映画「わたくしどもは。」…雰囲気の作品. | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2023年 製作国:日本 上映時間:101分



小松菜奈と松田龍平が主役と聞いて少し気になっていた作品.
あっと言う間に公開が終わりそうなので慌てて観賞.2番館にも来ない気がした.
シネプレックスつくばで観たのは本年度累積128本目.
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小松菜奈と松田龍平が共演し、新潟・佐渡島を舞台に記憶を失った男女の
謎めいた過去と運命を描いたドラマ.

佐渡島の金山跡地で目を覚ました女。過去の記憶がない彼女は清掃員の女
キイに助けられ、キイがアカとクロという女の子と暮らす家に運ばれる.
自分の名前すら思い出せない女はミドリと名付けられ、キイと一緒に清掃員と
して働き始める.
そこで警備員の男アオと出会ったミドリは、彼もまた過去の記憶がないことを知り、
次第にひかれ合っていくが…….

「Blue Wind Blows」で注目を集めた富名哲也が監督・脚本を手がけ、
江戸時代に佐渡金山で過酷な労働を強いられて命を落とした無国籍者の
人々を埋葬した「無宿人の墓」に着想を得て撮りあげた.
2023年・第36回東京国際映画祭コンペティション部門出品.

以上は《映画.COM》から転載.
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美しい山の緑、朽ちかけた山門、荒い日本海の波.映像がとにかく美しい.
撮影は宮津将、照明は渡辺隆.まだ若い人だろうか? トンネルとか木陰から
の映像とか、コントラストのついたシーンの映像が印象的なのだ.
明るい側のコントラストが飛んでなくて、デティルがきちんと撮し込まれている.

穏やかな映像がとにかく心地よい.この時間にずっと身を任せていたいと
思えるほど気持ちの良い時間が過ぎていく.自然音が耳に優しく、緑を中心に
色彩コントラストが目を奪う.

佐渡島の相川金鉱のトンネルが舞台. この世とあの世を繋ぐ道.
江戸時代は「地獄」と呼ばれていたそう.幻想的な絵が素晴らしい.
地名をさりげなく織り込んだり、名所を映したり…、ご当地作品らしき所
も見受けられるが、この場所の魅力を自然に打ち出そうとしている姿勢は、
文化庁補助金目当てか、町おこしの一環なのかもしれない.
 

 

無駄を無くした、最小限のセリフと長い間.固定焦点でのなが回し、
俳優の表情のアップ…独特な映像展開だ.

内容はミステリーというほどではなく、台詞などに分かりやすくヒントが
示されるし、だいたいが、登場人物がみな過去を忘れているとか、名前がキイ、クロ、
アオ、ミドリ…といい加減な付け方からみても、たいていの観客は早い段階で
その事情を予想でき、それはきっと当たっている.

かつて賑わった金山跡.金を求めて欲望が集まった町.
労働者として連れてこられた者たちが無惨な末路をたどった町.
そこは死者の念が彷徨う場所なのだ.その町で死者が過ごす時間は短い.
そう、資料館の館長:田中泯がキイ:大竹しのぶに説明するがごとく、
49日しか居られない. その後はかき消えるように次の場所へと旅立つのだ.

能楽師、ダンサー 歌舞伎役者 と ある意味で 演者は多彩
佐渡に流された世阿弥を想起させる辰巳清次郎の舞.
身にまとった赤い長襦袢を嬉しそうにひらひらとさせる片岡千之助.
大竹しのぶが雨音を聞きながら気持ちよさそうにうたた寝をする.
次の場面で、白々とした佐渡の資料館のフロアにうずくまっていた
田中泯がゆっくりと身体を起こし天井を仰ぐ短い舞踏をみせる.
 

 

まるで魂が彷徨っているようなそれぞれの演技を見せてくれる….
過去に心中をしたとおぼしき小松菜奈と松田龍平のふたりが
黒と赤の衣装で横たわる….現世で結ばれずに心中した男女が
あの世とこの世の狭間で記憶のない状態で出逢う….
 

 

映像の妖しさと説明のない場面から様々な想像をしながら観ることが
出来る作品とも言える.
展開はゆったりなのでスローペースな人向き. 結論を急ぐ人や何ごとにも
白黒させたい人には向かない作品かも知れない.

単純に、描きたいイメージを自由に形にして並べた、美しい映像詩の
ようであり、それを見て感じる映画と思う.
何も考えずにこの雰囲気に漂うにはいい.