脱北した天才数学者と、挫折寸前の劣等生の交流を描くヒューマンドラマ。
思わぬ出会いがもたらす、一歩踏み出す勇気と希望に満ちた温かな感動作。
あの!名優チェ・ミンシクが待望の3年ぶり復帰、という事で鑑賞した。
映画「不思議の国の数学者」
英才が集まる名門私立高校の競争社会に馴染めない少年、ジウ。
特に数学が苦手で、教師から普通校への転校を勧められてしまう。
一方、ジウの通う高校で夜間警備員を務める不愛想な男、ハクソン。
学生たちから「人民軍」と呼ばれ、避けられている孤独な脱北者である。
彼は天才的な数学者だが、正体を隠し世間から逃れて暮らしている。
そんな二人がふとしたことで出会い、ジウは彼の数学の才能に気付く。
そこで数学を教えて欲しいと頼み込み、ひそかに二人だけの授業が始まる。
やがて、母子家庭で頼る人もなく、今に至るまでのジウの過去が明らかに。
同じく孤独だったジウが、彼に救いを求める理由が分かってきて切ない。
ハクソンは、正解を出すより答えを導く「過程」の大切さを教えていく。
数式上の正解だけを求められる現状に戸惑うジウを、優しく導いていく。
次第にハクソンが脱北に至るまでの過去や、抱える闇が見えてくる。
学問と思想の自由を求めて脱北するも、突き付けられる厳しい現実。
南北問題という歴史の政治的背景が複雑に絡み、韓国らしくてリアル。
彼の才能を生かす場も与えられず、絶望の中で心を閉ざして生きている。
チェ・ミンシクが、深い闇を抱えた男を、圧倒的な存在感と貫禄で熱演。
冷たそうだが不器用なだけで、根底には優しさがあると分かり圧巻だった。
気難しく少し頑固な感じも、天才数学者の持つ雰囲気を醸し出していた。
現実に失望していた二人は、数学を通して人生を見つめ直していく。
さらに互いへの理解を深め、年齢や立場を超えた友情と絆を育んでいく。
数学の美しさを証明するために作られた曲を、ピアノで演奏し音楽で表現。
美しく素敵な音色に、初めて笑みを見せる姿が微笑ましくて良かった。
数学の成績が上がったジウだが、ある誤解から窮地に立たされてしまう。
教師の策略にはまり、再び転校の危機に追い詰められてしまうのだが。
ハクソンもまた正体がバレて追われることとなり、人生を諦めてしまう。
北と南の軋轢は思った以上に深刻で、最後までハラハラドキドキもの。
だが友人の危機にハクソンは勇気を出して立ち上がり、力強く訴える。
魂のこもった演説シーンには胸を打たれ、正義の勝利に安堵し感動した。
互いの存在に背中を押される、成長と人生再生を遂げる希望の物語。
ラスト、立派に人生を輝くものに変化させた二人の姿が素晴らしかった。
思わぬ出会いがもたらす人生の奇跡に夢がある、心温まる作品だった。