百済の古都と茶畑を訪ねて 2023年
11 宝城(2)
大韓茶園前のバス停で帰りのバスを待っていると、さっき海展望台で見かけた二人連れもやってきた。女の子のサンダルは無事だったようだ。
今度のバスは光州行きで、3列シートの高速バスタイプであった。運転席の脇にある機械にT-Moneyをタッチしようとすると、運転手がそれを制して、どこまで行くかと尋ねる。ポソンと答えると、ポソンのどこかと問うのでターミナルと答える。
このバスは、駅には寄らずに宝城の町はずれにある宝城共用ターミナルに直行した。ターミナルでは運転手が降りて来て運賃を預かり、屋外の壁に備え付けられた券売機で発券した。運賃も往路は900ウォンだったのに対し、1900ウォンと倍以上した。
それにしても、何と荒れ果てたターミナルであることか。店も無ければベンチすらない。もちろん無人で、夜など恐ろしくてここでバスを待つことなどできないだろう。
今夜の宿はバスターミナルのごく近くに位置する宝城観光モーテルである、宝城の町なかにあるホテルとしては唯一の施設であるし、いやしくも「観光」の文字を冠しているからにはまともなところと思料する。韓国のこの種の「モーテル」が外観ほど怪しげでないことはわかっているけれども、もう少し普通の建物にできないのだろうか。
チェックインするとアメニティ・キットの小さな袋をくれた。中には婦人用の化粧品に混じって、避妊具まで入っていた。
ついでに言えば、このクラスの宿泊施設だと、歯ブラシのサービスはあっても歯磨き粉が共用である。自分は大抵のことには動じないつもりだが、これだけは馴染めない。韓国旅行に自前の歯磨きチューブは必須である。
宝城のような町にもう一度来ることがあろうとは思えないので、ホテルに荷物を置いて出かける。町の真ん中に高台になった公園があって「列公楼」という額のかかった楼閣がある。しかし、園路や階段が工事中でたどり着くことができない。
駅のそばには「毎日市場」がある。ホテルのそばには「緑茶コル郷土市場」なる施設があって、そちらは2と7の日に開催の五日市なので、こちらは「毎日」と称しているのだろう。小さな市場ではあるものの、「毎日」の名にふさわしく、買い回り品がひととおりはそろうようである。但し既に夕方なので、殆どの店が閉まっている。
その他、町の中心には郷校や五忠廟といった史跡があることはある。いずれも観光施設ではないから、門の隙間や塀の上から覗けるだけで、特に郷校など住居として使われているようであった。
夕飯は緑茶コル郷土市場内の「特味館」という店に入った。市場の奥まった場所にある食堂だけは毎日の営業らしい。
宝城の町は緑茶首都を自称し、宝城郡を紹介する日本語のパンフレットまで作っている。実際、緑茶の生産量は韓国で一番に多いのだ。しかし、町は平凡な田舎町に過ぎず、この郷土市場が閉場していると、緑茶首都を思わせるものが何もないのはもったいない。
この店では、コマク(灰貝)の緑茶入りビビンパプを食べた。壁のメニューには「イプ(入)」の文字が先頭に書いてあるので、最初のうちは解読できなかった。
銀椀に盛られたビビンパプが出てくると、店のおばちゃんがコチュジャンとごま油を入れて、ぐいぐいかき混ぜてくれる。食べて見るとビビンパプ自体も、エイとレタスのキムチをはじめとした小皿の類もおいしい。もっとも緑茶の味は何だかわからなかったけれども、健康には良いはずだ。
最後に緑茶シッケも出てきた。これは中にふやけたご飯粒が入った甘い飲み物で、メキシコのアロス・コン・レチェを思い出させた。












