Angel Down 狂乱する少女編 第13話『八雲流』 | 東方自伝録

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注意事項


1、これは東方projectの二次創作小説である


2、オリキャラが登場するのである


3、原作設定一部崩壊、キャラ設定一部崩壊しているのである


4、これらの要素のひとつでも嫌なのであるなら、すぐに戦略的撤退をするのである


5、以上のことが大丈夫ならば、スクロールで読んでいってくれ
















一寸先の視界さえ捉えられないほど深く覆われた霧の中に僕と彼女がいた。
彼女は碧色の長く艶のある髪をしており、白く美しい肌を持っていた。
淡いピンク色の唇に視線が行くところだが、その格好も独特のエロスを醸し出していた。
江戸時代の女武士のようなその格好、それに腰にある刀の鞘。
彼女が構えている日本刀に似た漆黒の剣。
彼女に見惚れている場合ではないことを物語っていた。


「しっかりしろよ、僕」


頬を手で叩き、意識を覚醒させる。
今目の前にいるのは僕の敵、ラケシスだ。


「何をしている? 汝はやる気あるのか?」


「これでもあるつもりなんだけどね」


「時間稼ぎなど無用。汝相手では五分もいらんからな」


――とことん馬鹿にされているな、僕。


そう思ってしまうが、その通りなのだから仕方が無い。
彼女の実力は恐らく、紫様クラス。
僕と藍様で闘っても、勝てるかどうか危ういところだ。
そして今は僕ただ一人。結果は見えている。


「だろうな、でも……」


僕は藍様と約束したんだ。
絶対に彼女の元に帰ってくる、と。
その約束だけは敗れない。式神として、一人の男として。


「僕は絶対にお前を倒すッ!」


「我を倒す……だと?」


僕の言葉に不審に思ってるのか、問いただすラケシス。


「ああ、倒す」


「そうか、そうか。だが、それは無理というものだ」


「我を倒すという意思で闘うというのなら、汝はここで朽ち果てるだろう。
 倒すのではなく、殺すという明白な殺意が無いなら、汝はここに立つ資格などない」


悔しいが彼女の言うとおりだった。
彼女を倒す、という意思では確かに弱い。
彼女を殺す、どんな手を使ってでも殺す。


「うむ、良い顔だ。我と刃を交えるに相応しい男の顔だ」


「どこからでも来るがいい、牙を向けたことを後悔させてやろう」


彼女のその言葉が、死闘の始まりを示していた。
まず仕掛けたのは僕。
距離を狭め、一気に攻める。


「ハァァッッ!」


足を曲げ、蹴りを繰り出す。
それが彼女の身体に接触する前に、足を地に付けもう片方の足を繰り出す。


――やっぱり読まれていたか。


足を切り替えたのには大きな理由がある。
もしそのまま左足で攻撃してたら、彼女の刀により一刀両断されていただろう。
故に寸前のところで右足に切り替えた。
肉を打つ感触を味わう。
僕の渾身の蹴りは彼女の左腕により止められていた。


――思ったよりも丈夫なんだな。


そのまま足を戻し、再び右足を大きく曲げて蹴りを繰り出す。
狙いは、彼女の頭ッ!


「何度やっても無駄だ。汝の蹴りは私には届かない」


その言葉どおり、彼女の刀によって防がれてしまった。
だがここで立ち退く僕ではない。
折角距離を縮めたんだから、そう易々と退くわけにはいかない。


「ならこいつでどうだッ!」


右足を地面に擦りつけ、右足に気を送り込む。
この距離なら、躱すことなどできないッ!


「八雲流――炎脚撃」


気を送りこんだことと摩擦により炎を宿した右足に速度を付けながら繰り出す蹴り技。
その威力は藍様の折り紙つきだ。
風を切り裂きながら、彼女の面に向かって繰り出す。


「八雲流の使い手か」


そう呟くと彼女は鞘を構えた。
それで僕の炎脚撃を抑えたのだ。
火の粉を飛び散らせながら、ぶつかり合う二つの刃。
正直、鞘如きでこの一撃を防がれるとは思ってもみなかった。
そして僕の胴体に向かって、彼女の刀が繰り広げられる。


「くっ!?」


反射的にそれを躱すが、衣服は切り裂かれ、腹とともに線のような傷が見え出していた。
痛みは感じない。どうやら掠っただけみたいだ。
後方へジャンプし、間合いを取る。
そして次の技を繰り出す。


「八雲流――集双符」


周囲に多数の紙で作った式神を展開し、一斉攻撃を仕掛ける。
その攻撃を見たとき、彼女の顔が一瞬笑ったかのように見えた。


――まさか、読まれていたッ!?


だが彼女の取った行動は僕の予想斜め上をいったのだ。


「八雲流――集双符」


ラケシスの周囲から多数の式神が展開される。
それが僕の式神とぶつかり合い、喰らい合いが始まった。


「なっ……八雲流を使ったッ!?」


何故彼女が八雲流を使えるのかは分からない。
だけど僕はその事実に驚愕せざるおえなかった。


「隙だらけだ、小僧」


式神の壁を難なく突破し、刀を振り下ろそうとするラケシス。
瞬時に身体を翻すが――。


「ぐッ!?」


腕が間に合わず、肉を抉られてしまった。
強烈な痛みが全身を襲うが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
そしてこの痛みを力に変えなければいけないのだ。
斬ったことで慢心になっているラケシス、チャンスは今だッ!

肉を抉り、骨を断つ。
この言葉をまさかこんなところで実感するとは思ってもみなかったが。
だが折角できたチャンス、ありがたく使わせてもらう。


「八雲流――夜破狼」


裏拳による攻撃。
藍様曰く、相撲の張り手を元にしている技だとか。
気を送り込んだ裏拳により、血液を逆流させ死に至らしめる技。
妖怪でもこの一撃はかなりの威力と化す。


「これで、終わりだッ!」


この距離なら誰も躱せない。
例え、目の前の化け物(しょうじょ)であっても、絶対に。
だがラケシスは余裕そうな表情で、腕を引っ込めた。


――あの構え、まさかッ!?


すぐに腕を引っ込めようとするが、間に合わない。


「八雲流――緋牙舞」


緋牙舞――八雲流唯一のカウンター技。
相手の技を刀で受け流し、片方の手の甲で押し出す技。
此方の攻撃は通用せず、相手を吹き飛ばす八雲流の中でも恐ろしい技だ。


「がはっ!」


カウンターを喰らい、吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられたときに、身体に起こった異変に気がついた。


「ぐっ……骨折してるな、これは」


受身に失敗して、腕を使ったせいか、左腕が骨折していた。
全身に来る鋭い痛みに耐えながら、左手を押さえ睨みつける。


――強い……強すぎる。


ただその一言でしか表現できなかった。
彼女は強い。予想以上に手強い。
万が一に勝ち目はないだろう。


「だけど……それでもッ!」


僕は勝たなければいけない。
藍様と交わした約束を果たさなければならない。
それが式神の理(ことわり)。


「破流の手を煩わせなくても、ここは僕で乗り切る」


僕の内に眠るもう一つの存在――八雲破流。
彼は出させない、彼は混乱(カオス)しか産まないからだ。
万が一彼が彼女を倒しても、僕は正気に戻ることはまず無いだろう。
だから――。


「だから、貴様の内なる狂気を表に出さないのか?」


「ッ!?」


八雲破流。彼の存在を知るものは僕を除いて紫様と藍様だけだ。
だけど、なんで彼女が知っているんだ?
八雲家にしか伝わってない八雲流を会得している。
そして破流を知っている。
彼女は何者なんだ?
何故、彼女は僕を狙うんだ?


「どうした? 動揺しているのか?」


「……くっ!」


落ち着け、僕。何を慌てているんだ。
今は死合(しあい)をしているんだ。
ただでさえ戦力差があるのに、こんな状態では勝機を見失ってしまう。

再び間合いを取りつつ、彼女の動向に全神経を研ぎ澄ませる。
そんな僕を嘲笑うかのように言葉を綴るラケシス。


「貴様ももう理解しているだろう? 八雲博。 我と汝では力量の差が開きすぎているということを」


「今のままでは勝機は無い。ならば、最善の限りを尽くすのが定石というものだろう」


「八雲破流を出せ。今の貴様では殺す価値もない」


今の僕では殺す価値もない、か。
何故かその言葉が頭に突き刺さっていた。
確かに僕は破流と比べると弱い。それこそ、月とスッポン、豚に真珠くらいにだ。
だけど、そんな僕でも彼女は認めてくれるのだ。


「頑張ったな」と言って頭を撫でてくれる。
「踏み込みが甘いッ!」と言って竹刀で叩かれる。
「もう少し自分の身体を労わったらどうだ?」と言って傷だらけの身体に包帯を巻いてくれる。


彼女の優しさに憧れた。
彼女の強さに憧れた。
彼女の存在に、心を癒された。


そんな彼女に、僕は心を惹かれた。
だからこそ、僕は――ッ!


接近して、拳を振りかざす。
拳は寸前のところで躱され、鞘を腹に打ち込まれる。
激しい嘔吐感が胸を襲うが、僕はそれほど暇ではない。
全身に突き刺さる激痛に耐えながら、ただ闘い続ける。
狂戦士(バーサーカー)のように。


僕は攻撃を続けるのを止めない。
指の骨が砕け、激痛に苛まれ、身体中が悲鳴を上げても。
僕は、僕のために闘い続ける。

だから、だから――――。


なんで彼女に僕の技が通用しないんだ?
なんでこうも易々と躱されるんだ?
なんで? どうしてッ!?


「怒りで我を忘れたか? 笑止」


「例え『思い出』という鎧を纏おうとも、心の内なる狂気は隠せないのだッ!」


「くっ!?」


「貴様では相手にならん、八雲博。八雲破流を出せ、今ならまだ間に合うぞ」


そんなに破流のほうがいいのかよ。
だったら、こっちにも考えがある。
心の内なる狂気――多分八雲破流のことだろう――は出させやしない。
だけど、殺意という名の狂気だったら、破流には負けていないつもりだ。
だから、さ――――。


「来いよラケシス。僕はまだ闘える」


「僕が、君を殺すから」


懐からスペルカードを取り出し、野獣のように睨みつける。
まだ死闘(たたかい)は始まったばかりだ。


満身創痍リスト:


パチュリー・ノーレッジ
十六夜咲夜
レミリア・スカーレット
犬走椛
射命丸文
小悪魔
サリエル
エリス
ユキ
マイ
夢子



                   To be continued...