百済の古都と茶畑を訪ねて 2023年

3 扶余(1)  

 

 扶余のバスターミナルは市街の中央にあった。扶余の人口は公州の半分ほどに過ぎないが、市街地がコンパクトにまとまっていて活気が感じられる。

 予約した宿は中心部の南側にあり、坂を登ってゆく。扶余の中心部には南北二つのロータリーがあり、南側のロータリーあたりが丘の頂上に当たっている。地図を見ただけではこんなことも分からない。いくらストリートビューがあると言っても、画面上で見ることと実際にその場に身を置くことは全く次元が違う。旅行するということは、単なる情報が自分の経験や記憶に置き換わることでもあると思う。

 

 

 さて、ホテルの部屋に入り、甘~いコーヒーで人心地ついた。今日は日曜日で、国立扶余博物館の夜間開館日である。月曜日は休館なので、さっき公州の博物館を見学したばかりではあるが、扶余の方にも行ってみようと思う。

 その博物館については結論だけ言うと「公州」よりもずっと充実した展示であった。巨大な石槽が置かれた中央ホールの周囲にいくつか展示室があり、寄贈品の部屋にはカプセルホテルよりも大きいのではないかと思われる土器の壺もあった。

 

 

 

 

 博物館を出て、市街地の南端にある宮南池へ行く。日曜日のこととて、たくさんの市民がそぞろ歩きをしている。夕暮れ時なのに咲いている蓮の花もあり、この時間帯、紫色がひときわ鮮やかに見える。

 

 

 

 19時を回り、陽が沈んだ。池の中の島に建てられた楼閣がライトアップされるはずである。しかし、いつまでたっても照明は点かない。あきらめて、定林寺址へ向かう。この史跡、昼間は入場料を取るのだが、夜間は無料開放されている。しかし、足元が照らされているだけで、有名な石塔や来歴不明の石仏などには光が当たっていない。

 

 

 夕飯はバスターミナル向かいのチェーン店でかつ丼を食べた。ケチャップ味の甘いかつ丼である。他の料理に辛い物が多いから、その反動で甘いものが好まれるのだろうか。量は少な目であったが、まだ公州のバスターミナルで食べたチズ・キムパがお腹に残っていたので、ちょうどよかった。

 

            *      *      *

 

 

 

 ぐっすり眠って、翌朝6時40分、朝食を買いに宿を出る。大通りに出ると定林寺址の西門が開いている。一晩中開けっ放しのようだ。中に入り、昨晩は暗くてよくわからなかった石仏を拝む。

 

 

 

 

 

 

 市場に行けば何かしら食べる物があるだろうと思い、裏通りを北上する。つきあたりにある扶余中央市場は通路に裸電球が灯り、開店準備の真っ最中であった。なかなかに活気があり頼もしい。

 

 

 

 ところが元気があったのは入口付近の数軒だけであった。奥に進むと店こそ開いているものの人通りもなく、横丁などは天蓋が崩れ落ちてしまったところさえある。早朝で営業時間前だからかとも思ったが、昼間でも状況は同じであった。

 

 バスターミナルまで戻ると、向かいにパン屋が2軒並んであった。片方はチェーン店のパリ・バゲット、もう一方はエッフェルという店の名であり、どちらもエッフェル塔をロゴマークにしている。エッフェルの方に入り、野菜サラダを挟んだコッペパンと「コロッケ」を買う。「コロッケ」はコロッケを挟んだパンではなく、パンの名前自体が「コロッケ」という揚げパンである。ずっしりと重いパンで、ふたつ食べただけでお腹がいっぱいになった。

 

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