遂げ、「55試合連続フル出場中で2季連続リーグ最小失点」を成し遂げていたGKサンドロからスタメンの座を奪いました。

※詳しくは→【
なぜ「55試合連続フル出場」中で「2季連続リーグ最小失点」のGKを勝ったのに代えるのか?



※サンドロからスタメンを奪い26歳にして1部リーグデビューを果たした試合で、見事に好セーブを連発して無失点に抑え、人生初のMVPに輝いたギエン。

ギエン、デビュー戦でMVP!




 マリオ、ギエン…。この2人からは、選手がもつ無限の可能性を改めて教えられました。どちらのGKも指導を始めた頃には、まさかここまで成長するとは思ってもいませんでした(ある程度の成長は予想していましたが、彼らの成長ぶりは僕の予想を遥かに超えていました)。それくらい、GKとしてのセンスもなかった。

 この2人のGKは、不思議なほどに共通点が多い。共に「26歳」である事。「1部リーグでのプレー経験がなかった」事。始めは「第2、第3GKだった」事。「実力も才能もセンスもなかった」事…。

 そんな2人が、どうしてたったの「2ヶ月間」でこれほどまでの奇跡的な成長を遂げ、結果を出す事ができたのか…?


 それをもたらしたものは…2人の「最も重要な共通点」にありました。



 それは…。



素直にコーチの言う事に耳を傾け、課題克服に向けて謙虚かつ真面目にコツコツと取り組める才能」…が、マリオとギエンにはあった事。


 これが全てです。この2人からは「素直にコーチの言う事に耳を傾け、課題克服に向けて謙虚かつ真面目にコツコツと取り組める選手は、どんなに始めは実力や才能やセンスがなくても、必ず成長して結果を出せる日がくる」事を、コーチとして学ばされました。

 逆に、「ウサギ」だったにも関わらず「カメ」に追い抜かれてしまったサンティ二とサンドロ。抜かれる直前…2人とも明らかに「油断」「おごり」「慢心」がありました。謙虚さ」「真面目さを失った選手は、どんなに実力や才能やセンスがあっても、必ずいつかカメに追い抜かれてしまう…この事も学びました。

 一度、ウサギを追い抜いたカメは、強い。マリオもギエンも、油断もおごりも慢心もしないので、毎試合、素晴らしいプレーで結果を出し続け、それぞれの地位を確立していきました。一度、カメに追い抜かれると、ウサギの挽回は極めて難しい。ウサギは後で、「しまった…。あの時、ちゃんとやっとけば良かった…」と気付いて後悔しても、もう遅いのです。




 試合になかなか出れずに悩んでいる選手は多いと思います。コーチとして今回のような事例を現場で生で見てきた自分が、そういう選手たちに言いたいのは、


「試合に出れない事に不満を言う前に、まずは
素直にコーチの言う事に耳を傾け、課題克服に向けて謙虚かつ真面目にコツコツと取り組んで、己の力を向上させて欲しい。そうすれば、いつか必ず花が開く時がくる」…という事。マリオとギエンは、それをたったの「2ヶ月間」でやってのけました。


 日本でもホンジュラスでも、試合に出れない理由を「監督やコーチに嫌われているから」などと言う選手を多く見てきましたが、自分の実力不足を棚に上げて他者に責任をなすり付けるこの手の選手が、後に成功したという事例を、ただの一度も見た事がありません。全ては、自分次第



 カメがウサギを抜く時は、必ずくるんです
(力を伸ばせば)。




 マリオ、ギエン。コーチとして大切な事、そして人間として大切な事を教えてくれて、学ばせてくれて、本当にありがとう。



※MVPに輝いた試合後、マリオ(中央)とサブGKロニーと。

マリオ&ロニーと!2013




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