淡い恋は池袋東口に消えた | ★★狩りは真夜中(でした)★★

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自己満自哀ブログの決定版!!!!!!
Monster Hunterや懐かしいゲームの記事多め
っていうか90年代とピザが好き


ちゃっちゃまあああぁぁっすwwwww

初夏になるとついつい思い出してしまう。

あれも確かこれくらいの時期だった。

色んな意味で忘れられないひと夏の恋の話。


















「今から飲むから誘える女の子おらん?」


バンドやってた頃、憧れの先輩から突然の電話が来た。 


突然の誘いに少ない少ない電話帳の中から何とか来てくれそうな女の子を一人、探し出した。 


その子はバンドメンバーのK君から紹介された子だった。
顔立ちは少々エキゾチックで、人当たりも良く、理由は忘れたが
沖縄好きなのがとても印象的だった。
 


早速その子(以下海ぶどうちゃん)にメールをしたら、その日はバイトだというのに快く承諾してくれた。ラッキー♪ 



夜11時頃、おれとK君は先輩が待つ池袋の居酒屋に到着。 



店にはすでに女の子が3人来ていて、そこにおれとK君が合流して3対3。 
そこから女の子が女の子を誘ったりして、結局総勢で10人くらいになっていた。そして12時過ぎ、仕事終わりの海ぶどうちゃんが現れた。 



先輩に海ぶどうちゃんを紹介をして、またわいわいと飲み始めた。 
海ぶどうちゃんは全く知り合いがいない中、少し回りを気にするような感じで遠慮がちに飲んでいた。



突然の誘いにも応じてくれた海ぶどうちゃんに本当に感謝した。





暫くすると白ワインがデキャンタで運ばれ、恒例のゲーム開始が告げられた。 




ゲームで負けた人が
白ワインを飲むゲーム!!!!!!!!!!



はっきり言ってつらい。ワインなんてがぶがぶ飲むもんじゃない。
でも場の空気が冷めて来ると先輩はこれを出す。
そう、後輩のおれ達が場を盛り上げられなかったから。
本当ならぶん殴られてる。本当に優しい先輩なのだ。 




ゲームに負けた女の子達がグラスに注がれた白ワインを飲み始める。 



海ぶどうちゃんもゲームに負け、何杯か飲んでいた。
おれもK君も…そして先輩は一番飲んでいた。
アルコールが回り全員の心の壁が溶け始める…。 










デキャンタが3つくらい空になったくらいからだろうか?おれ達の席はその店で一番ウルサイ席になっていた。 



その中でもひときわうるさかったのは、大声で野球の応援歌を歌う女の子。

会話の節々に挟んで来る
「なんくるないさー♪」
が何度も爆笑を呼ぶ。

驚いた。
笑いを完全に支配していたのは、ほんの一時間前まで周りを気にしながらちびちび飲んでいた海ぶどうちゃんだった。


しかし彼女の酔いはみるみるエスカレートして行き、あろう事か先輩にタメ口までききはじめた。



K君
「おいっ!!」



要するに「てめぇ何うちの先輩にタメ口きいてんだ」ってことだ。
目がマジだった。

先輩「まあまあ、ええってええって」

先輩は笑顔でK君をなだめた。

おれ「すいません…」



ミスキャストだったと後悔した。



想像の遥か上の酒癖を見せつけた海ぶどうちゃんは、そのまま閉店時間まで暴走を続けたのだった。







先輩「店変えよう」


おれ・K君「はい!」


女の子「あの子トイレから出てこないけど大丈夫かな?」


(あの子…?誰だ…?まさか…)


辺りを見渡しても海ぶどうちゃんがいない。
どうやらあの子とは海ぶどうちゃんのことらしい。


(マジかよ…)


先輩はどんなに酔っていようと女の子を放置していくようなことは絶対に許さない。
当然、海ぶどうちゃんの介抱はおれの任務となった。



コンコン


おれ「おーい大丈夫?」


海ぶどう「…」


おれ「入るよ?」


本来、これは犯罪行為だが閉店が迫っている、やむを得ない。
幸い鍵はかかっていなかった。


トイレの中でうずくまる海ぶどうちゃん。
立ちあがる事もできないようだった。
 

おれ「大丈夫?立てる?」 
海ぶどうちゃん「………吐きたいけど吐けない…」 
おれ「無理にでも吐いた方がいいと思うけど」 


これは相当面倒なことになる予感がした。


おれ「もう閉店なんだって、とりあえず出よう」
海ぶどうちゃん「あのね……好きなの」 










おれ「う…うん、その話は後でしよう。今はとりあえず店から…」

酔った勢いとは言え、まさかの急展開で感無量!と言いたいところだが今は場が悪過ぎる。
喜ぶのは後にしてとにかく、今は一刻も早く店から出ることを優先したい。 



脇を抱えて立たせようとするが全く動かない…。









ゴンゴンゴン!!!!


「おい!いい加減にしろよ!!閉店なんだぞ!!」 



ドア越しに店の従業員らしきおじさんの怒声が響く。
きっとおれと海ぶどうちゃんがトイレの中でイチャついてると思っているんだろう。 
おじさんそれは全くの誤解です…。



自力で動けないなら運ぶしかない。


意を決したおれはトイレのドアを勢いよく開けた。


てっきり中でイチャついてると思っていたおじさんはびっくり。


おれ「すいません!今運びますから!」


おれは白く細い腕で、海ぶどうちゃんを抱え上げようとした。 

















(あ、これ無理なやつだ…)


素直にそう思った。
この重さを抱えて地下二階から階段で上がるなんて無理だと思った。


おじさん「…」


ほら早く運べよとでも言いたそうなおじさんの視線が痛い…。
おれは半ば引きずる形で海ぶどうちゃんをトイレから引っ張り出した。



海ぶどうちゃんのパンツとか見えていたと思う。
でもそんなのを気にしてる余裕は全くなかった。


必死に一歩一歩階段を踏みしめた。


ゼェゼェ息を切らしながら、何とか海ぶどうちゃんを地上まで抱え上げた時にはもう先輩達は次の店に移動した後で姿は見えなかった。時間は朝5時、外は雨。最悪のコンディション…。 


不眠と汗ばむ湿気と質の悪いアルコールが、疲労に更なる拍車をかける。


おれ「もしもし?家まで連れて帰るのは無理だから」
海ぶどう「うぷっ…」
おれ「このままホテル連れてくわ…。先輩には」
海ぶどう「おぇっぷ…うぷっ…。」
おれ「お疲れ様でしたって伝えといて」 

地面に這いつくばり嗚咽を繰り返す海ぶどうちゃんの横で、K君にそう伝言を頼んだ。



K君が呼んでくれたタクシーが到着。



おれ「どこでもいいので…一番近いラブホテルまでお願いします…」
運転手さん「はい!じゃー○○ですね!」

池袋ではこんなシチュエーション、日常茶飯事なんだろう…運転手さんは日課をこなすように目的地まで走り出し何とか無事に部屋に入れた。


 


本当に疲れ果てた
。肉体的にも精神的にも疲労はピークだった。
どうせじっとしてないだろうと思い、海ぶどうちゃんをソファに座らせおれはベッドを頂いた。
っていうかベッドに吐かれたくなかった。



安心と部屋の涼しさからか、すぐに睡魔が襲って来る。
 


バタンッ
ドタドタッ
ガチャッ
バタンッ

まどろみの中、部屋のドアを開けたり閉めたりする音が聞こえる。 
海ぶどうちゃんが何かやってるっぽい…。 



でももうどうでもよかった。
義務を果たしたおれはそのままスヤスヤと眠りに落ちた。 















ふと目を覚ますと、正気を取り戻した海ぶどうちゃんが
慌てた様子で部屋の中を右往左往している。 


海ぶどう「ど、どうしよう!!」 
おれ「え?どうしたの?」 
海ぶどう「今日バイトなの!寝坊しちゃった!!」 
おれ「え!バイト何時からなの?!」 
海ぶどう「9時!」 

時計を見るともう11時前、大遅刻じゃないか。 


「じゃあすぐに出よう!」 


急いで部屋を出る支度をしながら考えた。


(酒癖悪かったけど、仕事終わりに無理して駆けつけてくれたしチャラってことにしよう。それからトイレの中の話の続きは日を改めて…)


部屋を出ようとリビングのドアを開け、靴を履こうと視線を落とした一瞬… 


おれの両眼ははっきりと映していた。





























壁際にドリップされ
哀しそうに水分を
失い始めているそれ】
を。


ただ事ではないと思った。

その情報はすぐさま脳に送られたが、ここで動きは止めなかった。
脳内の解析結果が出る前に本能的に察したのかもしれない。

それが「存在にすら気付いてはいけないもの」だということを。


何も見なかったように靴を履き始める。


解析を終えたおれの脳は
【壁際にドリップされ哀しそうに水分を失い始めているそれ】が
99.99999%の確率で



「ウンコ」であると結論付けた。




じゃあほぼウンコだと思っていい。


眠りに落ちる寸前、海ぶどうちゃんが玄関を出たり入ったりしている音が蘇った。
まさかトイレを探していたのか?いやでも証拠はない。
状況証拠は限りなく海ぶどうちゃんを茶色…じゃなく黒だと示しているが、決定的な証拠はない。


否!誰がしたかとかそんなことは今どうでもいいのだ!
問題なのはこの後どうするか?
靴を履き終わるほんの数秒で答えは出た。
おれにしては上出来だった。





(気付かない振りして
このまま出よう…)
 




触らぬウンコに何とやらだ。



これが恐らく最良の方法。
誰がやったのやらないだの糞かけ…じゃなく水かけ論になっては後味が悪すぎる。
相手が男ならまだしも年頃の女の子である。一生ものの傷になりかねない。



これで海ぶどうちゃんも気付かずに出てくれれば、
掃除の人には大変申し訳ないが、
こちらサイド的には万事OKとなる。



おれは先に玄関を抜けて祈るように空を見上げる…。 






(頼む…気付かないでくれ…頼む…) 

















海ぶどう
「わぁっ!!なにこれーーーー!!!???」 



おれの期待を見事に裏切り彼女は思いきり気付いた。




おれ「…え、どうしたの…?」 
海ぶどう「な、なにこれ!え!?なんで!?」 
おれ「うわ!え!何それ?」 

わざとらしく気付くふりをした。

海ぶどう「私こんな事しないよ!?」
海ぶどうちゃんの脳もこれが「ウンコ」だと判断したようだ。
 
おれ「だよね!はは!」
海ぶどう「えーでもなんでこんなところに?」 
おれ「…」


この問いの正解は一体何だったのだろう?


当時のおれの答えはこれだった。






おれ
「…もしかしたら…
誰かが来てしたのかも?」 



いやいや…ラブホでわざわざ他人の部屋に忍び込んで玄関にウンコだけして帰っていくやつなんているわけがない。
それに鍵は内側からしか開かないからそれも不可能。
人間は追いつめられると多少ミラクルなことでも平気で言う。


海ぶどう「うーん…そうなのかなぁ?うーん…」 




おれ
「不思議だよね」 



我ながらボキャブラリーの無さとアドリブの弱さにうんざりする。
もう1秒たりともこのウンコに触れていたくなくて出た言葉が


「不思議だよね」


だとは。



 
おれ「それより早く行こう…」


まるで自分が犯人かのように先を急がせた。



そのあとは放心状態だったのか、帰り道の記憶はほとんどない。 
何年も経った今でも、色、形、乾いた表面の質感が焼き付いて離れてない。


初夏のあの淡い恋は、池袋北口のあのホテルの、あの部屋の、あの玄関で、今もカピカピに干乾びている。














帰りの山の手線の車内


新宿に差し掛かった辺りで


明らかにテンションガタ落ちのおれに


海ぶどうちゃんは


いつもの笑顔でこう言ってくれた。 






「今度さ、またカレー食べに行かない?♪」 







さすがになんくるなくなかった…。










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