ニジェール川はピナンスに乗って 1990年

3 ボボジウラソ 

 

 

 ボボジウラソに到着したのは、ようやく空が白みはじめた時刻だった。尖頭アーチを連ねたスーダン式モスク風の白い駅舎がライトアップされている。失礼ながら、ブルキナファソにこれほど美しい駅があるとは意外の感がある。

 駅舎を眺めるのもそこそこにトイレに駆け込む。どうにもお腹の調子が悪い。駅構内にいたポリスに病院の場所を尋ねる。彼は停車していたタクシーの運転手に何事か命じて、私を乗せてくれた。

 タクシーが着いたのは国立病院の前であった。こんな早朝から診療しているのかと思ったが、救急サービスの窓口が開いていた。医師は処方箋を書いてくれ、料金は取らなかった。しかし、よく考えると薬局の場所がわからない。守衛に聞くと、すぐそばにあると言う。

 実際、指さされた方へ歩いてゆくと薬局はすぐに見つかった。もちろん開店前である。店の前を掃いている女性に処方箋を見せると奥へ入り、格子がはまった窓口からパンでも入っていそうな大きな包みを差し出した。3700CFA(1850円)となかなかの値段ではある。しかし、これでお腹に効いてくれるなら安いものだ。

 

 

 市街の中心部を縦断して、ロンリープラネットであたりをつけておいた、タクシーガレージ近くのホテルに投宿する。朝からチェックインしても特に追加料金などは取られない。

 

 

 午前中は少し体を休めて、お昼ごろから街歩きに出かけた。だが、内陸に来たせいかとにかく暑い。どこかで摂氏41度を指している温度計を見た。

 ボボジウラソは碁盤の目になった街路に並木が木陰を作る緑豊かな街だ。しかし、土の色は真っ赤である。いや、赤いというより濃いピンクと言った方がよい。これがラテライトというやつかと思う。

 

 

 

 街の中心は市場である。これもスーダン式モスクに似せた門があり、地面と同じく赤っぽい。全体に統制というものが無い感じの市場で、門の内側も外側も同様にバラックの店が詰まっている。さらに周辺の通りにも露店は連なり、靴や服、野菜といった生活必需品は豊富である。ウイスキーの瓶に小分けしてガソリンを売る店とか、化粧水の入っていた瓶を並べた店などもある。蚊取り線香や万金丹をバラ売りするのは少年の仕事で、トウモロコシを焼いて売るのは女の子の仕事らしい。なかには、木の皮やマタタビのような枝など用途が不明のものも商品として売られている。

 

 一方で、トイレットペーパーやミネラルウォーターは見当たらない。地元の人はこれらの商品を必要としないのであろう。小さな手押し車で瓶のジュースを売る人はあちこちにいるので、ミネラルウォーターのかわりに数本買っておく。部屋に置いておこうと、ホテルへ向かって歩き出すと、売り子の少年が後をついてきて「ブテ、ブテ」と言う。何かと思ったら、瓶を回収するのだそうだ。後で飲むのだと言うと、飲み終わったら瓶をドアの外に置いておいてくれと言い残して戻って行った。(このホテルの部屋は、広場のようなところに直接に面しているのである。)

 

 

 路上や市場の片隅ではボードゲームに興じる男たちの姿をよく見かけた。駒を斜めに動かして、相手の駒を飛んで取るのが基本ルールである。しかし、対角線を一気に動かしたり、駒を重ねたりする場合もあり、見かけよりも複雑なルールがあるらしい。一手、御手合わせをしてもらったのだが、ルールが飲み込めていないのだから、勝てるはずがない。

 

 

 

 街はずれのロータリを越えると旧市街である。旧市街といっても、小川に沿って小さな家が乱雑に建っているというだけで、あまり趣はない。ただ、白い塔を2基備えたグランドモスクがこの街のシンボルとなっている。スーダン式モスクの一種と言ってよいのだろうが、白く塗られているのは珍しい。とはいえ、思ったよりもずっと小さな建築で、門も閉まっていて中の様子は伺えなかった。

 

 

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