Angel Down 狂乱する少女編 第10話『欠片』 | 東方自伝録

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注意事項


1、これは東方projectの二次創作小説である


2、オリキャラが登場するのである


3、原作設定一部崩壊、キャラ設定一部崩壊しているのである


4、これらの要素のひとつでも嫌なのであるなら、すぐに戦略的撤退をするのである


5、以上のことが大丈夫ならば、スクロールで読んでいってくれ














「うっ……うぅ……」


目の前の少女が喘ぐ。
額には沢山の汗がべっちょりと付いていた。
私はそれをタオルで拭き取り、新たに冷やしたタオルを置いた。


「大丈夫ですか? 霊夢さん」


私の問いに彼女は何も答えない。
ただ、苦しそうに息を切らすだけだった。
その様子に、私は焦るばかりだ。


「早く診療所に連れていかないと……!」


診療所に連れていければ、なんとかなる。
今の私に縋(すが)れるものはそれしかないのだ。
だから、一刻も早く霊夢さんを連れていきたい。
頭では分かっているのだが、現状ではそれが不可能なのだ。
何故なら――。


「はああぁぁぁ――――ッ!」


「……ッ!? ふふ……ふ、その程度なのかしら? 神様ってやつは」


外では、二人の神様と一人の侵入者による殺し合いが始まっていたからだ。
霊夢さんを運ぶのに、私一人では荷が重い。
それに加えて――。


――神秘


『――ヤマトトーラス――』


神奈子様の周囲に御柱が囲むように設置される。
そして神奈子様を中心に色鮮やかな弾幕が雨のように地上へと降り注いだ。
狙うのは勿論、あの銀髪の吸血鬼だ。


「その程度の弾幕で、私を殺せると思っているのかしら? 身の程を教えてあげるッ!」


――混符


『――クライシストルネード――』


そのスペルカードを唱えた途端、彼女の周りに竜巻のようなものが現れた。
竜巻は彼女の周囲に展開し、どんどん大きくなっていく。
そして、いつの間にか神奈子様の展開した弾幕はその渦に飲み込まれていた。


「そ、そんな……」


圧倒的なまでの力量の差。
神奈子様と諏訪子様二人がかりでもこれほどの差があるとは……。

愕然としている私に、先ほど神奈子様が放ったと思われる弾幕のひとつが襲い掛かってきた。


「……くっ!?」


この程度の数の弾幕なら、私にだって弾き飛ばすことはできる。
ただ、霊夢さんを抱えた状態で弾き飛ばすのは難しい。
それにここから出るには、今目の前で行われている戦闘の中を突破しなければならない。
霊夢さんを抱えて出るには明らかに危険だ。最悪、二人とも流れ弾の餌食となる。
これが私の動けない理由。
頼みの綱は神奈子様と諏訪子様だ。二人が勝たないと、一家心中も冗談では済まない状況になってしまう。


「お願いします……神奈子様、諏訪子様」


彼女たちには聞こえないほど小さな声で、そう呟いた。







「ふふふ、どうしたの? 神様と名乗る貴方たちがこの程度の実力ではないわよね?」


冷笑を浮かべる銀髪の吸血鬼。
それは見る人を凍りつける、殺気に満ちた笑顔。
今の私たちにとって、その微笑は恐怖以外の何者でもない。


――くっ!? 予想以上に手ごわい。


心の底からそう思ってしまった。
彼女は強い。だが、その強さは諏訪子とは違う強さだ。
敵に対する圧倒的なまでの殺意、それが彼女の力の源だ。
一体何が彼女をあそこまで追い詰めているのか。
それは、『神様』という言葉に異常なまでの嫌悪感を示したときの彼女の言葉が正解となっていた。


――ふふ、嘘ついちゃ駄目よ。神様なんているわけないじゃない。神様なんて……ただの偶像と同じよ……。


――神様は、皆を平等に幸せにするためにいるんでしょ!! じゃあ、なんであの子の……、フランの運命を見殺しにしたのっ!!


彼女は運命に立ち向かったのだ。
だが、運命とは彼女のような微弱な吸血鬼一人でどうにかなるものではなかった。
そして、逃れられない運命に絶望を感じた彼女は――。


「ふふふ……殺す。神様なんてものは、全て滅んでしまえばいいのよッ!」


孤独な鬼と化した。
私たちに彼女を救う方法は、もはやひとつしかない。
彼女をこの世界から抹消すること。
狂気の底に堕ちてしまった彼女を助ける手段など、もはや無い。
ならば、せめて被害が拡大する前に、救済するしかない。


「そうだね……神奈子」


諏訪子がそう呟く。
彼女にも分かっているのだ、一体どうすればいいのかと。
頭では分かっていても、この力量差は埋めようが無い。
ただの吸血鬼だと思って油断したツキがまわってきたのかな。


「神奈子、いつまでも子供みたいにクヨクヨと悩まないの!」


諏訪子に説教されるのは久しぶりだな。
前にされたときは、早苗の教育方針で揉めた時だっけ。


「ふっ、ガキの身体したあんたにだけは言われたくないわ」


諏訪子には馬鹿にされまいと、ちょっとだけ言い返した。
戦闘中にもかかわらず、何か吹っ切れた気分になった。
これも諏訪子のお陰だな。これが終わったら極上の酒でも振舞ってやろう。


「ッ!? 来るよ、神奈子ッ!」


ふと前を見ると、殺意に溺れた吸血鬼が獄炎の剣を翳(かざ)して襲い掛かってきた。


――いつの間にッ!?


ここまで接近されるまで気づかないとは、間抜けにも程がある。
だからこそ、反応することができた諏訪子しか動くことができない。


「くぅうううう…………!」


「諏訪子……ッ!」


気づけば諏訪子が、私の盾となっていた。
二輪の鉄の輪で燃え盛る紅の刃を間一髪で防いでいた。


「くっ……このッ!?」


すぐさま吸血鬼に殴りかかるが、彼女はいったん刃を戻し上空へと舞った。
身も凍るような冷笑を残したまま。
対して彼女の一撃を避けた諏訪子は、すでに満身創痍の身であった。


――くっ、打つ手なし……か。


そう思った時、諏訪子がちらりと私の眼を見た。


――制限(リミッター)解除するしかないよ、神奈子。


彼女がアイコンタクトで提案してきたもの、それは鎖を外すことだった。

制限(リミッター)解除。
神が地上で暮らす際、リミッターという鎖を付けられる。
それは、人と暮らすにはあまりにも強大すぎる力を封殺するためのものであった。
それが、リミッターと呼ばれる鎖。
だが、時として必要に力を求められるときがある。
そんな時、制限(リミッター)を解き放つことで、神本来の力を取り戻すのである。
だが私のリミッターはここではあまりにも危険だ。
諏訪子どころか、早苗や霊夢、果てはこの山の妖怪たち全てを巻き込んでしまう。
だからこそ、使うわけにはいかなかったのだ。

だが諏訪子は、それを使うというのだ。
正直馬鹿馬鹿しいと思うほどの提案だが、このまま吸血鬼とジリ貧となってもいい事はひとつもない。
非常に大きな賭けだが、こっちには奇跡の早苗がいるし、なんとかなることを祈るしかないか。
……神様が神様に祈るなんて、なんとも可笑しな話だけどね。


諏訪子にアイコンタクトを送ると、その後の行動は自分でも驚くほど素早かった。
まず、上空へ舞ってる吸血鬼を地面に叩き落すことが先決だ。
だからこそ、自分の持つ出せる限りの力を躊躇なく出す。
そうしないと、彼女を止めることはできないからだ。


「はぁぁぁッッッ――――!」


御柱が縦横無尽に駆け巡る。
彼女はそれを難なく避けながら、弾幕をばら撒いた。
所詮はただの流れ弾。私たちに掠ることがなかったが、神社はもう見る影もなかった。


――早苗たちはなんとか防いでいるようだね。


その事実を噛み締めながら、再び戦闘を開始した。
今度は御柱を四隅で囲いながら、弾幕の集中攻撃。
休憩する隙を与えないように、執拗に攻撃する。
そうした地道な攻撃こそ、明日の勝利へとつながるのだ。
ほら、先ほどまで余裕を澄ました顔をしていた彼女が引きつった笑みをしている。
幾分かは疲れが溜まってきた様子だ。
そう、今こそがまさに最初で最後の好機(チャンス)。


「とっりゃぁぁぁあああ――――ッ!」


彼女の背後に回り、御柱をその身にぶつける。
弾幕の嵐を避けるのに精一杯だった彼女は、避ける間もなく――。


「ぐぅぅううう……ッ!?」


吸い込まれるかのように地面へと叩きつかれた。
この瞬間こそ、この死闘の終わりを告げることになる。
地上では、ミシャグジ様の洗礼が待っているのだから。







「くぅっ……ここは……?」


苦痛に身を震わせながらも、辺りに必死に眼を凝らす。
そこは先ほど私のいた神社ではなく、どこか別の世界であった。
そこは暗く、沼のようにどろどろとした空間だった。
どう考えていても、私のいた場所ではない。
では一体、此処は何処なのだ?
その問いに答えるかのように、一人の少女が姿を現した。

金色の髪色に市女笠(いちめがさ)。
そしてその殺気に満ちた瞳を見た途端、此処が何処か理解してしまった。


此処は奴の世界。
奴の思うように弄ることが出来る世界。
この世界での私に、未来は無い。

そんな私の周辺から、白い何かが出てきた。


それは四つの真っ白な蛇だった。
その姿は、恐ろしいまでの威厳と狂気に満ちていた。
幽玄のように白く曇っている鱗、虚無を映し出している瞳。
本能が逃げろと警報を鳴らしているのが嫌でも理解できる。
だが、四体の蛇は私を逃がそうとしてくれない。
逃げる隙間さえ、与えてはくれなかった。


やがて一体の蛇の合図で、壮絶な生き地獄が始まった。
四体の蛇の鋭く尖った牙により、私の身体は何度も、何度も抉られた。
四肢が切断され、激痛に感覚が壊れそうになるほど、何度も。
だがそれでも私は死ななかった。
恐らくだが、四体の蛇を管理している彼女の計らいによるものであるのだろう。


――これが神様……か。


私は肉を食い散らかせながらも、狂気に顔が歪んでいたのだった。





――祟り神


『――赤口(ミシャグチ)さま――』 


諏訪子が制限解除することで発動可能になるスペルカードである。
地上に堕ちた蛙を跡形も無く喰い殺してしまう。
その恐るべき力こそ、ミシャグジ様だと言われているが私には分からん。
ただ、目の前に無残に喰われた吸血鬼(かえる)が残されていることが、その事実を物語っているのかもしれない。


「…………ぅぅ……」


微かに呼吸を繰り返すその肉塊は、すでに人としての形を留めていなかった。
四肢は捥がれ、臓器はぶちまけられ、頭部の半分以上は跡形もなく消え去っていた。
自然治癒能力の高い吸血鬼でなければ、即死であっただろう。
そんな姿にももろともせず、諏訪子が彼女に話しかける。


「ねぇ、あんた。何を企んでいるの?」


その質問に彼女は答えない。
ただ黙って、にやりと笑った。
次の瞬間、彼女の口から溢れんばかりの血が噴水のように飛び散った。


「舌でも噛み切ったか……くそっ!」


そして彼女の身体が青白い灰と化していき、この世から姿を消した。
これで、この異変は終わりを告げたかのように見えた。


「まだだよ、神奈子。まだ、終わってない」


「え?」


驚愕しながらも、彼女の言葉を黙って聴く。


「この灰。これは吸血鬼の死後、放たれるモノではないよ」


「なっ!? じゃあ何だっていうのさ、まさか偽者とかじゃないわよねッ!?」


「……その偽者(フェイク)である可能性が高いよ。これは恐らく、式神のようなものに違いない。
 どこかに術者がいて、彼女を模した式神はただ操られていただけに過ぎない。
 ううん、式神じゃなくてどっちかというと欠片に近いものを感じるかな」


欠片(カケラ)。
私たちの世界では、物質そのものが複数に分かれたときの各物質のことを示す言葉である。
欠片そのものは本体から出来ているものの、別物質のもののように自由自在に動くことができる。
ただし欠片が壊れても、それはそのまま本体へ文字通り"還る"のだ。
欠片を壊したところで、本体に直接的な痛みなどない。
むしろ、本体はどんどん元の力を取り戻していくのだ。


「まさかこいつが欠片だったとはね……厄介なことをしてしまったよ」


「欠片を潰しても、本体が強化されるだけ。事態は余計深刻になってしまうよ」


「しかもこんなに強いのが欠片とはね、つくづく泣けてきたよ私は」


そう嘆きながら頭上を見上げる。
漆黒に満ちた太陽が、高らかに笑っているように見えたのだった。






「ぅ……ううん……」


甘ったるい声を響かせながら、布団から起きる黒髪の少女。
その猫のような仕草に見惚れながらも、なんとか現実を意識する。

「霊夢さん、気がついたんですかッ!?」



「んん……早苗? ここは?」


「ここは守矢神社です。霊夢さんがいきなり倒れたんで看病してたんですよ!」


「そう……でもそんなことは聞いちゃいないわ。それよりも早苗――」



「私を、博麗神社に連れてって」


この時の私はまだ知らなかった。
この世界が、後数時間で崩壊してしまうほどの危機に直面していた事実に。




満身創痍リスト:


パチュリー・ノーレッジ
十六夜咲夜
レミリア・スカーレット
犬走椛
射命丸文
小悪魔


                   To be continued...


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