2025/11/28 | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、写真家・星野道夫のエッセイ『ゴンベの森へ アフリカ旅日記』を、一部編集してお送りしています。


今夜はその最終夜。


「ジェーンの滝」の、3日目。


チンパンジーの観察・保護の世界的研究者、ジェーン・グドールの招きで、タンザニア・ゴンベ動物保護区への10日間の旅。


毎日のように夕立が来て稲妻が光り、また嘘のように晴れ渡る。


あるリラックスした午後、昆虫の動きをじっと見つめるジェーンの姿に、星野道夫は自分の住むアラスカの体験を思い出す。


そして、ジェーンが著書の中に書いた、彼女の原点に思い至るのだった。


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雨上がりのある午後の事だった。


私たちは森の木陰で休みながら、とりとめのない時間を過ごしていた。


ふとジェーンを見ると、目の前の草むらをじっと見つめている。


1匹の蜘蛛が、雨露に濡れた草むらで、糸を張っているのだった。


蜘蛛もまた夕立に濡れたのか、雲間から差し込む日を受けて、光っている。


そしてゆっくりと確実に、どれだけ美しい糸を織っているかも知らずに、自分の仕事を果たしている。


そんな、何でもない風景に、僕もいつも惹きつけられた。


その土地に特別にあるものではなく、どこにでも共通する世界を発見する事が、不思議で面白かった。


いつか、アラスカ北極圏のツンドラで、カリブーの大群を待っていた日があった。


じっとしていても、Tシャツが汗で濡れてくる。


暑い暑い北極圏の、夏の午後だった。


見晴らしのきくベースキャンプ近くの丘に登り、双眼鏡で見渡しても、気の遠くなるようなツンドラの広がりに、1頭のカリブーさえ見当たらない。


ザックを下ろし、土の上に寝転んだ。


24時間の太陽エネルギーを浴びた地表は、温かかった。


ふと気がつくと、10センチメートルほどの目の前を、名も知らぬ小さな虫たちが、動き回っている。


しばらくして、川向こうのツンドラの彼方に砂埃が見え、津波のようにカリブーの大群が向かってきた。


やがて、辺りはカリブーの海となり、全ての群れが通り過ぎるのに、4〜5時間はかかっただろうか?


気がつくと視界には、1頭のカリブーもいなくなり、アラスカの自然が見せてくれる、この動と静の世界に、ただ圧倒されていた。


そして、あの日の記憶の中に、目の前で動き回っていた名も知らぬ虫たちの風景が、不思議に生き生きと残っているのである。


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蜘蛛の巣にじっと見入るジェーンを見つめながら、まだ彼女が5歳の子供だった頃の初めての自然との出会いを、思い出していた。


「まだとても小さかったのですが、その時の事はとてもよく覚えています。


実は、卵の事で頭を悩ませていたのです。


一体、メンドリのどこに、卵が出てこられるような大きさの穴が空いているのかしら?


自分で確かめる事にした私は、じっとしゃがんでいました。


風の通らない、とても暑い所でした。


でも、藁で作った巣の上に座っているメンドリは見えました。


メンドリは鶏小屋の向こう端、私から1メートル半ほどの所にいて、私がいる事に気付いていませんでした。


ちょっとでも動いたりしたら、全てを台無しにしてしまうでしょう。


だから、じっと静かにしていました。


巣の上のメンドリみたいに。


やがて、実にゆっくりと、メンドリは巣から体を持ち上げました。


そして、私の方にお尻を向けると、前屈みになりました。


メンドリの両足の間の羽根の中から、丸くて白いものが、少しずつ押し出されてくるのが見えます。


それは、だんだん大きくなってきました。


突然メンドリは、軽く体を振るわせ、ぼとっ!


それは、藁の上に落ちました。


卵が産まれるところを、私はこの目で見たのです」


彼女をずっと支えてきたものは、卵を産むメンドリをじっと見つめていた、5歳の頃の自然への思いではないだろうか?