ほぼシベリア 東北カザフスタンを行く 2024年
4 コクシェタウ(3)
アパートメントに無事入れたので、身軽になって再び街に出る。今度はアウエゾフ通りを交差点の先へと行ってみた。街の中心でも、通りに面した建物は古くからあるのか、2階建てで田舎町の様相だ。
市場の反対側までくると、通りから少し引っ込んだところに郷土博物館がある。
門の前には、中央にレーニンの肖像を抱いたソ連時代、1958年の記念碑が残されていた。パンの生産と販売で1億2860万プードの目標を超過達成して、レーニン勲章をもらったのだとか。1プードは16キログラム強だから、目標値はおよそ200万トンになる。
敷地の中には石人が一体、立っていた。摩耗が激しく表情は伺えないが、両手を前に組み合わせているのはわかる。スキタイの石人の特徴である杯を持っているかどうかは微妙なところだ。
この博物館は後日、見学することにして、再び歩き始める。
博物館の前を通り過ぎると大きな広場に出た。広場に面して州政府庁舎が建ち、正面には並木の歩道が真っすぐ伸びている。都市計画の上では、ここが街の中心なのだろう。しかし、広場が大きすぎるので吹き抜ける風が冷たく、人々は足早に通り過ぎてゆくばかりだ。
広場の西面にはアビライ・ハーンの像が鎮座し、その背後には大きな公園が広がっている。列柱門を通って園内を歩いてゆくと、サーカスのチケット売場や観覧車が点在している。もちろんこの季節では営業していない。公衆トイレも閉まっている。
アウエゾフ通りと平行するアバイ通りを横断して、ひと区画分進む。ジャキヤ・モスクが塀の向こうに見えてきた。新しいけれども何だか軽薄な感じの建築だ。わざわざ見に来るほどでもなかったかなと思いながら敷地の角を曲がる。
すると、裏手に旧いモスクが現れた。こちらは木造で水色のペンキが塗られ、なかなか趣がある。窓まわりの装飾などはロシア風で、屋根のてっぺんに三日月がなかったらキリスト教会と区別がつかなそうだ。
さて、小腹が空いたのでこのへんでおやつにしよう。アバイ通りに戻り、ツム百貨店の前にある、ゼブラ・コーヒーという喫茶店に入る。2018年に創業したこの店は、今やカザフスタン全土に120店舗以上をチェーン展開しているという。ショッピングモールの類にも大抵出店していて、名前はゼブラでも、店内は青緑色が基調の内装に統一されている。
ショーケースを覗き込むとトライフルやマフィンのような英国菓子もあれば、アーモンド・スニッカーなどというものも並んでいる。そして、ひときわ色鮮やかな円いお菓子にはキリル文字で「モチ」とあるではないか。オレオの載った「モチ」とエスプレッソを注文して、2階の客席に上がる。会計は1770テンゲ(600円)となり、スタローバヤでの昼食よりも高い。
暮れゆく街を見下ろしながらいただいた「モチ」は羽二重餅のように柔らかで、砕いたオレオ入りのクリームがたっぷりと入っていた。
ゼブラを出たあとは、アバイ通りをひたすら東へと歩き、バスターミナルを目指した。バスターミナルは鉄道駅と道路を挟んで向かいあっている。空港のように大きなターミナルビルである。しかし、内部のホールにはわずかながらも明りが点いてはいるのだが、出入りする人影はなく玄関も鍵が掛けられている。そもそも玄関前の階段には雪が積もり、足跡すらないのだ。
不審に思いつつプラットホーム側へ回ると、お客らしき男性が二人立っているだけで、バスの姿も見えない。それでもこちら側からはホールに入ることができた。
しかし、そのホールは化物屋敷のようであった。一応、切符売場のひとつには明りがつき、係員が座っている。だが、その他に人影は皆無である。片側に並んだ売店も、地下にあるトイレも閉鎖されている。既に夕刻だから今日の発着は終わってしまったのだろうか。
ふと見ると、壁には暖簾のような時刻表がかかっている。わざわざこのバスターミナルに来たのは、所要1時間ほどのところにあるゼレンダという保養地に行くバスの時刻を確かめる為であったから、薄暗い中ではあるが子細に見ていく。だが、ゼレンダ行きの便は経由便が日に1本のみで、コクシェタウ始発の便には当面のあいだ運休との表示がある。これは、事前にインターネットで得ていた情報と同じであった。バスが一日一往復ではゼレンダ行きをあきらめた方が良さそうだ。なおも目を凝らして見てゆくと、ステプノゴルスク行きの便も日に数本あることになっている。
アウエゾフ通りを街の中心に戻り、新モスクの夜景を見に行く。青と赤のLEDランプによる照明は、美しいと言っていいのか、安っぽいというべきか微妙な感じではある。いずれにしろ、周囲が明るすぎないので、映えるライトアップだ。
スーパーマーケットのスモールに寄って、夕飯を買って帰る。今夜のメインディッシュは、マヨネーズとレバーが層になったトルト・ペチョーナチヌィ、つまりレバー・ケーキである。
アパートの前まで来たら、歩道に面して並ぶ花屋に蛍光灯がついていて、昼間見るよりもきれいに見える。一方で、アパートの窓から通りを見下ろしても、花屋の屋根が見えるだけなので、夜景もわびしい。
























