結構前になるが、昨年末にメキシコのボクシングの元世界王者で現在は地元でボクシングのトレーナー兼マネージャーをしているカルロス・サラテ氏が自分のボクサーが後楽園ホールで試合する為にセコンド役で初来日した。せっかくメキシコの名王者が来日してきたので、スペイン語が話せる日本のボクシング関係者と対談していた。そうすると日本人の関係者はサラテ氏は「あそこのミドル級の選手はパンチがある。どこそこのフェザー級の選手はいい。あのフライ級の選手はスピードがある。」と他のジムの選手には必ず肯定する言葉しか言わないんだ(自分の選手には別だろうが)。否定的なことは言わないんだ、と言っていた。

この話を聞いて筆者(不器用貧乏)の頭に浮かんだのは映画評論家の淀川長治氏である。淀川氏に限らず人間は1日二十四時間しかない。淀川氏はその二十四時間のほとんどを映画に費やした。当然我々一般人より沢山の映画を見る。そうすれば必然的に三文芝居の量も増えるはずである。しかし淀川氏はどんな三文芝居でも必ず誉めた。どんなつまらない映画でもどうでもいいところを出して必ず誉めた。勿論自分の身内や立場を考えて叱らなければいけない時も必ずくるが、筆者も含め他者、諸外国や弱者を否定して自分を肯定する人間が多い昨今、筆者はサラテ氏や淀川氏を見習わないといけないと思った。