前回に引き続き今回も米国サッカー界について色々考えていこうと思うが、前回も言ったように米国国内でフットボールと言えばアメフトのことを指すが、この国でサッカーという競技はずっと日陰者だったのだろうか?

以前の筆者(独眼鉄)のブログ(2013年11月23日号・スポーツの現金化・その43・続 アメリカのスポーツビジネス ―負の歴史編―)で米国のスポーツビジネスの歴史において失敗の歴史を書いたことがあったが、この時米国国内で1960~70年代にNASL(北米サッカーリーグ)が発足し、当時の世界のスーパースターだったペレやベッケンバウアーがこのリーグに在籍し米国でサッカー熱が一時的に盛り上がった時期がかつてあった。

しかし90年代のJリーグ創成期にカズや中田英寿のような日本人のスーパースターがいた日本に比べ、当時のNASLにはアメリカ人のスーパースターがいなく自然と熱が覚めてリーグは消滅してしまった。

こうした国内のプロサッカーの負の歴史がある米国では、同じ失敗はしないと1996年に国内にMLS(メジャーリーグサッカー)というプロサッカーリーグを捲土重来をかけて発足した。

このMLSというリーグの経営スタイルは米国らしく合理的でかつしたたかであった。同時期の欧州やJリーグのような他国のプロリーグや昔のNASLが選手や監督に多額の人件費をかけて支出額を高騰させチームの経営破綻に追い込まれる例もあった為、MLSでは「シングルエンテティシステム」というMLS独自の選手雇用システムを構築し、①普通のリーグはチームが選手を雇用するが、MLSではリーグが選手を雇用するのでチームに選手雇用の予算はない②各クラブに合計給与額(サラリーキャップ)が決まっていて、日本円にして1チーム合計で2億5000万円の予算内に選手の給与を押さえる(選手1人あたり1000万円)ことがリーグの決まりである(注=ベッカムがLAギャラクシーに移籍したのはMLS独自のルールによってである。それはまた別の機会に説明する)③独占禁止法に違反しない。リーグ自体が1つの団体とみなされる④MLSという1つの団体の中にLAギャラクシーやDCユナイテッドという部門がある、という関係になっている。

と、このようにMLSは世界の中でも欧州リーグやJリーグとも違う独自のリーグを構築していった。またMLSは選手の人件費高騰を防ぐ為に以前は有力選手をリーグに招聘しなかったが、リーグ経営が順調に進む近年ではベッカムやNYレッドブルスに入団したアンリが同リーグに加入するなど、MLS自体が少しずつではあるが世界のサッカー界に存在感を示せるようになってきた。

元々MLSではチームの保有というのが日本のプロ野球のような自社製品の広告塔ではなく、投資家への利益の配当を出す投資対象としてプロサッカーチームの保有を求めていて、自分の街にプロスポーツチームを持ちチームが勝つことによって投資の配当を得るのである。チームの存在意義がMLSと日本のプロスポーツチームとでは全く違うのである。

このように米国サッカー界は自国リーグに有名な選手がいなくてつまらないと揶揄された時期もあったが20年近く経ち、リーグ経営も軌道に乗り始め自国のプロスポーツビジネスの世界にも世界のサッカー界にも存在感を徐々に見せ始めた。MLSにこれからは注目だ。

参考文献 サッカー批評 47 2010年 Jリーグを救う50のアイデア …明確なビジョンのもと徹底したリーグ経営の基盤強化を図ってきたMLS