side…S
空港でのプロポーズ合戦から1か月ほどが経ち。
俺たちの穏やかな日々はふたりの左手薬指に指輪が加わったこと以外、今までと何ひとつ変わらず続いている。
そんなとある土曜日の朝。
雅紀はクリスマスイベントの準備でいつもより早く出社するため、朝から慌しくしていた。
「じゃあ翔ちゃん。あとはお願いね。」
「おう任せとけ!そんな事より、今日のイベント頑張ってな。」
「うん。頑張ってくる!」
そう言って、一旦玄関を出ようとした雅紀がくるりと振り返り。
ぎゅっと俺に抱きつき、ぶちゅっと音が鳴るほどのキスをしたあと。
「じゃあ、翔ちゃん。いってきまーす!」
と手を振りながら玄関ドアを開け、颯爽と出ていった。
玄関にひとり残された俺は、徐々に小さくなっていく雅紀の足音に耳をすませながら。
「…さてと。まずは洗濯、だな。」
しばしの雅紀の不在に戸惑う自分と、気を許すと溢れてしまいそうな淋しさを振り切って、勢いよく寝室のドアを開けた。
「……すごいことになってんな。」
床に落ちたままの掛け布団。
散乱したティッシュの残骸に、転がっているローションの空ボトル。
俺はそのあまりに「事後」な風景に苦笑いしつつ、ふたりが放った痕跡の生々しいほどの匂いが漂う寝室の窓を全開にする。
「…さむ。」
冬の澄んだ空気に身を縮こませながら、2人の汗と諸々で湿ったシーツを剥がすと。
雅紀の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、昨夜の雅紀の姿が脳裏に浮かんでニヤける。
「昨日の雅紀、エロかったな…。」
俺は鼻の下を伸ばし、熱くなりそうな下半身を慌てて押さえた。
いつからか。
雅紀は仕事で人前に立つようになるにつれ、緊張とプレッシャーで眠れなくなる事が増えていった。
特に記者会見やイベント前日にその傾向は顕著になり、それは見ていて可哀想なくらいだった。
ただでさえ沢山の記者に囲まれて、それだけではなくネットやテレビの向こう側には数えきれない程の人がいるのだから。
そんな状況に置かれたら俺なら緊張と恐怖で顔がこわばってしまうところだけど、それを雅紀は笑顔を絶やさず健気にこなしていた。
だから、その頑張りの分だけ心がすり減るのも当然で。
雅紀は緊張や不安に駆られてどうしようもなくなると、すがるみたいに俺を求める様になった。
「翔ちゃん。もっと…いっぱい跡つけて。」
求められるままに俺がその奥に何度も激しく打ちつけてやると、雅紀は満たされた表情で身体中にキスマークを付けてとねだる。
鎖骨から胸元、脇腹、腕から手首の内側。
おへそに背中、足の付け根からくるぶし。
スーツで隠れる場所ならどこにでも。
俺がその全部に花びらを散らすみたいにキスマークを付けると、雅紀はその度に蕩け、声を上げ、何度も果てて。
そして心も身体も俺でいっぱいになると、安心して深い眠りにつくのだった。
「雅紀?身体、ツラくない?いっぱい跡もつけちゃったけど大丈夫?」
ある夜、何度も交わり、ふたりして何度も果てた後。
キスマークで身体中を彩られ、うっとりと横たわる雅紀に尋ねた事があった。
俺としては雅紀から何度も求められるのも、激しく乱れる姿を眺められるのも、これ以上なく幸せな事だけど。
雅紀からの少々ハードな要求に応えつつも、無理させてないかと心配になっていた。
「身体に翔ちゃんのキスマークが付いてるとね。翔ちゃんが守ってくれてるみたいで心強いんだ。」
そう言って雅紀は気だるそうに微笑み、俺の腕に頭を乗せて目を閉じる。
「それにね。ボクの中に翔ちゃんがいるってだけで満たされて安心するし。翔ちゃんに激しくされるの、すごく興奮するし、めちゃくちゃ気持ちい…ぃ。」
そして、ナチュラルに天然エロ爆弾を落とした雅紀はそのままウトウトと眠ってしまい。
俺はまだ火照りが残る身体を持て余しながら、天使のような寝顔に何度もキスをして、瞼を閉じて幸せを噛みしめるのだった。