2025/6/11 旅の窓からでっかい空をながめる③ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、作家・椎名誠のエッセイ『旅の窓からでっかい空をながめる』を、一部編集してお送りしています。


今夜は、その第3夜。


「南の窓」の章から、「バリ島の心地よさ」。


世界中を旅してきた椎名が、心地よいと言う、インドネシアのバリ島。


ビーチリゾートで有名だが、彼が愛するポイントは、他にある。


『JET STREAM』の番組WEBサイトでは、椎名誠が旅の中で撮影した写真も、ご覧いただけます。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


バリ島は、いつ行っても、魅力的な島だ。


季節を問わず、そこを訪ねると、必ず思いがけない風景に出会う。


島の人々の、民族の伝統に彩られた風習・食べ物、激しく変わる山・海・川・水田の景色に、いつも魅了される。


インドネシアは、複雑な多神教の国で、バリ島はヒンドゥー教だった。


けれど、インドにあるような、厳粛な意味での偶像崇拝を基盤にしたヒンドゥー教とは、少し色合いが違う。


その辺に生えている木も、流れる川も、野辺に咲く花も、もっと言えば、吹いてくる風も、全てに神が宿るという考え方だった。


沢山の神様がいるので、偶像崇拝のある所では、それを巡っての祭りが、至る所で行われている。


特に、祭りが集中的に行われている季節に旅すると、歩いていく道の角とか、海辺など数々の場所で、次々に庶民の喜びの笑顔や時間に、触れる事ができる。


神に捧げる共通した踊りがあって、大きな舞踏の場に、ガムランという、バリ島の伝統的な庶民の音楽がある。


僕は、バリ島ほど竹を使った文化の国を、他に見た事がない。


一般の生活から、そうした祭りの華やかな場に至るまで、竹を使った装置がびっくりするほど、有機的・効果的に備えられ、軽やかに、楽しげに使われているのを見た。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ガムランは、あらゆる太さの竹を、様々な長さに切ったものを集め、それを手や木や竹の棒で叩いて、様々な音を奏でる伝統音楽だ。


小さなスケールのものでも、20人ぐらいがその竹楽器に取り付いて、演奏をする。



[ガムラン]


当然ながら、細い竹は小さく甲高い音、太い竹は大太鼓の如き、大きく力強い音が奏でられる。


笛の音のリードの下に、これぞ竹のオーケストラ、という様相を見せてくれる。


バリ島では、それをジュゴクと言っていた。


舞台では村の娘らが、ほぼ日常的に練習しているらしい、神への踊りを演じている。


色とりどりの煌びやかな衣装と、かなり濃いめの化粧が、子供たち、特に女の子たちの憧れの的になっているようだった。


[踊り子]


どの子の目も、午後の木漏れ日の中でキラキラ光り、自分も大きくなったら、あのように素敵な音楽の中で踊るのだという、希望に満ちた息吹が伝わってくる。


至る所で、こういう祭りが行われているので、どこか基本は同じなのだろうが、村々によって色々なバリエーションに彩られ、地域によっての違いを見ていくのも、楽しい。


バリ島に住む人々が大切にするこの伝統文化は、頑なに守られ、ともすると急速に変化していきがちな、途上国の物質文明崇拝の気配が、多分ある程度の見識によって、抑え込まれているのだろうな、という感触がある。


コンビニなどが1軒も無い、笛と太鼓の音が聞こえる道を行く旅は、心が豊かになっていくような気がした。


【画像出典】